第五話



 ・・・


「久しぶりだな、朔と帰るの」


 俺達は同じ方向の電車で、途中まで一緒に揺られて帰る。


「そうだなぁ。俺もたまには遥樹と帰りたいんだぞ?」


「お前は大人しく深澤さんとイチャイチャしてろって」


 好かれるのはとても有難いが、そんな発言するほどか。


「いやぁ、もう毎日変わらず可愛くてさぁ?もう何?天使なの?天使なの?」


「惚気は他所でやれよ」


 こっちは軽く傷心中だってのに。


「遥樹今日テンション低かったよな。何かあったのか?」


「明日どっか行かないか、って誘ったら断られた」


「え、長谷川さんに?」


「それしかないだろ」


「デートか」


「で、デート……」


「デートだろ」


 そっか、よく考えたらデートに誘ってるようなもんか。


「なんて断られたんだ?」


「予定あるから、って」


「じゃあそんなに落ち込むことないだろ。まだ十分希望あると思うぞ」


「そうか…?ならいいんだけど」



・・・


「まあ遥樹、自分からの積極的な恋愛については超初心者だからなぁ。こんな恋愛とかめちゃくちゃ緊張もんでしょ?」


「う、るせぇ」


遥樹が少し拗ねた顔をしながら、こっちを睨んでくる。


自覚はしているらしい。


「いっつも女子から告白されて、気まぐれで付きあって、結局面倒くさくて別れてるもんなぁ。 だから俺ちょっと長谷川さんとのこと、わくわくしてるんだよ。どんな遥樹が見れるのかな、って」


「んだよそれ、からかってるだろ」


「まさか。本当にそう思ってるんだって。バスケバカで、その他のことはどうでもよさそうにしてる遥樹が、他のことに興味持つなんて、そりゃあこの先どうなるのかわくわくするよ」


「悪口ばっかじゃねぇか」


「俺は本当のことしか言ってないよ?」


自分のいい所でもあり悪い所でもあるのだが、人には基本、自分の本音しか話さない。


本音って相手を遠ざけるものでもあるけど、相手に限りなく近づけるものでもあると思う。


「知ってる。だから朔は嫌いになれないんだよなぁ」


「え?」


「めちゃくちゃ貶すくせに、褒めるところはちゃんと褒めるじゃん。しかもそれが嘘じゃないときたら、良い奴、って思うしかないじゃん」


ふふ、と笑ってこっちを見る。


ほら、だから本音って自分のことを認めてくれる人がすぐわかる。


しっかし、


「お前それ無自覚でやってるのが怖いよ…。絶対長谷川さん好きになってくれると思うんだけどなぁ」


サラッと人を褒めるとことか、その顔で微笑んでくるとことか。

軽く頭を抱える。


「何がだよ」


「いやあ俺はさ、遥樹めっちゃ良い奴だと思うの。長谷川さんも絶対いい子だからさ、わかってくれると思うんだよ。遥樹の良さ。」


「それ本気、なんだよな。」


「まあ頑張れって。変にめげるなよ?何かあったら相談しろよ?応援してるからな」


「出た、心配症。ありがとう」


「ああ。じゃあな。」


目の前のドアがキーと開いて、ホームへ降りる。


お似合いだと思うんだけどなぁ。あの二人。

想像して少し微笑ましくなる。


さて、早く帰って明日の準備しなきゃな。


俺は早足で家に帰ることに決めた。

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