第2話 夜空に光るもの

同僚の誘いを断る男がいた。その男はサラリーマンで独身、親が住んでいた一軒家を引き継いでいて、寂しさと退屈から犬を飼い始め、毎日仕事から帰った後は散歩をするのが日課であり、気晴らしになった。

 男は疲れを見せるように家の前の階段をうるさく上る。自宅のドアを開けると小さくゆっくり尻尾を振っている愛犬が目の前で待っていた。男はその行為が自分か散歩に対しての表れなのかわからないまま鞄を置き、玄関に置いてあるリードと袋を持ち家を出た。

 男は下で鳴っている砂やコンクリートの踏む音を聞きながら、上の光の景色を楽しんでいた。草木が静かに揺れるのを薄く照らす家やマンションの個々の明かり。それは毎回違う景色に変わっていて、毎日が同じでは無いことを感じられた。しかし、夜空は違っていた。少ない星にパターンが決められている月。静かに星の下を通る赤い点を三つ付けた飛行機。この寂しさが残る夜空に不満をぶつけるように今日もまた、大きいため息をつく。

「星が満点になる日は来ないものか…」

男の声に反応を示すことなく、犬は黙々と前に歩いていく。

 月日が経つにつれ、男は夜中の散歩という楽しみが薄れ始めた。精神は落ち着くものの、何処かつまらなさを感じていた。犬が相変わらず尻尾を振って待っているので散歩に出かけるが、恐らく犬がいなかったらさっさと風呂に入り寝ているだろう。男はそう思いながらも今日も散歩に出かける。建物の個々の明かりも同じに感じ、視線を夜空に向ける。満月に近い月に少ない数光を放つ星々。そこに赤い点がふと現れ、一瞬驚きと好奇心に満ちるが、すぐにいつものやつかとがっがりする。

「たまには色を変えて飛んで見せてくれよ。」

 ボソッっと期待が籠っていない願望を吐き捨てながら同じ道を歩く。

 男は帰宅し、風呂やご飯などまた明日に備えて自分を調整し、布団に入った。すると、頭の中で声がした。

「…えますか?聞こえますか?」

男は驚き目を開け、周りを見渡すが、犬が一匹寝ている以外特に何もいない。

気のせいかと男はまた、目を閉じた。

「…聞こえますか?聞こえたらそのまま返事をしてください。」

不思議な出来事に不気味さより興味深さのほうが強かった。

「…はい。これでよろしいですか?」

「結構です。ありがとうございます。声に出さなくても大丈夫です。脳で伝えてくだされば。」

思わず口を閉じる。

「えっと…これは…」

「どういう状況か説明致します。私は別の星から来た生物です。あなた達からしたら宇宙人といったところです。」

「はぁ。」

「私たちは各星を周り、文化や生物を見て回っています。そして私達と話しをしてくれる生物を探していました。それが人間であるあなたです。」

「なぜ?私なのですか」

「長い時間この星を観察してきましたが、あなたのような群れない人間を探していました。他の生き物は脳に無駄な意識が入っているため、信号を送るのが難しく。また下手に何かされたら困るので。」

「なるほど。でも何を話すのです?私に出来るのでしょうか。」

「簡単なことです。筆問をするので、思った通りに答えてくれれば良いのです。そちらの星でいうアンケートみないなものです。」

「こちらの星のこと詳しいのですね。どうやってお調べになったんですか?まさか、もう地上に降りているのですか?」

「それはありませんが、あなた達の身近にいることは確かです。」

「では、何処に?」

「まあいいではないですか。さあ、始めますよ。」

男の質問をはぐらかし、地球についての誰でも知っているような質問をする宇宙人。「…これで以上となります。ありがとうございます。では」

「ちょっと待ってください。そちらの要望に応えたのです。私にもその権利が…」

「…わかりました。では何を?」

「私と毎日の話し相手になってくれませんか?」

「それはできません。こちらもやることがあるので。」

「では、私の生活に変化をください。私の生活は毎日の繰り返しでつまらない。どうかこの退屈な日々をどうにかできませんか。小さなことでもいいのです。」

「わかりました。では。」

そういい、男との会話が終わった。男は何をしてくれるのかわからず、明日を迎えた。仕事や通勤。特にいつもと変わらないことに宇宙人に対して腹立たしさを憶えながらも帰宅し、散歩に出かけた。心を落ち着かせるために、夜空を見る。小さく光る星。満月の月。その下を通る赤い点三つ。でも今日はその赤い点が青や緑に変わり、しばらくしてまた赤に戻った。男は少し笑みを浮かべ、犬と共にいつもの道を歩いた。


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