Ep.2 腹痛

「はぁ…はぁ…。」

両足が悲鳴を上げていることは十分に理解しながらも漕ぐ足は止めない。

現在時刻は8時15分。

ワンピース発売開始まで残り2時間45分。

事前情報によると、開店1時間前からシブヤ109内の特設ポップアップストア前で整理券を配布するとのこと。コラボグッズはもちろんワンピースだけではないが、十中八九全ての日本国民があのワンピースを狙っていることだろう。これはなんとしてでも先着5着以内に入らないといけないことを意味する。

「ぐっ…!」

まただ。ここにきて再度腹部への違和感。

焦げたトーストが腸内で暴れているようだが…。

「I am a perfect human, OK?」

俺がこんなただの腹痛に負けるとでも?

シブヤ109まで残り30キロ、フジワラ猪突猛進。


時刻は9時30分。

シブヤ109特設ポップアップストア前に直立する人物がただ一人いた。

そう、フジワラである。

整理券が配布され始めるまで残り30分ばかりにもかかわらず、フジワラの他に人っ子一人いない。

「ふっ…。」

思わず余裕の笑みが零れる。あと2時間もすればあのワンピースはこの俺の手中に収まるのだ。

「ナミグチ、待っててくれよェ…。」



そもそもフジワラはこんなワンピースに興味など皆無、tweetのネタ提供あざます程度の気持ちであった。

tweetが想像以上にバズり部屋の片隅でほくそ笑んでいた日曜の朝にナミグチからメッセージがきた。

【フジワラくんって東京住みだったよね?】

嫌な予感。住んでいる場所や年齢など、個人情報をきいてくる人間にろくな奴はいない。付き合いの浅いやつからこんなメッセージが来たら既読もつけずにブロックするところだが…。

【そうだけど、どうかしたか?】

ここは様子見だ。ナミグチとは現実で会ったことはないものの2.3年の付き合いになる。今更宗教勧誘やネズミ講などの誘いはしてこないだろう。

【私、あのワンピースほしいんだよね!】



スマホに目をやると、時刻は9時45分。

ナミグチの喜ぶ姿を頭に思い浮かべている間に15分も時間が経過していただと!?

「そうだ、ナミグチに報告しよう。」

無事にワンピースを買える旨のメッセージを送ろうとスマホのロックを解除したその時、悲劇は起きた。


ぎゅぅるぎゅるぎゅるぎゅるぅぅぅぅうう!!!


五臓六腑を抉られているかの如く激痛が腹部を中心に全身に駆け巡る。こんなことを言えば世界中の女性から叩かれてしまうだろうが、俗に言う『女の子の日』の痛みなど(恐らく)到底比べ物にならない。

あまりの痛みにその場で蹲るフジワラだったが、頭の中は何故か冷静であった。


残り12分。トイレまで往復2分。

排便可能時間=12-2=約10分。


経験上排便に10分もの時間がかかったことはない。

ここはトイレに行くしかない。

「うぉぉぉおおおおお!!!!」

フジワラはイーストブルー(東方向にあるトイレ)に向けてクラウチングスタートを切った。



To Be Continued...







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ワンピース カイチ @k_7lion

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