覚醒薬

@umibito__

第1話 覚醒薬

「やっと完成した。」

 薄暗い部屋からゼン博士の声が籠って聞こえてくる。

「ついに完成したんですね!」

助手のソースが床に散らばっている研究の資料や道具をどかしながら完成した薬を見に行く。ゼン博士は眼鏡を拭きながら自慢げに口にする。

「作るのに長い時間が掛かったが、そんなものはどうでもいい。この薬。脳を百パーセントまで活動を可能にさせる薬がこうして私の目の前にあるのだから。」

「そうですね。この薬があれば私達人間はさらに進化し、超人になるのですから。」

目の前のフラスコの中に入っている青く透き通った液にソースは目を光らせていた。そんなソースを見てゼン博士はフラスコを手に取り、すぐ側に置いてある小さいビーカーに注ぐ。そのビーカーをソースの前に置いた。

「この時代の最初の超人になってみるか。」

「いいんですか!しかしまだこの薬の安全性が分かっていないまま飲むのは…」

「確かに今回はこの薬の被験者はいなかった。研究で友や金を失ってしまったからな。だが、そのかわり安全性を重視しながら作った。最初は私が飲もうとしたが、君がこの薬に向けられた好意に感動した。」

「博士…」

「安心しろ。この薬を飲んでも倒れることはまずない。さあ、グッと。」

「わかりました。」

ソースはビーカーに入っていた薬を全て飲み干し、空のビーカーを見たまま止まっていた。

「どうだ?変化はあるか?」

「…今はまだ何も。」

「そうか。恐らく、効果が出るまで時間が掛かるのだろう。しばらく休むといい。」

「はぁ。」

ソースは残念そうに部屋を出た。

 

 翌朝。ゼン博士の寝室にソースが慌ててドアを開ける。

「博士。凄い効果です。」

寝ていたゼン博士はドアの音で目が覚め、起き上がる。

「なんだ人が久しぶりに気持ちよく寝ていたのを邪魔して。迷惑な行為だとわからないのか。」

「それを知っての行動です。それより、凄いんですよあの薬の効果が!さすが博士です。」

ソースの声で不機嫌になりながらも眼鏡をかけようとするが、手を滑らせ床に落としてしまう。舌打ちをしながらも取ろうとベッドから降りようとする。

「博士。待って下さい。そのまま腰をかけてく下さい。」

ゼン博士は腰をかけながらソースの行為が薬のせいなのかと疑っていると、右手に何か当たるのを感じた。感じたものを手に取り、それが何なのかすぐにわかった。

「眼鏡を取ってくれたのか。それはありがたいが…」

眼鏡をかけ、ソースに注意しようとするが、ソースの方が早かった。

「見てて下さい博士。」

そう言うと、ゼン博士の胸ポケットに付いていたペンに目を集中させた。すると、手を使わず見事胸ポケットから取り出し宙に浮かせて見せた。先が鋭いゼン博士のペンは護身用でもあったため、常に胸ポケットにしまっていた。

「どうですか博士。驚いたでしょ。さっきの眼鏡も私が宙に浮かせて博士の手元に置いたんですよ。」

「これは。どういう…」

その光景を目にしたゼン博士は驚きを隠せないでいた。

「薬の効果です博士。脳が活発な活動を行っているせいか昨日から眠れず、物を浮かしたり、空気の流れを変えるなど様々なことして朝を迎えたんです。今も眠気は無く、何かもっと色々なことをやりたくて仕方がない気分です。もう最高です。」

目が限りなく開かれているソースの姿にゼン博士は心配したが、本人が最高ならそれでいいと納得した。そして、ゼン博士は他に何が出来るのか興味をそそられソースに様々なことをさせた。透視や数キロ離れた音を確認できるや、人々が何を思い何を感じているか分かるようになった。驚きの結果にゼン博士は喜び資料にペンを躍らせるが、ソースの心もそれ以上に高まっていた。次第にソースは悪ふざけをするようになり、街の人を操り殴り合いの喧嘩をさせたり、銀行をハッキングして金を引き出したりと薬の効果を存分に楽しんでいた。ゼン博士は止めに入ろうとするも、ソースの姿に怯えて記録することしか出来なかった。

 

 薬を飲んでから十日目。ソースは街中で突然倒れた。ゼン博士は倒れたソースを研究室に連れて帰り、目隠しをし体を縛り付け拘束した。数時間後、ソースは目が覚めたのか、暴れ始めた。

「君を解くわけにはいかない。悪戯がすぎたな。そのまま少しばかり反省しなさい。」

ゼン博士の叱りに反応せず、壊れたおもちゃのように暴れて続けるソースに麻酔を打つ。しかし静かになることはなく、それどころか激しく暴れ始めた。同じくして部屋も揺れ動き、研究室に置いてあるものが床に落ち、ガラスの割れる音が響く。

「おい。やめんかソース。いい加減にしろ。」

顔をひっぱたいた拍子に目隠しが取れた。

「なんてことだ。」

ソースの目はラジコンを操作するスティックのように上下左右に移動し続けていた。脳が目を操りきれていないのだろう。ゼン博士はすまんと口にし、胸ポケットに付いてあるペンで頭を一突きした。ソースは静かになり、ゼン博士は泣き崩れるもその時間は短いものだった。ソースが起こした地震で建物などが崩れ人々が叫ぶ中、津波が発生し過去最大の被害が発生するのだから。それとは別に覚醒した脳は人々の思いを受信し、波打つようにゼン博士の前で活動しているのだった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る