異能なんていらない

ぺらねこ(゚、 。 7ノ

エルフだからってメンタル強くない。

 私は仁淀卯月によどうづき。エルフだが、人間界で20年ほど暮らしている。エルフヘイムでは、生まれたときから1000年ほど神子として神座に据えられ、上げ膳据え膳の巫女様待遇だった。のだが、任期が明けてからというもの、今度は一転して娑婆の勉強だ、人間社会を見てこいということで、ただの無力なエルフとしてこっちにやってきた。

 私が派遣された土地が日本だったのは、かなり厳しいが、ご飯が美味しいから良しとしよう。どうも神座にいたときのご飯は、体にいい質素なものばかりであり、肉なしポトフとパンか野菜みたいな生活だったので、出汁という概念に驚愕するところから始まった。

 なぜエルフにとって日本が厳しいかというと、マナ(魔力)が薄いのだ。日本には人間がたくさんいて、それぞれ違う神をたくさん持っている。主なものはアミニズムだが、ちょっと角を曲がるとお地蔵様がいらっしゃったり、歩いていける範囲にお寺と神社と教会があったり、ふわっとした自覚とは裏腹に、全域マナの取り合いをしているような状態で、ただのエルフで土地に縁も薄い私が使える魔力なんて、引き出しようが無い。土地の偉い神様の分を横取りしたら、どのくらい怒られるか、想像がつくと思う。

 というわけで、魔力はちょいちょいあるけれど、魔法を行使することはできない不思議な環境で、延々と歯噛みしている。

 

 私がエルフヘイムでやっていたのは、大規模な災害予測である。エルフヘイムでは国土も小さいし、地震もすくない。治水もさほど困ってはいないので、何となくいつもと違いそうだったら、なんかやな予感するー。と伝えるだけで良かった。

 それより高度な予測は、神子の発言を解析する専門家が吟味して、対策をするので、私としては感覚を研ぎ澄ませていれば良い。

 当然マナが多い土地ゆえ、災害の予測精度も日本にいるより正確だ。大体の日時や方角なども分かった。

 それがである。日本では全く通用しない。なんか嫌な予感がするなーといっても、誰も解析を手伝ってはくれない。地震の予測をしても「あのー 震度4くらいがー近々起きそうなんですけどー」みたいな、エルフヘイムでは神子付きの技官が大騒ぎすらようなことでも、日本人は震度4で怪我人も火災もださずにケロリとしている。エルフとしては、地面がゆれるだけでくっそ怖いのにである。

 そして、神子の座を譲ったため、ふわふわ予想になっているとはいえ、地震予知の力があれば人間界での修行中も、仕事には困らんだろうと思っていたのだが、人間界の予測のほうが精度が高く、私の仕事はなかった。

 

凶悪な事件についての予測能力に至っては、なんか嫌な夢を見たり、デジャヴでやべえ事起きるぞと私にはわかるのだけど、いつどこで誰が……いわるゆる5W1Hがまったく揃わない。

 5W1Hが揃わなければ、正確な予言にはならないから、誰も警戒しない。そして、最悪の結果になりがちである。もう少し詳しく予言できればと悔やむようなことが多いが、マナがない状態で虫の知らせが来るのだけでもすごいことではある。

 エルフヘイムに何度も泣き言を入れたが、人間界での修行は短縮にはならないらしい。100年のうちあと80年ほど、私は使えない未来予知で勝手に削られながら働くしかない。


 さて、人間界ではポンコツな私だが、人当たりは悪くない。そこで、私の仕事場はコールセンターになったのだが、数年勤めていると、電話口の相手の声だけで、なんとなく展開がわかるようになってきた。職場の人間には、たまにエスパーみたいですねとか、あの難しい状況良くさばけましたねとかいわれるが、エルフヘイムと同等のマナがあればもっとかんたんに見通せているし、人類の悩みなんて、いついかなる時代でもエルフヘイムで持ち込まれる悩みとあんまり変わらない。つまり、解決してもなにやら不思議な気分である。

 最近は見えてしまった未来のことはできるだけ言及せずに生きているが、これはこれでストレスがたまる。コールセンターとやらもストレスをもたらす名前を呼んではいけないヴォ様から電話がかかってくるので、気を抜くこともできぬ。

 ゆえに、わたしは会社を出たら一階のコンビニで氷結9%を買うようになってしまった。その日のストレスその日のうちにである。

 適当なホットスナックを貪りながら、9%で胃に流し込む。それが最近の私の生活の全てだ。

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