第六話

 ・・・


 バスケ鑑賞が終わってから、紅葉に連れられておしゃれなカフェに来るまでの間、私たちは終始無言だった。


「カフェラテとカプチーノ、1つずつお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


 紅葉が飲み物を頼んでくれる。



 …………………。



 一緒にいる時間が長いだけあって、無言の状態が苦なわけではないが、今日は場合が違う。


「紅葉、話あるんでしょ?何?」


 紅葉は窓の外を見つめている。


「………汐音。私はさ、汐音に無理に進む必要はないって思ってんのよ」


 紅葉はそのまま、言葉を発する。


 いつか聞いた言葉だ。何の事だかは今聞いても分かっていない。


「だけどさ、私は進んでほしいっても思ってるの。自分でも言ってる意味分かんないって思うんだけどね」


 汐音がこっちに向き直って、ふっ、っと悲しそうに笑う。


 ああ、そうか。


 紅葉はこのことに触れる度こういう顔をする。


 紅葉の話そうとしていること、今やっと分かった。


「ずっとあのことに囚われてる汐音見てるとさ、なんかやりきれなくって。

 あの頃の汐音すごい楽しそうだったのに、今はなんにも積極的じゃなくなっちゃって。いっつも楽しそうに笑ってた汐音が、思い出すことがある度すぐ悲しそうな顔して。」


 カタン、と目の前にカップがふたつ置かれる。飲み物が届いたようだった。


「何か力になってあげたいのに、私じゃ気を紛らわすことくらいしか出来なくて。それでも無理に進ませるのは良くないから、あからさまなことはしたくないし。

 勘違いしてるって言ったのはね、汐音さ、今の自分じゃ男子に触れちゃいけないとでも思ってる?」


「それは思ってないよ」


「今の自分じゃ好きな人作っちゃいけないとでも思ってる?」


「え、」


 紅葉が身を乗り出して聞いてきた。


「言っとくけどね、それは違うよ。汐音は十分頑張ったんだよ?頑張ってるんだよ?今もまだ苦しむ理由なんてないじゃん」


「紅葉、それは違う」


「え?」


 自分で思った以上に低い声が出たのが分かった。


 紅葉も驚いた顔をする。


「私はまださ、忘れられないんだ。あのことも、 あの人も。あんなことされたのにさ、私きっとまだ好きなんだ。りょうのこと。だからさ、」


「それが富谷くんのこと断る理由にはなんないでしょ?」


「なる。なるよ。」


「なんで」


「私このままじゃ本気で富谷君のこと好きになっちゃう。梁のことも好きで、忘れらんないっていうのに、このまま富谷君のところに行けるわけない。二人とも好きとか、認められるわけないんだよ。」


「富谷くんのこと好きなら富谷くんのとこに行きなよ!みさきくんとのことはもう終わったことじゃん! 私もうあんな汐音見たくない…。

 せっかく新しく好きな人出来たっていうのに、これから先も引きずってくの?私汐音にはずっと笑ってて欲しいよ?」


「紅葉も苦しんでたんだよね、ごめん気づかなくて」

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それでもずっと、君を愛す。 羽衣石れしか @Reshica

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