エピローグ

 披露宴の翌月、啓太と恵里菜は車を購入した。購入した車は子供ができた時にも使えて、かつ下川家の両親と一緒に旅行もできるようにと7人乗りのフ〇ード。購入してからお互い休みの日にはドライブに行ったりなどして新婚生活を楽しんでいた。

 

 

 披露宴から2ヶ月後の12月の暮――。

 冬のリフレッシュウィークを同じ日取りにしてもらい、新婚旅行として北海道に行った啓太と恵里菜の新婚カップル。2人共スキーは経験者なこともあって、ゲレンデのホテルにチェックインしてすぐにウェアと板をレンタルして早速滑り、クリスマスを一緒に過ごせなかった分、ニューイヤーカウントダウンはゲレンデで一緒に楽しんだ。

 年明けた5日、啓太と恵里菜は恵里菜の実家に自家用車で来ていた。

 そしてその翌日。

 美恵母親と一緒に食事を用意していた恵里菜が突然口を押えて洗面所に走った。

 気になった啓太が洗面所に行くと、恵里菜が口をゆすいでいた。

 

「恵里菜、大丈夫?――」


 啓太が恵里菜の背中をさすっていると、恵里菜が鏡越しに啓太を見て、

 

「啓太、今月来てないんだ、アレ」

「アレって、もしかして?」


 恵里菜の言っている意味を理解した啓太の表情がぱっと明るくなる。

 

「まだわからないけど、私の周期正確だったからたぶんそうだと思う」

「じゃあ帰ったらさっそく病院に行こう!」

「うん、でも――もし違ってたら――」


 喜ぶ啓太に、恵里菜はまだ半信半疑で心配そうな表情をする。

 

「違っててもいいよ。その時はまたチャンスはあるから」


 と啓太は恵里菜を胸に抱き、恵里菜は啓太の胸に顔をうずめる。

 

「うん。でもこんなに早くても啓太は大丈夫?」

「どゆこと?」


 恵里菜のいつもと違う雰囲気に啓太は恵里菜を放して顔を覗き込む。

 

「だってまだ結婚してから半年もたってないよ? もしそうだったらこれから少しずつ大変になっていくし――」


 と泣きそうな表情になる恵里菜を啓太は再び抱きしめると、

 

「大丈夫。大変になることは予想できてるし、辛い時には俺に当たってくれていい。そんなんで恵里菜への気持ちは離れないよ」

「うん、ありがとう――。じゃあ帰ったら一緒に病院行ってくれる?」

「もちろんだよ!それまではお腹冷やさないようにしておかないとね」

「うん。啓太愛してる」

「俺も愛してるよ」


 2人はきつく抱き合った。

 それを洗面所の外から眺める修二と美恵。

 修二も美恵も2人の新婚カップルの愛情の深さに安心した。

 

「大丈夫ですよね、あの子達」

「もちろんだ。俺達の娘だぞ?」

「はい――」


 と、美恵は洗面所で抱き合う2人を見ながら修二に体を預け、修二は美恵の体を受け止めて優しく肩を抱いた。

 

 

 

 福岡に戻った2人は、気分が優れない恵里菜をベッドに泣かせると、隣の吉田一曹宅へ行った。

 啓太の来訪に出た吉田一曹は、啓太に近くの産婦人科でおすすめの場所を聞かれて、ぽかんとする吉田一曹。

 

「鳴無三曹、お前の仕事は何だ?」

「え? 自衛官ですけど?――」

「じゃあ、キミが怪我をしたり体壊した時に行くのはどこだ?」

「え? 自衛隊病院ですけど――あ!」

「やっと頭がクリアになったようだな」

「すみません、慌ててました――」

「一応、電話してから行けよ? それからちょっと待ってな」


 と、吉田一曹は一旦中に入るとすぐに戻ってきて、啓太に二つ折りにしたメモを渡した。

 

「これは?――」

「嫁がお世話になった医官の名前だ。女性医官だから奥さんも安心だろう?」

「何から何までありがとうございます」


 と啓太が吉田一曹に頭を下げると、

 

「そんなのはいいから奥さんについていてやれよ――」

「ありがとうございました」


 と啓太がもう一度頭を下げて帰ろうとしたとき、

 

「奥さんもそうだが、キミも頑張れよ。何かあったら俺にでもいいし嫁でもいい。言ってこい。できることなら手伝ってやる」

「ありがとうございます。その時はお言葉に甘えさせていただきます」


 啓太はもう一度頭を下げると家に帰った。

 

 

 

 啓太が自宅に戻ると、恵里菜が泣きそうな表情でリビングに下りてきていた。

 

「どうしたの?」


 と、リビングに入ってきて啓太に気付いた恵里菜は啓太に走り寄って抱き着いて泣き出した。

 

「だって、目が覚めたら啓太がいなくて――」

「ごめんな。隣の吉田一曹にどこか産婦人科知ってないかなと聞きに行ってたんだよ」

「うん、うん――ありがとう」


 恵里菜はそう頷いて啓太の首に抱き着くと、キスをしてきた。

 恵里菜は啓太がいるという安心感を得るように啓太の唇に吸い付き、啓太もそんな恵里菜に応じていく。

 しばらくして息を乱しながら唇を離した2人の舌どうしが糸を引いて、途切れる。

 

「啓太、私のためにありがとう」

「何言ってんだよ。俺達夫婦だろ?」


 そう返してくる啓太の言葉に恵里菜は幸せを感じる。

 

「それで、吉田一曹どこだって言ってたの?」


 と聞いてくる恵里菜に、啓太は苦笑して、

 

「吉田一曹からお前の仕事はなんだ? と聞かれたよ」


 そういって頭を掻く啓太。

 そして吉田一曹が言った言葉の意味を理解した恵里菜は噴き出した。

 

「そうだよね。私たち自衛官だった」

「そうなんだよ。俺も余裕がなかったんだな」

「でも、啓太がしてくれたこと、すごく嬉しい」

「そんなのは当然だっての」


 と恵里菜の鼻の頭をつく啓太。そして、

 

「一応自衛隊病院に電話してみるよ。少なくとも何日から診察できるのかってことくらいはわかるだろうから」

「うん。お願い――」


 とズボンのポケットからスマホを取り出した啓太に抱き着く恵里菜。

 

「啓太、あったかい――」

「ほら、体冷やすといけないから」


 ソファまで行って一緒に座ると、啓太はソファに掛けられていたストールを恵里菜にかけてやる。

 

「んふふ、啓太を独り占めだー」

「2人しかいないのに何言ってんだか」


 と啓太は苦笑すると、スマホで自衛隊福岡病医院に電話を掛けた。すると、福岡病院が駐屯する春日駐屯地に今日一日ヘルプで行ってる明美が出た。

 

「あ、松永士長?」

『え? あ、鳴無三曹ですか?』

「おっと、すまない。私用じゃないんだけど、いや私用か」


 という啓太に電話越しの明美も啓太に抱き着いたままの恵里菜も噴き出した。

 

『それで、どちらにつなぎますか?』


 と明美が聞いてくるので、「産婦人科に」とお願いすると、明美が産婦人科につないでくれた。

 

 結果として、明日から診察は可能だと教えてもらえたのだが、2人共明日から仕事開始なわけで、仕方ないのでお互いの部隊に連絡して事情を話し、恵里菜は年休を取れたのだが、啓太は午後から出勤となった。

 

「という事で、明日病院に連れて行って恵里菜はそのまま休みな。俺は午後から出勤だから午後からは寂しくさせるかもしれないけどごめんな」

「仕事だもん、仕方ないよ。でもできるだけ早く帰ってきてほしいかも」


 と啓太の首に恵里菜は自分のにおいを啓太にこすりつけるようにぐりぐりとしながらそう言った。

 

「トラブルなければ定時で帰ってこれるはずだから、待っててな」

「うん。じゃあ明日出かけるときに行ってきますのキスしていってね」

「いいよ。とりあえず、今はベッドで休んでおこうな」


 という啓太に、

 

「啓太に連れて行ってほしい」


 と首に抱き着いて、お姫様抱っこを所望する恵里菜。

 啓太は苦笑して「仕方ないな――」と恵里菜をお姫様抱っこをするとそのまま階段を上って寝室に入るとベッドに恵里菜を寝かせた。

 

「啓太、力持ちさんだ」


 とニコニコ顔の恵里菜。

 

「鍛えてはいるからね、一応」

「うん、一応」

「てめ」

「きゃー」


 夫婦になってからこういうじゃれ合いが増えた2人。そのままキスをして、啓太は恵里菜に布団をかけてやる。

 

「ねえ、啓太――」

「寝付くまで一緒にいて?」

「甘えん坊だなあ」

「私は甘えん坊なんだよ、エッヘン!」


 と寝ながら胸を張る恵里菜。

 相変わらずの恵里菜ワールドである。

 そして啓太は恵里菜が寝付くまで頭を撫でてやることにした。

 しばらくして、寝付いた恵里菜の額にキスをすると

 

「お休み」


 と隣の部屋で明日の仕事の準備をする啓太であった。

 

 

 

 翌日、2人は自衛隊福岡病院の産婦人科に来ていた。恵里菜はレギンスにワンピース。そしてその上からダウンジャケットを羽織り、啓太は制服姿で病院に来ていた。

 そして順番が来て診察を受ける恵里菜。しばらくして、恵里菜が診察室から出てきた。

 恵里菜は深刻そうな表情をしているので、

 

「どうだった?」


 と恐る恐る聞いてみる啓太。すると、ニコーッと笑顔になり、

 

「妊娠2か月だって」


 と恵里菜は啓太の耳元で伝えた。

 

「やっ――」


 と啓太が大きな声を挙げそうになったので、恵里菜が啓太の口を手で塞いだ。

 

「シーッ! 啓太、病院じゃ大きな声出しちゃだめだよ」


 と啓太は恵里菜に叱られ、その光景を見ていた女性からクスクス笑われてしまうのだった。

 啓太は家に恵里菜を送り、家から美恵に恵里菜の妊娠が確定した事伝えると、美恵も大喜びした。

 出勤した啓太は、電話機移設で第4通信大隊に行った際、義姉の成美に恵里菜の妊娠が確定した事を伝えると、成美も義弟の啓太に抱き着いて大喜びすると、上官に「付隊に行ってきます」とそのまま消えていった成美であった。

 

 

 妊娠4ヶ月目に入った頃には、恵里菜のお腹も少し膨らみ始め、6カ月を過ぎてきた頃には、子供がお腹を蹴る所謂胎動を感じ始め、この頃になってようやくがなくなった恵里菜。それからは食事をとる量が格段に増えて行った。

 



 出産予定日のひと月前になって、恵里菜は産休を取った。

 その頃には下川家の両親から、そして伊原三佐から、さらに啓太の叔母の加奈、そして大叔母の美紀子からも続々と赤ちゃんのおもちゃやらグッズが山のように届いていたのである。

 毎日家で過ごすようになった恵里菜は、毎日子供のための靴下やら防止やらの編み物を始めた。元々学生の頃から好きでやっていた編み物。結婚してからもランチョンマットを作ったりもしていて、啓太からも楽しそうだと「教えてほしい」と言われて今では啓太が休みの時には2人で名前を考えながら編み物をして過ごすようになった。

 そして出産予定日を1日過ぎ、2日過ぎ。それでも陣痛が来なくて「もしかして」と最悪を考え始めるようになった恵里菜。

 それをなだめて一緒に病院についていく啓太。

 それを続けて2週間後の15時過ぎ、恵里菜が腹痛を訴えて、タクシーを呼ぼうとするけどもなかなかスマホになかなか手が届かない。何もできなくて、痛くて、泣き叫びながら床をたたく恵里菜。

 その声と音を聞きつけた吉田一曹婦人が駆けつけて、そのまま吉田一曹婦人によって自衛隊福岡病院に運ばれた恵里菜はそのまま入院することになった。

 そして吉田一曹婦人は福岡駐屯地へ連絡。すぐに啓太にそのことが告げられて、啓太は迷彩服のまま車に飛び乗って病院へ。

 啓太が着いた時には、恵里菜は分娩室に入った後だった。

 基地通信隊舎から啓太が飛び出していったことに気が付いていた健司が第4通信大隊の成美に連絡して啓太を追って病院に到着。そこでソワソワしている啓太を成美が叱りつけおとなしくさせると、成美は美恵と修二に連絡した。

 恵里菜が分娩室に入って10時間後、分娩室から啓太の入室が許可された。迷彩服の上からエプロンを着せられると、生まれたばかりの小さな赤ちゃんを抱かされた啓太。

 

「鳴無三曹、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」


 と看護師が伝えてくれた。

 その赤ちゃんは、目と鼻が恵里菜そっくりで将来美人になるだろうと、そう思った啓太。

 

 ――恵里菜そっくりだから、恵里菜の「恵」と母さんから「子」の字を貰って、「恵子けいこ」がいい――

 

 看護師は啓太から赤ちゃんを受け取ると、憔悴しきった恵里菜の顔の横に今恵里菜が産んだばかりの赤ちゃんをそっと置いた。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、3564グラム。健康そのものだった。

 

「啓太――」


 かすれた声で啓太を呼ぶ恵里菜。

 

「私と啓太の赤ちゃん。女の子だって――」

「うん、よく頑張ったな。大切に育てていこうな」

「うん――」


 と恵里菜は大粒の涙を流した。

 

 1週間後――。

 恵里菜は啓太が名付けた「恵子」という愛娘を抱いて啓太と共に自宅に戻った。

 恵里菜は寝室とは別の部屋にベビーベッドを置くと言っていたのだが、それを啓太はやめさせた。

 それは2人の子供なのに一緒の部屋で過ごせないのは嫌だという理由からだった。

 

 こうして2人の生活から3人の生活になった。

 2年後、啓太は部内幹候に合格し、武田三尉の跡を継いで304さんまるよん基地通信中隊電話隊長として帰ってきたのである。

 その翌年には鳴無家長男「啓聡ひろあき」が生まれ、成美宅にも啓聡と同級生となる安居家長女「美沙みさ」が生まれた。

 さらに2年後には鳴無家次女「恵美めぐみ」が生まれて、鳴無家は三人兄弟となり、その年で恵里菜は自衛官人生に幕を下ろして専業主婦となった。

 

 

 

 そして時は経ち、13年後――。

 鳴無家長女の恵子は母、恵里菜が着ていた自衛隊制服を着たくて、そして陸幕で勤務する啓太にも憧れて、陸上自衛隊に入隊。

 需品科職種として補給隊に配属され陸士長となった恵子は同期の鈴木昌磨すずきしょうまと交際し、両親の話から憧れていた駐屯地デートを重ね、2世となったのであった。

 

 

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ドケチ自衛官カップル駐屯地を満喫します 防人2曹 @SakimoriSgt

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