第2話:初活動

 金曜日。

 鴉鷙鳩鷺あしくじ翡翠ひすいは、職員室で、現文教師、四月朔日つぼみさきになんとか......それはそれはとてつもないほどの譲歩を得て、授業プリントの再提出を受け取ってもらい、半ば強制的ではあるが、入部した文芸部の初の活動の為に、部活棟3階最奥の部屋へと向かうのだった。


 初活動と言ったが、何をするのかや部員の数すら分からず、栂村んがむら結依ゆいに聞こうにも、連絡先すら知らないと言うどうにもならない状況だと翡翠は思っていた。

 実際は、クラスを知っているのだからクラスに直接向かえばよいのだが、翡翠はその考えにすら至ることはなかった。


 そんな憂虞ゆうぐ、不安、鬼胎きたいで胸がいっぱいな状態で、部室にたどり着いた翡翠は、唾を飲み込み、覚悟を決め、部室のドアを開けた.......が、そこには結依しかいなかった。


 結依は、ドアが開く音でこちらを向き、少し意外気な顔をしながら、話し出した。


「いらっしゃい。来るとは思わなかった、1番乗り。」


「別に来たい来たくない関係なしに、入部した限りはちゃんと活動はする。それに、栂村さんがいるんだから、1番乗りじゃないでしょ。」


 そう言った翡翠は、結依の斜め向かい、6つある椅子のうち、右側の真ん中に座った。


「で、活動ってなにやるんだ?」


「活動は基本的に1つの本を提示して、それを読み、それについて考察するって感じ。あとは作文だったり、TRPGテーブルトークアールピージーをしたりしてる。」


「そうか。それで、部員ってあと何人いるの?」


「3人。あなた含めて今文芸部に5人いる。」


 結依のその言葉以降、2人に会話が紡がれることはなく、お互いに本を開き、読み始めた。


 翡翠が部室に来てから更に10分たった頃、部室のドアが思いっきり開き、勢い途切れず、閉まった。そのあと、恥ずかしかったのか、ゆっくりまたドアを開き、顔を赤くして部室に入ってきた。


 その光景を、翡翠は少し引きながら見ていた。

 結依は、本から顔をあげずに1言放った。


 「おおぞらさん。毎回言ってる。ドアはゆっくり開けて。」


 「あはは......ごめんごめん。次からは気を付けるって、ゆいゆい~」


「はぁ~。毎回それ言ってる。」


 結依の言葉で会話は終了し、霄は翡翠の方を見て、誰?と言いたげに、結依に聞いた。


 「彼?彼は鴉鷙鳩鷺翡翠くん。新入部員。」


 自己紹介する雰囲気になったので、翡翠は自己紹介を始めた。


「俺は鴉鷙鳩鷺翡翠。2年文系ロシア語コースだ。よろしく。」


「おおっとー、私は霄幸夏ゆきな!2年理系物理コースだよー!よろぴく!!」


 幸夏はとても元気溌剌はつらつで天真爛漫な女の子と、翡翠の中では位置付けられたようだ。決してうるさい女とは思ってない。決してだ(大事なことなので2回言った。)。


「あっ、そー言えばゆいゆい~。今日、『らら』と『あゆゆ』来れないってよ!」


「そう。わかった。ありがとう。なら今日は鴉鷙鳩鷺くんに部のCHachAチャチャに入って貰って、それで終わりにしよう。本の考察は全員揃った時に。」


 CHachAとは、近年世界中で使われるチャットツールのことで、使ってない人がいたら、驚かれるレベルの普及率をしている。


 そんな訳だから、さすがの翡翠も、家族との連絡の為に、入れていた。

 家族以外のチャット相手は0だが。


「鴉鷙鳩鷺くん。まず、グループに入れるためにあたしとチャット交換お願い。」


「ああ。わかった。」


 そう言って、結依が出してきたバーコードを、翡翠が読み取り、家族を除いて初のチャット相手を手に入れた。


 そのあと、結依に文芸部のグルに入れてもらい、その日は解散となった。


 翡翠は、解散になったと同時にそそくさと帰ってしまった。


 幸夏は携帯をいじり、結依は本を読みながら、次の考察の本をどれにするか話し出した。


「次のどうする~?」


「羅生門、杜子春、歯車の3つのどれかを考えてる。」


「その3つか~」


 そう言いながら、携帯をいじる手を止め、考え始めた。


「鴉鷙鳩鷺くんも入ったことだし、有名どころの羅生門でいんじゃない?今回は。」


「そう。ならそうしましょう。」


 そう言って、結依も携帯をいじる手を止めて、CHachAに、今回の考察小説と、古い小説が無料で読める小説サイトのリンクをはった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

文芸部って静かなもんじゃないんですかね?! @ranranruuuuuuuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ