第7話 種の繁栄

「じゃ、それに着替えてね。 私は姫様のところに戻るねー」


 その言葉を残してリーンは元の姿に戻ってリビングに移動をした。

 背後からその姿を見ていると、美桜にしか興味がないように思えてくる。


「リーンさんは夕凪さん以外にはあまり興味がないように見えるな。よっぽど好きなんだろうなー」


 一人で呟きながら買ってきてもらった寝間着に着替えると、青い色に雲の模様が多数描かれている服であった。子供っぽいと思うがピッタリと着れるので子供用ではないと分かる。

 溜息を吐きつつリビングに移動をすると、美桜とリーンがソファーに座って寛いでいる姿が目に映った。

 二人でソファーに座って寛いでる。違う種族だけど、あんな風に仲良くできるんだな。姉妹みたいに見えるけど、そんなことを言ったら怒られるんだろうな。

 出雲は仲良さげな二人に向けて歩いていき、話しかけることにした。


「お風呂ありがとう。さっぱりしたよ」

「なら良かったわ。汗をかいたらまずはお風呂に入らないとね!」

「ありがとう!」


 そう言いながら美桜の右隣に座るとペットボトルのお茶をもらった。

 まだ開けていないようで、リーンが一緒に寝間着と共に買ってきたらしい。もらったお茶は緑茶なようでとても美味しく、体の芯に染みわたる味を感じた。


「さて、まだ話していないことがあるわね。何から話しましょうか」


 別世界のことなのかどの話をしてくれるのか分からないが、ついに詳細に聞けるのかと緊張をしてしまう。


「どんな話をしてくれるの?」

「そうね……何を話しましょうか……」


 天井を見上げる美桜。

 どこかその顔は悲しんでいるような気がした。


「今言えることと言えば何かしらね……私やリーンがいる世界の種族の話でもしましょうか」

「種族?」

「そうよ。この世界とは違って、知性を持って文化を形成している種族がたくさんいるの。例えばさっきこの世界に来ていた鬼とか、リーンのような精霊とかね」


 この世界にいるような人間だけではなく、様々な種族がいることを教えてくれた。


「ちゃんと私のような人間もいるから安心してね。ちなみに人族が一番人数が多いわ。次に鬼族かしら? いや、妖族かしら?」


 また新たな種族名が出ると、リーンが二番目は妖族だよと教えてくれた。

 妖族とはどんな種族だと思い美桜に出雲は聞いてみることにする。


「妖族ってどんな種族なの?」

「妖族はね、この世界でいうところの犬や猫などの動物が人型をしている種族ね。顔とかはちゃんと人間のような顔をしているわよ」

「そうなの!? 想像と違ったなー」

「この世界でいうコスプレをしている人ってイメージで良いと思うわよ。どういう進化をしたかは不明だけど、侵略に対抗するために進化をしたらしいわ」


 多くの種族がいるんだなと思いながら話を聞いていると、美桜は自身の国のことを話し始めた。


「私の国は大和王国っていうのよ。人族の住む地域を治めている大国で、私はそこの第二王女よ」

「私も精霊皇国の第二皇女ですー!」


 突然リーンも王族だと言ってくる。

 まさか二人共だなんて思ってもいなかったので、凄いなと身分の差を感じてしまう。


「そう畏まらなくても良いわよ。もしリーンが嫌っていたらすぐに存在を消されるわよ」

「そうだよー。こうしてこうして潰しちゃうもん!」


 何かを潰すジェスチャーをリーンはした。

 もしかしたら潰されて殺されていたと冷や汗をかいてしまうが、嫌われなくてよかったと安堵をして胸を撫で下ろす。


「妖族と精霊族、そして人族は友好関係にあるわ」

「全ての種族とじゃないの?」

「そうね。鬼族や竜族などの好戦的な種族と戦うために協力関係を結んでいるといってもいいわね。ちゃんと文化的交流も三国はしているから、もし私達の世界に来ることがあれば案内をするわよ」

「ありがとう! 楽しみ!」


 美桜と話していると時間を忘れる気がして楽しいと感じる。

 ついこの前までは話したこともない同級生であったのに、気になって追いかけたことでこのような状況になるとは思ってもいなかった。


「さて、今日の説明はこのくらいにしましょうかね。もう二十三時になったし寝ましょうか」

「もうそんな時間なんだ。早いなー」


 いつの間にか時間が経過していたようだが、まだ話したいという気持ちが大きかった。しかし、リーンも寝ると言っていたので寝るしかないかと心の中で落胆する。


「ちょっと寝る場所なんだけど、客間がないからこのソファーで寝るのでいい? ごめんね」


 両手を合わせながらごめんねと言った美桜の顔はとても可愛かった。

 その姿を見ながらここで良いよと返答をすると、余った毛布を貸してくれることとなった。


「これで大丈夫かしら?」

「うん! ありがとう!」

「じゃ、明日も学校だしゆっくり休んでね。おやすみなさい」

「おやすみ」


 言葉を交わすと美桜がリビングの電気を消してリーンと共に出ていく。

 リビングに一人で残されると途端に寂しくなってしまい、さらに同級生の家に泊まることで緊張で眠れない。


「眠れないな……妙な緊張感で眠れない……」


 目を閉じても全く眠れない状態で数分間ソファーに寝転がっていると、脱衣所の電気がついて水の流れる音が耳に入ってくる。

 誰が入っているんだと呟くと、リーンは寝ると言っていたので美桜であろうと考えた。


「俺が先に入ったからこの時間になったのかな? なんか申し訳ないな……」


 シャワーの音がさらに大きくなり、美桜が体を洗っている姿を想像してしまう。

 美桜の体や洗っている姿を想像すると心臓が鼓動を打つ速度が徐々に早くなっていく。


「ダメだダメだ……考えるな……考えるな……」


 ソファーで膝を抱えて毛布を被っていると脱衣所から鈴が鳴る音が聞こえてきた。

 どうして鈴の音がと考えていると脱衣所から大きな音が聞こえてきてリビングの扉が勢いよく開く。


「黒羽君起きてる!? 大変!」


 突然入って来てリビングの電気を付けた美桜は、出雲が被っている毛布を勢いよく剥いできた。


「お、起きてるよ。何があったの?」

「また私の世界からこっちに来た種族がいるみたいなの! こんな夜中に来るなんて初めてのことだわ!」

「それ本当なの!? 大変じゃん!」


 大変と言いながら美桜を見るとその姿は髪が濡れていてバスタオルを身に纏っているだけであり、凄まじい色気を放っていた。

 バスタオル姿の美桜を見ると鼻がツーンとするを感じ、指で鼻を触ると鼻血が流れていることに気が付く。


「うぐぅ!」


 床に垂れないように両手で鼻を覆うと、美桜が何かあったのと下から顔を覗き込んできた。すると視線の先に豊かに実っている美桜の胸が現れた。

 その胸はバスタオルによって寄せてあげられており、制服の上からは分からなかった美桜のスタイルの良さが強調されている。


「鼻血が出てるじゃない! ティッシュティッシュ!」


 慌てながらダイニングテーブルに置いてあるティッシュ箱から数枚取り出して、出雲に使ってと手渡した。

 ティッシュを受け取ると小さく千切って鼻に入れたり掌に付いた血を拭くが、視線が美桜の体やその大きな胸元にいってしまうので、血が止まる気配がない。

 夕凪さんって凄いスタイルをしていたんだな……目を逸らしたいけど目線が引き寄せられちゃう。そんなに近寄られたら理性が!


「急にどうしちゃったの!? 何かあったの!?」

「いや……それは……」


 目を外そうとしても自然と目が美桜の胸元に引き寄せらてしまう。

 見ちゃダメだと思いながらもその魅力溢れる胸元を見てしまっていると、その視線に気が付いた美桜が顔を紅く染めて両手で胸を隠した。


「見たのね……見たから鼻血を出したのね?」

「え、えっと……はい……」


 言葉を発した瞬間に右頬に強い衝撃を受けた。

 勢いよく掌で叩かれてしまったので鼻血が噴き出してしまい、床に飛び散ってしまう。


「あ、ごめんなさい! つい叩いちゃった!」

「俺が悪いから大丈夫だよ……」


 ティッシュを手に持って床に飛び散った鼻血を拭いていると、美桜がこんなことをしている場合じゃないわと声を上げて慌てている。


「まだ詳細は見ていないけど、駅の近くにまた私の世界から来た種族がいるのよ! 早く行かないとこの世界に被害が及ぶわ!」


 被害と聞いてそれはダメだと声を上げてしまう。

 もしかしたら自身の家にまで被害が広がってしまうかもしれないので、すぐに行こうと美桜に言う。しかし、バスタオル姿であるために着替えてくるわと言いながら美桜は自室に移動をした。


「今のうちに着替えたり準備をしておこう。とりあえず鼻血を止めるか」


 ティッシュを鼻に詰めたりして美桜が下りてくるのを待つことにする。

 ソファーに座ってテレビを見たりして時間を潰していると、美桜が制服を着て降りてきた。


「リーンは起きなかったわ。二人で行きましょう」

「分かった!」


 鼻血が止まったので鼻に詰めたティッシュを取って、美桜と共に出現した場所である駅に向かうことにした。

 時刻は深夜であるので静かなのも相まってどこか怖い感じがするが美桜は駅の方角を見つめながら歩いており、自身が感じている怖さを感じていないように見える。


「もうすぐ駅ね。どこにいるのかしら?」

「いそうな気配はしないね。どこかに隠れているのかな?」


 駅に到着をすると、終電は既に終わっているのでシャッターが下りているのが見える。周囲に誰もいない静かな物音一つない駅に、美桜の世界から来た人がいるとは思えなかった。


「本当にいるの?」


 そう言葉を発した瞬間、美桜に勢いよく突き飛ばされてしまった。


「な、何をする――」


 転びそうになりながら背後の美桜の方向を向くと、自身がいた場所に数時間前に元の世界に送り返した角を生やした男性が刀を振り下ろしている姿がそこにあった。

 美桜はいることに気が付いていたようで、出雲を助けるために突き飛ばしたようである。


「いるって言ったでしょ! 気を抜いたら死ぬわよ!」

「ご、ごめん! まさか本当にいるなんて思ってなかった!」


 角を生やした男性を見ながら出雲と美桜は武器である刀を出現させる。

 共に刀を構えると、目の前にいる角を生やした男性を見据えて早く帰りなさいと美桜が声を発して話しかけた。


「どうしてまた来たの! なんでこの世界に固執するのよ!」


 美桜は構えたまま話しかけ続けると。角を生やした男性は種の繁栄のためだと言葉を発した。


「鬼族の生活圏を広めて、繁栄のために決まっているだろう! もう一つの世界であるここを征服すれば俺は一気に鬼族の王になれる!」


 この世界を征服して鬼族の王に? そんなことをさせるわけないだろう! そんな目的のためにこの世界を征服させるものか!


「そんなことはさせない! この世界を好きにさせるものか!」

「ちんけな人間風勢が何を言う! 俺は鬼族の豪天道鬼! 最強の鬼になる者だ!」


 名前を叫びながら黒いオーラを身に纏い始めた豪天道鬼は、筋肉が盛り上がって筋骨隆々の姿に変化をした。

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王女殿下の守護騎士 天羽睦月 @abc2509228

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