スペシャルサイコキネシス

あいざわひかる

OVAのような一本形式

 上官A

「今回の目的は、

 ヒドウを念力装置で呪殺すること。

 装置による念力を受けると、

 だんだんフラフラの状態になっていく。

 並行して拉致を計画する。

 拉致が完了すれば、

 まずは心からもてなし、

 次に、彼を破壊しつくしてから殺すこと。

 全ての状態でデータをとって我々の糧とする。

 一切手を抜くな。以上」


 精神の空間。

 主人公、狙われた少年、

 彼の名は、

 ヒドウ。

 ただの高校生だが少々情報好きで知恵が回る。

 超能力者でもある。

 遠くのものを見て時には触れることができる。

 物事の理解にだけ周囲の時間の流れを遅くできる。

 未だ成長中。

 ある業界とかかわりを持った。

 ある業界の人は、

 社会的にも有名であったり、

 表の顔を持っているタイプの人もいる。

 ふつうは名前をいくつも持てるように工夫するらしい。

 ある業界とは軍隊の特殊部隊だ。

 何か理由があれば何でもする、

 何でもしすぎる人たち。


「現世と霊界をつなぐ。時間はあの時をロードする。

 アドバイザーに大きなショックがないよう」


 主に体制側が使用するロボットだ。

 OM(オペレーションマシン)という。

 真っ黒いボディ、

 スペシャルフォースクロー。(SFC)

 パイロットの、

 小さな女の子(にしか見えない)、アドバイザーは、

 ロボットを見つめるヒドウに向かって叫んで、

「言った通り助けに来たわ。

 後ろに乗って、行こう」

「き、君って、あのお方だろ。

 ほんとは50代男性で、

 慶応卒、5月1日生まれの! 確認だよ」

「うるっさいなぁ。黙ってろ!」

 アドバイザーは外観ばかりでなく、

 精神の少女性が強い。

 それは仕事の対象のせいだ。

 アドバイザーは毎年1人、

 ぜんぶで8人の少女を誘拐した。

 人間調達隊。

 特殊部隊オペレーションフォースとフォース長に生贄を献上する。

 他にも身寄りのない人間を狙って多数の仕事をした。

 軍隊の暗部。

 仕事のせいで暗黒のオーラを発しながら、

 これが私の道、と純粋な目が言っている。

 中国人の大家族を、

 その父親に殺させる仕事もあった。

 家族を一人殺したら残り全員助けると伝える。

 念力で操りながら、ナイフを持たせ、

 もうちょい右、と指示。ずらして刺させた。

 苦しめるのだ……。 

 殺し方が良くないので次の一人だ、

 お前は分かっていない、次だ、

 というふうに、全員殺させ、

 拷問にかけてから殺す。

「ぼくのことも、ぼくの仕事のことも、なめてるだろ」

「いやー、そんなことは!」

 ヒドウはよく知らない。

 助けに来たというのが嘘だということくらいしか。

「なめてるって。お前、ぼくがどんだけ」

 色々なところを潜り抜けてきたか。

 と言いたい。

「そうかな。可憐だな」

「かれん。

 いつまでも、

 こうしていたいと思う?」

「いつまでもはいいかな。

 君は俺を輸送地点まで連れて行ったら、

 敵対するんだろ。それはもう、

 予感というか実際か」

「……。

 ちょっとこうしていたいな」

 アドバイザーは念力で、ヒドウの腕を前に持ってこさせ、

 軽く抱きしめさせた。

OM・SFCは途中で移動速度を遅くして、

「好きな女いるの?」

「どーかな!」

「輸送ルートから離れすぎなければ、

 ちょっと寄り道していいよ。

 お前がどこに行きたいか言ってよ」

「帰りたいね! 家は壊れてるけど」

「そう……。それはちょっと」

「そうだな。なら俺の女になれよ(言ってみたい言葉を言った)」

「なろうかな。身体改造してもいいよ。どこ?」

「えっ?? (身体改造……???)

 世界違うな、なんか! そこまでしなくていいっす!」

 だんだん昔の、奇麗な時を思い出すアドバイザー。

 彼女? 彼、の先輩。

「お前が行きたいところはどこだ? 夢は?

 それは今の仕事を達成できるようになることだよな。

 お前の行きたいところは、俺がずっと見ているから」

「はい……」

 思い出して、

 口が震える、

「行きたいところ……」

「だから帰りたいって」

「ま、考えとく!」

 SFCが加速。

 レジスタンスの怪物が横からビルを突き破って現れた、

「あっぶないな」

 OMは、

 回避運動をして後ろから撃った。

「ギャアアア!」

 怪物の叫び。ビーム砲で当たった部分が、から揚げだ。

「あの怪物って強いのかな」

「滅多なことは言わないこと。

 傍聴されていたら、君は彼らに目を付けられる」


 そう言って思い描くのは、

 レジスタンスのトップ力道山ではなく、

 彼らと個人的パイプを持っていた、

 イドムドス警備隊のお兄ちゃん役。

 ビッグブラザー。


 相手からは、

「頭ばっかりのアドバイザー、だが近寄りたくない」

 お互いがそう思っている感じ。

「パワーだけの人、ビッグブラザー。

 弱いはずだよね、でも強い」


 ビッグブラザー、

(やったら俺が勝つよな? しかしなんか変だ……)

 アドバイザー、

(面倒。ああいうの、怖いから)

 不可侵条約。


 コクピットに強烈な念力が送られ、

 ビッグブラザーからのヒドウへのものだった、

 ヒドウをイメージの波、精神の波に浮かべた。

 たやすく現実を超える感覚だった。

「よぉ。ヒドウ君。

 どうだい。落ち着くだろう」

 二人とも敵対しているのだが、

「はい、ありがとうございます。

 何か、本当にリラックスできる。

 すっごいな、これ覚えたら……」

「フフフ。

 ちゃんと覚える気ねぇな?」

「なんか難しくて。完成してるけど、

 あんたの親父さんのよりちっちゃいな」

「なにぃ? 俺のどこがちっちゃい」

「……。いやーでも、

 ビッグブラザーのオーラすごいっすね。

 あんたの体験をこっちも精神波で読んだんだけど、

 オーラのないナイフもすごいし。

 単純化っていうのかな、力の分担が2~3箇所しかない。

 そういうのってふつう弱そうだけど」

「それだけ分かればいいか。

 死んでほしくはねーけど。でも殺すからな。楽しみだ」

「どういう意味なんすかね。死ぬ気がしなくて」

「ムム。

 今、嫌なオーラが出てる。

 そんなオーラは出してほしくねえ」

 アドバイザーが口をはさむ、

「どんなオーラ?」

「世の中を……嫌ってる奴のオーラ」

「永田さんの残留思念ですよ……。あの人は俺のフリをして、

 俺や他の人にオーラを送るっていう珍しいことやってて。

 俺にも皆にも、俺として混ざっていく。

 あの人はそれを忘れるけど、

 影響力は残って、そして邪魔をする。おかしな能力」

「みんなやってるんじゃないのかな」

「嫌だな。

 みんなやってたら嫌な世の中だ。

 確かに今思った。

 でもあの人上手いわ」


 大まかに言って、

 ヒドウの能力は、

 とても強い上に発展中。

 発展中の超能力。

 まずは人の心を読む。

 母の息子への直感、親友や恋人の直感、

 そういう一般的な直観とくらべてヒドウの違うところは、

 読める範囲がかなり広大だ。

 常人が一瞬しか使用しえない精神空間を常時認識し、

 しかも日常生活で狂わずに、両方で生活できるほどに。

 遠隔念力で、知らない少女の胸をもんでいる。

 実際の手で触れずに、精神の手で。

 それで性感を与えることができる。

 体が震えているのが分かる。精神世界、念力では、

 話しかけたり喜ばせることはやりやすいが、

 答えを得たり傷つけることは難しい。

 なぜか? 神様の配慮かな。

 おっぱいを触るのは、ちょっとした抜け穴か。

 傷つけることにならないから、うまくできる。

 遊びだ。いまお気に入りでやってるのは、同じ学校の女子生徒。

 震えてる、何度やっても。いいおっぱいじゃん。

 お互い楽しんで、なにも苦痛なし。


 あるオフィスで、

 世界中にある特殊部隊の一つ、

 オペレーションフォースの初代フォース長、

 神東大佐は和気あいあい、

 資産家董卓とその護衛の兵士と、色々な話をして、

「あなたの紹介してくれた販売業者。

 潜水空母でも建造できる民間会社を知っていると、

 言っていましたからね」

「そうですか」

「あなたには敵わないですね」

「いやいや。

 私なんかよりとんでもない者がいますよ、

 私兵を持って、

 ひそかにイドムドスに対抗できるという。

 恐ろしいもんです。確か、力道山といいました」

 この男もそれが可能で、やっている男のはずだが、

 恐ろしいなどと言って逃げている。

 ほかにも様々な犯罪行為を法の及ばぬ遠方で行う趣味がある。

「神東さん、包み隠さず言えば、

 私はそういうことにあこがれがある。

 潜水空母を持つなんてね。

 私がやるときには、

 目をつむってもらいたいですね。

 はははは」

 彼はもうやっている。が、

 大佐はそれを急にせめたりせず、

「ええ。そうなると行きすぎですよ。それはね。

 そうそう、葉巻をもらったんですが、いかがですか」

 そう言って、ケースを持ってきてあけた。

 董卓は一本を取り出すと、

「ありがとう……うぐっ」

 葉巻は本物だが、相手に向けて爆発するようになっている箱。

 一瞬で董卓は胸を真っ赤に染めて倒れた。

 董卓の護衛が剣を抜くと、

 大佐は先にケース下に光線銃を持っていて、撃った。

 相手はダメージを受けると同時に剣を投擲したが、

 くるりと身をかわす、少しずれて当たらない。

「お帰りください。根の国へ、あの世へね」

 光線銃のスイッチをオフにせず、神東大佐は抑揚のない声。

 1対2に勝利。特殊部隊の特殊戦闘とは、まずはこういうことである。


 中国大陸、洛陽。

 深夜の喫茶店で、

 都会のファッションに身を包み、

 劉備、

「誘拐は……。

 私の力ではなんとも……。

 平和のためにしか戦いたくないのです。

 それをご存じなら、

 平和のために、やれということですか?

 どうお答えしてよいかわかりません」

 静かなのによく通る声、

「よろしくおねがいしますニャ」

 不思議なほどに美しく、

 いきる喜びを忘れていない金色の目。

 彼女には、猫の耳としっぽが生えているが、

 それはどうも、一般人に見えなくすることもできるようだった。

「それじゃあ」と帰っていく。

「他にもやっていることがあるのだが……。

 私にできるだろうか?

 アドバイザーという人の誘拐。

 あなたは誰に頼まれたのですか?」

振り向かず伸びるように上を指さす、

 映画DVDポスター『白いつるぎ』

「あっ。

 私は近頃の映画は全部見ている。

 あんな映画ない。

 依頼人はきっと、

 公孫さんの兄者に違いない」

 猫の耳としっぽの彼女は、

 はぁ、と息を吐いて、

 やはり劉備の元へ戻ってきて、

「あの。

 ごめんなさい、

 今言ったことは全部嘘なのニャ」

「公孫さんの兄者から、

 頼まれたのでしょうか?」

 通信器を使ったのか、

 もう連絡した様子で、

「はい。もうこれでいいみたいニャ。

 怪物を止めていただいて、

 ありがとうございました。

 もう大丈夫」

「えぇ? ……???」

 話は嘘だった。それだけで済み、

 劉備がおかしな依頼を受けることはなかった。

 三国……。

 イドムドス、レジスタンス、

 そして劉備の率いる蜀、

 全てを平和のために統一する。

 彼の本来の目的とは何も関係のない話だった。


 フィリピン国。

 オペレーションフォースと近しい同じく特殊部隊、

 イドムドス警備隊の実質トップ、海瀬(うみせ)中佐は、

 一緒にOM(オペレーションマシン)戦闘を疑似トレーニングした女性兵士が、

 少し離れた場所で、裸で死んでいることを聞いた。悲痛そうに、

「……。ま、良かった。

 彼女から吸収できることは、全部吸収しましたから。

 なめてたら殺すわよって言ってたのにだよな」

「ええ、そうなんですよ。気性の荒い女性だったようです」

「それでも殺されてる。

 しつこいほどだった電話連絡がぱったり止んだと思ってた」

「そういうわけです、あなたは親しかった。

 事情を聞かせてもらえませんか?」

「ちょっと恐ろしいから、

 もう日本に帰ろうかな。

 犯人が何をしたか、

 遺伝子チェックで見ましたか」

「それがまだでしてね。

 あなたを逮捕するのは今のところ難しいが、

 どうも怪しいですねぇ」

「私が犯人だったら、まずは国外まで逃げます。

 もう逃げていますよ」

「そうですかね」

「この国は自分たちのことで忙しく、

 そんなには世界に向けて通用しませんからね。

 犯人が海外に逃亡することになったら、

 国際警察に申請もしないでしょう。だから逃げるはずです」

「ということを言うために残ったのかもしれない」

「ないですよ。地元の人じゃないかと」

「らしくない要素があるんです、それがね。

 何か、狙い定めたような。

 地元民はもっといい加減な殺しが普通でして。

 どーも殺人によって成長するという、

 昔ながらの特殊部隊員が、自分で遊びのために殺した。

 そういう事件、そういう犯人なんじゃないかと思いましてね。

 あなたのような。

 特殊部隊の人間には、様々な試験があるそうですが、

 ……」

「か、帰ろうかな……」

 どこか人間離れした言葉を言っている。


 精神の空間。

 彼の名は、

 ヒドウ。

 遠隔念力で、よく知らない少女の胸をもんでいる。

 体が震えているのが分かる。

 念力で、おっぱいを触る遊び。

 いまお気に入りでやってるのは、

 イフロムさん。何度やっても震えてる。

 痩せてても、いいおっぱいじゃん。

 同じ学校で見かけた、魔女みたいなかっこ、

 遠くから見かけたから、オーラ記憶して、

 遠隔で本人の精神を揉んでるだけ。

 皆にひそかに好かれてるって感じだ。

 現実には彼女は身もだえしているけど、

 体の成長か何かに感じるだろう。


 ところが、そこへ、

 ヒドウを狙って遠くから声が聞こえる。

「みんな知ってるよ。

 今は女学生狙ってるけどさ、

 本当は君がおじさん好きで、

 おじさんを女の子に変える力を持っているということ」

「えぇ~。初めて聞いたな。そりゃ楽しそうだ」

 軽く答えてみる。声の響きから、

 まるで宇宙を隔てているかのような遠さを検出したが、

 ハッキリしている。

「誰? どれだけ遠いところからハッキリさせてるのかな。凄いな」

「君の深層心理では、女学生は女の子だけど、男のような面もあるし、

 おじさんは男だけど、みんな、女の子なんだよね?」

 変態のようなことを言っている。

 そういう作戦か。

「そういうこともあるかもしれないっすね。

 うん。女の人は女の人、男の人は心が甘いから女の人。

 この世には女の人しかいない」

「だから、そういう君が好きだよ。もんでくれないかな……」

「?! まだ早いぜ。

 いや違う、誰?

 俺を呼ぶのは誰だ!」

「私は永田です」

「永田さん?」

「今君は、レジスタンス念力部隊の念力を受けている。

 聞こえるかい?」


 俺たちは語る、

 死んでしまえ、

 ここから消えろ、

 死体をバラすのは簡単だ、

 ……。


「聞こえますよ~。

 ここから消えろって、

 俺の家に届ける念力じゃあないね。

 家から消える必要ない。

 なんかテキストでもありそうな、組織的念力だ」

「ハ、ハイハイ……」

 呪詛を吐いたり吐かれたりすることは一般人にとって大きな苦しみだが、

 特殊部隊はただ、これほど集中した呪詛に遠隔パワーがあることを知って使うだけである。

「確かに俺を呪っている。

 そういえば、フワー、そうだったな。

 1月か2月か、

 4か月くらい前からだ。

 放置してたんだよ、なんとなく。

 もっとよく検出してみるか」


 ……。


 遠隔地からスイッチキューブで念力を強化し、

 呪詛を吐いて、相手をとり殺す20人一組の呪い部隊があるらしい。

 今知った。

 スイッチキューブとは?

 念力を出している奴の脳波を読む。

 すると、昔は呪いの増幅装置はヘッドギア型だったが、

 今はポケットなどに入れておいてターゲットに精神を照準しやすくする。


 正解かどうか分からないが、まずまず合っている気がする。


「ヒドウ、お前はもう終わりだよ」

「えーと永田さん?

 そういう感じはないけど。

 いつの間にそうなってたんだろ」

「おっと……」

 これ以上は教えてくれるオーラじゃなかった。

 精神の声、精神のオーラ、現実世界の声。

 こんなに分類できる。これが基本。

 普通の社会に生きていて覚える意味はない。


 ヒドウの精神の声、「そうだ、言ったっけ? こんにちは」

 精神のオーラ、(……来客かぁ)

 現実世界で今発している言葉、無言。


 永田の精神の声、「ええ。こんにちは」

 精神のオーラ、(さてと、何か探るための念力会話しなきゃ)

 現実世界で今発している言葉、「きっめぇ~!」

 日本語なのか? 変形の日本語。

 気持ち悪いという意味。

 呪詛という武器。


 そして永田は精神の声で、

「君の趣味はエッチすぎる。

 好きな人のおっぱいも触れるんじゃないの」

「そうです。

 もっとぶっとんだことも出来るかもな。

 満足してて思いつかなかった。

 でも……それはまずいだろ。

 いやもう知って後戻りできねぇ、やるか」

「どっちでもいいことだけどね。

 不思議に思わないかい。

 何か、質問はないかな」

「答える気あるんでしょうか?

 じゃ、どうして俺が呪いを受けるんすか」

「そりゃあ、自分で考えなさい」

「あなたの動画サイトに書き込んだからかな。

 『俺も癒される気がする、その優しさに感動』って」

「えっ?」

 そうそう、そうだよ、というオーラを感じた。

「教えてくださって、

 ありがとうございます。永田さん」

 ヒドウはお礼を言った。


 前から、誰だろう、まぁ、

 呪われても、別に大丈夫だろ。

 俺は広範囲エスパーなんだし。


 と高をくくっていたが、聞いてよかった。

 相手……今知ったが、あるらしい、呪い部隊からすれば、

 どうやらヒドウくんに呪詛が効いている様子がないので、

 永田さんを使って、本当に効いていないのか、

 声掛けしてきたのかもしれない。

 永田さんは表では動画サイトで自分の情報を公開している。

 50代男性。若者の自殺防止を願ってる普通の人だったはず。

 分からねーもんだな。レジスタンスか? イドムドスか?

 呪い部隊の隊員だったんだ。

 レジスタンスっていうのは、

 体制側イドムドスに逆らう組織のこと。

 呪い部隊はどの陣営にも秘かにあるんだろうな。

 古くはソビエト連邦が使い始めたものだ。

 永田さんが本当はどこに所属してるか分からない。

 それから、

 そういう君が好きだよ。

 もんでくれないかな……。

 ってさっき言ってたよな。

 一応、永田さんのおっぱいをもんでやる。

「礼儀として」

「来なさい」

 おっと、

 胸のあたりに呪いを集中させていた。


 揉むと呪われる!


 罠か!

 精神力を指に集める。 

 行けー、なめられてたまるか。

 一分後。

「や、やりますね。胸がじんじんします」

「そ、そちらこそ。俺は手がしびれているぜ。じゃ、また」

「中々私は帰りませんよ~。カス、カス、カ~ス」

 そのあともう少し話して、一応、

 永田さん(正確にはその精神)は帰っていった。

 こういう、エスパーだけが入れる、

 全てが精神の世界があるのだ。

 お互いの能力が高いと生々しくなっていき、

 リアルなオンラインゲームに近い。

 カス、カス、言ってたな。

 50代でカス発言は、

 本人の精神に厳しいんじゃないのか?

 任務だから言えるってわけか。すげえな。

 何か凄みを感じた。ということは、

 彼らにとっては汚い言葉遣いは武器、

 まったく何でもない、本当に何でもないか。

 絶対とは言えないが、

 そういう傾向にあるのかも。

 変な部隊がソ連に昔あって、

 古臭い機械を使ってたという伝説はあったが、

 新しいのが創設されてんのか。

 秘匿された組織なんだろうな。

 こちらの精神の居所は完全に検出された。


 思い返してみれば、

 坂口玲のモンスターチャンネルにコメントを書き込んで、

 永田さんの自殺防止チャンネルにも書き込んで、

 実は二人の知り合いだった、

 海瀬中佐の目に留まったらしい。

 大人はつながりを持っているってわけか。


 事実上、

 エスパー専用の精神世界に、

 聞こえてくる声、

「海瀬だ……。

 お前、俺のファンなの?」

「そうっすね。

 あんたの本も持っている」

「へえ」

「エスパー海瀬なんですね」

「お前も何かすげー素質あるよ」

 あるのかなと思うことはあったけど、

 使い方は全く分からなかった。

「家族、大事か?」

「いいや。両親はもう死んでまして、

 年の離れた兄弟がいますけど、

 助けてくれないし、結構冷めてます」

「……」

 海瀬は、

 自身の家族がそれなりに大事だということにしている。

 軍人であり方々へ出かけるのが大好きで、いつもは大事にできない。

 自分では家族を大事だということにしていて、

 他人も家族を大事にするべきだと思っている。

 そういうわけで、家族を大事にしない発言は全く嫌いだった。

「次の質問だ。子供をいじめることがタダで出来るならやるか?」

「やるわけないっす」

 人からの思い、

 食らってみると半ば電波だな、

 という気持ちのヒドウ。で次の質問、

「へらへらした奴だ。死ぬのは怖くないか」

「別に、寸前しか怖くないんじゃないですか。

 まぁ、長生きしたいな。

 老齢になってその時一番新しいものが見たい」

「やっぱへらへらしてるな」

 海瀬は腹を立てた。

 この男に実際に会ってみたくもなった。

 社会への影響、すくないな。

 一匹いなくなっても大丈夫じゃないかな。

 それで決まった。

 ヒドウが特殊部隊に、

 訓練用の獲物として追われることが。


 背景は海、

 海瀬と同じく特殊部隊兵士、

 ランバージャック。

 彼はイドムドス警備隊の、

 母のような役割を持った男だ。

「ランバージャック。

 お前だけが俺の最高だ。

 お前はマイサン、息子だから」

「おやじ、キックアス。

 親父がいなくなったら、

 俺は終わっちまうよ」

 クルーザーの上で強く握手。


 しかしその少し前、

 男性クルーを突き落とすような態勢にして、

 銃を突きつけ、

「お前さ、この状態からどう反撃する?

 イドムドスに属する兵士としては」

「む、無理です」

「じゃ、死ね」

 鉄砲、バン。

 兵士には非常に厳しい海瀬中佐、

 部下を殺した。こういうことが多い男なのだ。

 特殊部隊兵士はバレなければ無罪である。

 そういう決まりだ。どんな人間だってぶっ壊せる、

 ということにプライドを持っている最悪の集団でもある。

 その闇が自分たちに降りかかることもよくある。

 この部下は、ランバージャックのいとこだった。


 ランバージャックは思う、 

 そういえば、俺のいとこは。

 船上に居ない。

 生きている感じもない。

「……」

 静かな晴れの日、

 2人とも無言だった。


 沈黙を破るように、

「ランバージャック。

 お前だけが俺の最高だ。

 お前はマイサン、息子だから」


 ランバージャックは海瀬の超能力で意識を半分操作されている。

 海瀬の迷惑にならないときだけ、自我を使うことができる。

 海瀬の超能力は軍事レベル。


 ヒドウと海瀬中佐。

 エスパー精神空間の中。

 ヒドウの家の近所を歩いている。

 この状態で長く過ごすと、

 運命が動いて現実にも会うことになってしまう。

 そして会話以外にも、お互いがお互いの脳波を読んでいる。

「お前んちの住所、分かったよ」

「ありえねー……。

 なんで?」

「偶然だよ。

 お前の超能力のこと、教えてよ」

「いやぁ、ちょっと……。

 海瀬さん、強いじゃないですか。

 一緒にロボットの、

 OM操作の練習した女性って、

 著書に書かれてたけど、

 死んじゃったんですね」

 そうだよ、

 俺が鉄砲で殺したんだ。前、

 イギリス特殊部隊で受けた教育は、

 生命は全部を虫と思え、息を吐くように殺せ、だ。

 俺の存在をキッカケにして600人は死んだ。

 きっと世界を救うと信じたんだがな。

 この心の声は固く封じられていた。

 どう考えても、良いはずがない教え。

「……。何か察知したか?」

「機械で念力を増幅してんだ?」

「……。

 頭のいい人が作った、

 頭のいい機械があんだよ」

 キューブの形をして、

 どこからともなくエネルギーデータを送受信している。

 現実でも似た形をしているに違いなかった。

 しかしヒドウからは、

 どこかチープに思えた。

「俺でも作れそ。

 こんな古臭いの使ってさ」

「……」

「あんたもそうだから言うけど、

 俺、前から超能力あるんだ。

 周りで結構死んでるでしょ。

 もう辞め時ですよ。

 これ以上強くなってもね」

 強くなる、そうだな。

 パラシュート訓練、スキューバ訓練、サバイバル訓練、

 射撃訓練、OM操作訓練、そして実際の拉致殺害。

 これこそ特殊部隊、辞めるなんてあるか、死ぬだけだ。

 この心の声も固く封じられていた。

 だからヒドウには聞こえなかった。

「ヒドウ君……。

 じゃあ。料亭とかか?」

「えっ?」

「なんか好きな食べもん位あんだろ」

「……ラーメン」

「そんなんで済むかバカ」

「? 俺の考えるラーメンって結構高いですけど。

 サービスいいんすね? 缶ジュースだけでもいいっす」

「あのなぁ」

 ヒドウは途中でハッとした。

 心のこもったおもてなし、

 理由がない。

 俺をやるつもりか?

 おもてなし、多分、

 その後ですることは殺し。


 海瀬は、

 勘のいいガキだな。

 どういうことかって?


 普段の特殊部隊の訓練は、

 他国の特殊戦士を倒すための訓練で、

 一般人を喜ばせてそのあとで苦しめて殺す、

 失踪させることもいつもやっている。

 本番の一種として任務と称する。

 失踪させる手はずの訓練になるし、

 相手のあらゆる感情に沿ったり耐えたり、

 沿わせたり耐えさせたりして殺す訓練だ。

 やられる方は苦しみ損ではあるが、

 常識からみて許されがちな相手や、

 社会的影響力が少ない相手を狙う。

 パッとしない学生や、外国人、無職の人、軍事関係者。


 昔の訓練じゃなくて、い、今もなのか?

 今もそんな馬鹿なことがあるか?

「お前を死の流れに乗せる。誰か助けてくれると思うか」

「そりゃ、いる。もし仮面のヒーロー、ヴォルテクスが、

 俺たちの関係を見つけたら止めてくれるよ」

「呼べば飛んでくんのか。

 ヴォルテクス助けて、って言ってみろ」

「でもさ、今、急には、

 俺のところへは来ないと思う。

 忙しいんじゃない?」

「来るかもしれねーじゃん」

「海瀬さん、

 信じてねぇよな。

 ヴォルテクスを。

 なのに呼べって、

 あんた何考えてるんだ?」

「……それはな」

 ま、来なかったな、

 居るはずがないんだよ、

 来るはずがないんだよ、

 って言って、

 ちょっとずつ崩していくんだけどな。

「……」

 海瀬中佐は不器用な男だ、

 ヒドウを見る心に、

 お前を殺す。訓練みたいなもんだ。

 けどお前はほんとに死んじまう。

 すまねーな? まぁ、

 すまんなんだろーな。

 そう書いてあった。

 ヒドウはこう思った。

 するするっと強くも弱くもない態度で俺を殺して、

 自分は人を殺せる強さを持っている、って、

 納得しようとしているぜ。

 彼の本まで見てみるような、

 普通のファンだったが、

 少し知るともう、大嫌いだった。

 ドブのよーに汚ねぇ~、

 男は汚くなったら、

 嫌なオッサンになるんだよ。

 だからさ、

 許さん。

「俺にとって大事な力点は、

 今あんたに怒れるかどうかだが、

 怒れる。俺に負けて愚痴を言うんじゃねーぜ!」

「ムッ!」

 まっすぐな感情を受け取った海瀬中佐は、

 あきれながら、

 最高傑作のランバージャックを、

 精神の中でワープさせて傍によこした。

「はじめまして、

 俺はランバージャーック!」

 2人がかりだ。

「へへっ。勿体ない、

 感じいい相棒だ。

 現実ではたぶん体大きな人だな」

 ヒドウは空中に飛び上がって、2人を迎え撃つ。

 これから戦いが始まるということ。


 精神の戦いでは、ヒドウは強かった。

 海瀬の掛けてくる、

 一般人は精神がねじ切れるほどの、

 念力の圧力にあまり動じなかった。

 清らかとは言えない精神の応酬があった。

 ヒドウはぴんぴんしているが、

 2人ともへばってきた。

 海瀬の超能力は軍事レベル。

 ヒドウ強しと見ることができる。

「ちっ、俺、念力じゃあ、

 こいつに負けるのか! やだ!」

「占いの本読んでいてさ……。

 2人とも、誕生日いつ?」

「へ? 俺は12月2日だけど」

「俺は教えない」

「海瀬さんはえーと、

 人間味はあるが結局は自己中心的な性格か。

 ランバージャックさんは?」

「俺は教えないよ。

 ヒドウ君、分かったよ。

 終わりだ。君の勝ちだ」

 海瀬とランバージャックはヒドウに追い払われた。

 とはいえ、特殊部隊に諦めるという言葉はない。


「アドバイザー、ちょっと助けてもらえねぇか?

 ヒドウ潰しにお前も参加しろ、ってことだ」

「はい」(スマイル)

 ターゲティングした時のアドバイザーのヒドウへの印象、

(将来大成功して幸福になって欲しい程じゃないけど、

 不幸にならないで生きてってほしい。そういう人に見えた)


 夜、

 バーベキューパーティをやって、

 食後に格闘練習、

 10人組手をやる。

 もし殺したい相手だったら、

 組手で休ませない。

 もっと出来るはずだろ、

 なんて言いながら、

 結局殺すことが目的なのだ。

 殴られ続けた相手はもう立てないし、

 逃げることもできない。

 組手中に逃げるのは、

 プライドが許さない。

 そういう人が多い時代や、

 そういう場所もあるし。

 責任の生まれない殺し方は、

 環境に合わせて探す。

 海瀬が、

 被害者の一人、Xに向けて。

「俺がサバイバル訓練で凍死しかけた時、

 お前、偉そうに言ったよな。

 自然をなめるなってな。

 けどな、生きてるじゃん、俺。

 仰々しくも足の指が凍傷になってないかまでチェックさせやがってよ。

 指の1本や2本で文句言わねーよ。俺らは。偉そうにしやがって。

 娘も嫁も殺すぞ。

 命乞いしろ。それか、何か財産寄こすとか案を吐き出せ。貯金寄こせ」

「家族は許してください。よ、預金を渡します。

 この関係は改善できるんじゃないかと思います……」

「じゃあ、財布寄こせ。口座の暗証番号言え」

「○○○○、○○○○」

「よし、

 ズボンと下着を脱げ。

 確かだな?

 じゃ続きだ。

 金玉揺らしながら、

 死ぬまで組手やれ」

 Xは死んだ。

 特殊部隊としては優しい殺し方。


 特殊部隊兵士への質問

・初めての仕事はどうでしたか?

・外国に行って外国人を殺した。無意味な仕事だった。

 少ない言葉を補足すると、

 後進国に行き、適当な現地人を捕まえて、

 兵士訓練のために拷問にかけて殺し、

 四肢切断し硫酸で溶かして海に流す。

 兵士訓練のため。


 兵士訓練のためとは?

 特殊部隊は、チームで一つ。

 仲間同士の心のつながりが常人よりはるかに強く、

 ほとんどテレパシー、恋人や家族以上のつながりで、

 最高の行動をとって高いパフォーマンスを発揮する。

 つまり、仲間の誰かが捕まって拷問を受けると、

 チームの仲間全体に不調が起こる。

 敵チームにそれを起こさせるときの訓練、また、

 自分たちがそれを受けた場合に耐える訓練になっている。

 これが特殊部隊戦士の普段の仕事である。

 どこも、こういった点は変わりがない。

 兵士の心は掻き消えていくが、それだけでなく、

 殺される人こそかわいそうである。

 ある特殊部隊がよその国の特殊部隊と会敵した場合、

 強さ、凶暴さ、テレパシー能力、こういう点がネックとなり、

 大体はすぐ相手を殺してしまう。

 もはや相手を苦しめる訓練は無意味だ。

 平素に、こういった訓練をする期間の方が長い。

 要するに他国、自国にとって良くない存在。


 神東大佐の体験、

「私は一からこの世界を学んでいた。

 教官が、訓練する者とは別に人を連れてきて、

 我々の真ん中に座らせた。

 どうするのかなと思ったら、

 パン、と射殺した……。

 死に慣れる訓練だったらしいが、

 精神的なショックを受けた。

 あとは、仲間内で、

 外国人を集めて殺すことになって、

 バレないことも含めて訓練というとき。

 それが何になるんだ、と喚き散らした仲間がいて、

 その人も私のすぐそばで射殺された。

 殺すことはねぇだろうに、と思ったが、

 私は部下同士の争いに首を突っ込むこともないと思った。

 心はとても苦しかった。

 しかし、私はこれが平和への道だと、

 思いこむことで、耐えた。……」


 駐屯地の中に謎の搬入口。

 念力部隊が潜めるところがあるのか。


 数日後、

 精神の空間で、

「俺はエヴァンゲリオン見たよ」と海瀬。

「全部? え? マリが出る奴?」

 答える、答えてしまうヒドウ。

「そう」

「じゃあ新しい方だ」

「なに?」

「新旧あるんですよ」

「へー。

 周りの奴は誰も見てなかったけどな。

 隊で話題にしようと思ったのに」

「画面がチカチカするばっかだったんじゃないですか」

「そう!」

「……」

「ま、いいや。

 どうして、

 ランバージャックが、

 その呼び名になったか、

 おしえてやろうか?」

 ヒドウは知っていて、

「何とか部隊っていうのがあったからでしょ」

「こいつ! 何で歴史に興味を持ってるの?」

「恐ろしい部隊だ」

 海瀬に呼ばれて現れた、

 アドバイザーが笑いながら口をはさんだ、

「どうして、何とか部隊で分かるんですか?」

 ヒドウ、

「それは……何とかっていう部隊、

 だったらいっぱいある。

 でも海瀬さんが知ってて、

 近くの人が知らないってことは無いでしょ」

「ぼくは頭悪いんだ」

「嘘だ、知ってるだろ。人間を丸太扱いする、

 731部隊っていうのがあったんだって」

「あ、そうなんだ」

 人体実験ばかりやって、

 日本とアメリカの医学の進歩に一役買ったっていうけれど。

「無きゃ無いで、ちゃんと他の科学技術で分かったんじゃないの」

「……」

 海瀬は思った。

(無きゃ無いでいつか分かったか?

 意外と科学の発展はあるし、

 確かにそうか……?

 軍隊存続にかかわる、

 聞いてはいけないことを聞いた気がする。

 聞かなかったことにしよう)

 咳払いし、

「ランバージャックっていうのは、

 きこりが木を切るように、

 人間を薙ぎ倒す。

 恐ろしいと思わないか?」

 ランバージャックは、

 バラしてほしくなさそうだった。

 人間解体屋の一人ということだ。

「……」

「オエーッ」

「俺の話、説得力がないかな」

「ある、あり過ぎる。人間を……」

「お前は先に気付いてしまったターゲットなんだな」

「俺らの流儀で遊んであげる前に、

 すぐ殺すことになってしまうかもしれねぇ。

 残念でもあるな。

 だから今ここで、

 大サービスで、

 もう一人呼んでやる。

 神東さん、お願いします。

 ヒドウ君が会いたいらしいので」

 海瀬の権力は今から呼ぶ神東との仲によって、

 自分のものではないオペレーションフォースまで、

 稼働させうるところまで及んでいた。

 アドバイザーがじゅうたんを敷くと、

 その上を歩いてくるイメージの中から、

 男は現れた。

 神東高志大佐であった。

「いいけど……」

 神東が現れると、

 兵士からは優しく見えるのか、

 周りの空気が和んだ。

「おほん。少しは話してやるか。

 本来は君なんかとは話さないが。

 神東高志です。どうも?」

 威厳がある。

 組織内で積み上げてきたものだろうか。

「あ、こんにちは。

 神東大佐……?

 大佐が大自然の中で、

 剣の妙技を見せる動画、見ました」

「……そう」

「いきなりですけど。

 もう人を殺すのはやめて、

 俺を仮面ヒーロー、

 ヴォルテクスにしてください」

「何……?」

「俺は特殊部隊が悪いこともやるって、

 知らなかったんです。悪の組織ですよ。

 全員が証拠をもって警察に出頭してください。

 罪を犯した人には、その国の警察に名乗り出させて……。

 勝手に殺したりするような組織がなくなったら、

 悪の組織を倒した俺はヴォルテクスになれると思いませんか」

「……。

 そんなことを言える奴は……。

 しばらく……見たことがない」

 ヒドウは神東大佐の心が非常に細長くなって、

 雲の上にまで突き抜けているのが見えた。

 組織が行った全てをほぼ記憶し、

 責任を感じて疲れてるみたいだ。

 空へ行きたい、そういう思いから、

 変わった心の形になっている。

「ある人が命を狙われたが、仮面ヒーローになる、か。

 非常に素晴らしいプランだと思うが。聞きかねる」

 ブラフ……。

 素晴らしいというのは嘘……。

 現実のハンドサインか何かで、

 そう仲間に連絡している。

 にしたって、柔らかい返しだった。

 この人だってきっと、

 様々な部分で名を残しながら、

 いろいろな嘘をついて殺人をやっているんだ。

 しかし柔らかい。

 それ自体が技術なんだと捉えなければいけないのか?

 他の誰かが殺すから、偉い人はそれでいいのか?

 ヒドウは一呼吸おいて、

「神東大佐、助けてくれないですか。

 ちょっと戦闘員が強すぎますよ。

 一人じゃあできないです。

 それに、

 やりたくないことをしているんじゃないですか」

 神東は、

「うーん。そうだな。

 君は必要でもないのに俺を知っているし……。

 少しばかり納得した。やるな。不思議だ。

 そう、一人でも、攻撃を受けていても、

 そうこなくっちゃな。

 今度の体験を絶対に秘密にするか?

 それができたら……。

 木守りだ。助けよう」

 木守りとは、実のなる木に、

 来年も実が良く実ることを祈って、

 一つだけ果実をとらずに置いておくことである。 

 しばらくシーンとした。

(神東さん、

 ブラフのサインを忘れてる!

 嘘! 嘘!

 殺しを途中で止めるわけねぇだろ!)

 と海瀬。


 オペレーションフォースでは、

 土地を買って家を建て、

 そこに沢山の軍事関係者の死体を隠している。

 まずは軍人を一家ごと招待する。そして、

「お父さんは弱いんだよ」

 と言いながら食事の席で仲間の兵士に、

 食品などを頭からぶっかけさせたりして段々リンチさせる。

 子供に弾の入っていない銃を持たせ兵士と勝負させて殺す。

 狙われた軍人にとどめを刺す。それをよく妻に見せてから、

「彼は卑劣な人間だった」

 と伝え銃を突き付けて下半身裸にして苛め抜いてから殺害する。

 グリーンベレー仕込みの地獄にオリジナルの感性を加味したもの。

 神東がよく思い出す、おぞましいイメージだった。

 兵士たちが、神東さんのイジメは甘いから、

 その通りにやったら中々死なないんだ。

 本当にしていくために俺たちが力入れればいいか。と言っている。

 通常の感性が通じない世界がそこにはあった。

「怖くないの? 見ちゃダメだよ」

 アドバイザーは自身から発する暗黒で、

 ヒドウの見ているイメージを隠した。

「最高に怖い。

 無くなっちまえばいい組織があることは分かった。

 邪魔すんなよ」

「隠蔽だもん。

 気づいてないかもしれないけど、

 普通は君みたいなこと、できないんだよ。

 ただ、やられるだけなのさ。

 でも君の力の源がどっかにあるはず」

 刃のついたスコップを出してヒドウの背中を突く。

「えぇい、無茶するなよ。

 この子はそういう攻撃法なのか。

 みんな違うんだな。

 ハーア。

 海瀬さんのは、

 言葉から来る奴だ。

 きっめ~って、

 どこの言い方かな。

 おめーが一番きもい、だ」

 海瀬は聞こえているはずだが無反応。

「海瀬中佐のは基本形なんだ」

 そういってスコップを振り上げる。

「そのスコップは、

 そういう風に現実でもやってるの」

「えい! とにかくやります」

「あぁ。証拠隠滅の時、途中まで体に穴開けて、

 そこに爆弾仕掛けるんだね。

 不思議だったんだ、漫画や小説に、

 爆発で証拠隠滅っていう描写が時々あって。

 もっと何かがそこに残るか、

 他にまで影響が出ると思ったんだけど、

 ちゃんと準備があるんだ。言葉だけじゃわからないね」

「言わない。言いませ~ん」

「馬鹿め。人を、

 爆弾で木っ端みじんにしたことが、

 あるっていうことか」

「さあ……。方法はいっぱいあるし」

「じゃ、もういいから座ってろ」

 ヒドウが手で押すと、

 アドバイザーはふわりーと浮かんで、

 ちょこんと正座した。

(動けない……)

「俺の精神はこれか」

 スコップで土のように取れたヒドウの精神。

 拾って背中に入れると少し精神力が戻ってきた。

 アドバイザーの太ももを踏んで、

「もうすんなよ」

 この場は、それで良しとした。

「え……? 緩い」

 アドバイザーは少し微笑んだ。

 現実世界でカップ焼きそばを食うと、

 さらに少し精神力が戻ってきた。

 海瀬が驚きながら、

「ヒドウ、馬鹿!

 死ぬの! お前は!

 何でそんなに見えて聞こえてるんだ?」

「うっせぇ、てめーが死ね!」

「……」

 急に海瀬は無反応。

 ヒドウは頭にきて、

「こんのやろぉ」

 海瀬の頭を超能力で引っ掴んで、

 逆さにして蹴りを入れた。

「うっぐ……」

 次は炎と電流を体から発して、

 海瀬の精神に叩きこむ。

 海瀬は体が浮いて抵抗がうまくいかず、

「ほんとはそんなに強くねぇだろ!」

「おめーこそ、弱いに違いない!」

「お前になら勝てる」

「今勝ってみろ」

「威力がある!

 怒りやがったの?

 ねぇ教えて? その超能力教えて?」

 しばらく喧嘩していると、

「俺、こんなにやられた事ない!」

 と海瀬が声を上げ、

 ランバージャックは、

「君は凄いなぁ。親父が、

 この人が怒った時はそりゃあもうなぁ。

 なのに……。

 君が押しているじゃないか。

 ハイタッチしよう」

 と笑いかけ、

 二人はハイタッチした。

 神東は「よしなさい」と呟くように言った。

 よしなさいと言ったら、その場にいる者は、

 何か気に障ったことをしていたら止めようと思った。

 変わった力だが、この力を持った人間が……。


 いつか以前のイメージ、

(海瀬君、俺はその……、

 ショックが無いといえば嘘になる。

 大勢、殺してしまうことになって)

(そうですか。けど、

 どんどんやればいいんじゃないですかね。

 可哀そうなら、剥製か、

 皮膚であなたの着る服を作ってあげたら。

 そうするらしいですよ。

 今度はフィリピンで赤ん坊、見ませんか)

(そうか、やるしかないか)

(我々は全部、可能にしてかなきゃいけない。

 パワーアップしていくべきだ……)

(フー。何か、ちゃんとした、

 宗教的な儀式をした方が良いだろうな)


 手を合わせる神東と海瀬。


 フランスで、

 突如出現したロボット、レッドディガンが、

 海瀬のOM(オペレーションマシン)に蹴りを入れてぶち壊した。

 パイロットは猫の耳の女の子、怒りを向けるが無言。

 海瀬は、

『負けるのか。じゃあ、あばよ。

 まぁなんか、悪かったな?』

 機体の向きを調節して脱出した。

 そして退避して、

 安全確保したと思ったところを、

 懇意にしていた女性兵士ゴーストに数度殴られ気絶、

 目が覚めると、また殴られて、

「こんな世界に入れやがって」

 ナイフで喉を突かれた。

 海瀬の最後の念は、ゴースト、お前か。

 そして、

 傍に居るはずだろランバージャック、止血なしか。

 嫌われてたんだな、俺はこれまでだな。

 嫌という気持ち、

 でも死ぬことができるんだ。

 ランバージャックは海瀬の最高傑作。

 近くにいたが、

 お父さん、あんたが悪い。

 俺はあんたが死んだら終わりだと思うが、

 それでもあんたが悪い。


 次の日、

 ランバージャックは自殺行為に及んだ。

 武器庫のようになった部屋へ行き、

 ゴシックロリータの少女、ゴーストの傍へ行く。

「ゴーストちゃん、

 ありがとうな。親父を殺してくれて。

 普段は、失踪者を減らそうっていうイベントに顔出してて、

 てめえで増やしてるんだから。いつかは死んで当然だった」

「……」

「俺が遺体の分解やれて……よかった」

「いそいそと……、

 ちょっと嬉しく、

 やってましたもんね」

 ゴーストは臨戦態勢だ。

「一応、お礼を言ってから」

「ワタシを殺そうと?」

「あ、ああ……。そうだ」

 2人ともナイフを抜く。

 一瞬の世界、

 ぱっと切り結んで、

 どちらかが倒れ、

 どちらかが活きている。

 ランバージャック、

 敵わない、

 腕、目、首、

 簡単に押されていく。

「やっぱ、強い!」

「すみません」

 細工のない勝負で、

 ランバージャックは負けた。

 それはそうだ、ゴーストを見て、

 この人の技術を覚えようとしたら、

 俺は廃人になるな。

 そう思っていた。

 ランバージャックは、

 高い身体能力だけでなんとかしてきた、

 ほぼ最年長、海瀬より年上、

 60代手前の古い世代の特殊部隊隊員で、

 最新技術や何かを飛び越えた技術には着いていけなかった。


 チームはどこも内部の力関係を大事にしていた。

 階級トップの人でも割と飾りとして扱われていて、

 知らない技はいっぱいあった。


 ヒドウは好きな食べ物や、

 普段の生活のすべてを、

 続々と現れだした色々な相手に、

 念力で聞かれまくった。

 それを思い出し、

「アドバイザー。

 特殊部隊の人って色々、

 質問攻めにするんだね」

「それは糧にするため。

 殺すためだから。答えなくていい。

 何を聞かれてもそれは、それは、

 君の価値を下げるための手始めなんだから」


 イドムドスに客としている、

 古法真夜、

「海瀬は死んだぞよ。

 文句だらけの男だから、文句ブリブリ、

 ブリと愛称付ける。その肉体を見てみよか。

 なかろ、なかろ、海へ溶けて死んだぞよ。

 なぁ、良かったなぁブリ」

 霊になったブリ、

「ブリは死んだんですか……。

 片づけたいものがいっぱいある」

「オペレーションフォースと、

 イドムドス警備隊が世界各地で誘拐を嗜んで、

 被害者の皮膚で服や剥製を作っていたなんて、

 これはイドムドスの悪用、そして力の悪用だ」

「まぁ、人間いっぱい居ますしね。

 1、2、3匹ですよ、匹」

「お前の霊は地獄へ叩き落す。

 そこでは、どちらをみても鬼ばかりだ」

「い、嫌だ……。

 どんな人間がどういう地獄に落ちても構わない、

 ブリだけは助けてください!」

「あの世でも死ね」

 地獄の窯の中に入っていくブリ。


 ヒドウからの念力、

「ブリが死んだけど、

 きれいごと無しでさ、

 ま、よかったよ。

 最低の奴だ」

「……ああ」

 ランバージャックは悲しみを含みながらも、

 最高の笑顔になった。

「アンタも……死んだんだ」

「……。俺は少し休まなきゃいけないと思っていたよ」


 過ぎ去った時代の大局に立ったつもり。

 古い指令からなる無意味な仕事で、

 取り返せない生命が死ぬのだから、

 よほど厳しく戒めないといかぬぞよ。

 長の性格さえ隠れ蓑に使う本当の創始者がおるぞよ。

 後の者は蟻のようによく分からないままに苦しむのだ。

 こういうものは、人間様に消させたい。

 自国のプライドにかけて、

 消していかなければいけないものではないか。

 むしろ自分たちが世界と国家を汚している。

 悲しみが土地の中に染み込まないと思ったら、

 それは大きな間違い。


 機械の女神イドムドスは、

 広い範囲の洗脳装置を使って、

 一兵士として、自軍の特殊部隊、

 オペレーションフォースに入隊した。

「前半の人類史は近代までとして、

 後半の人類史に悪影響を与えると噂される、

 特殊部隊兵士の訓練を知るために、

 私は素体を一つ用意して部隊に入りました。

 新しく入った人は、仲間から、

 筆舌に尽くしがたいイジメを受けて、

 そして生かされる。

 夜中に袋詰めにされて、

 拉致の一種類を学ぶ。

 足を刺されて治療をする。

 その内に、

 どういうときはまだ死なないか、

 どうすれば死なないか、

 教えてもらっていたと気が付きます。

 私は死なないので無事でしたが、

 同期のうち、3人は本当に死んでしまいました。

 特殊部隊は殺人は全体で隠しあって無罪なのですね。

 厳しい訓練の中で、今まで好きだったことがすべて、

 無駄だったと思うのです。

 そして、

 元の椅子に戻った時、

 特殊戦士として存在するだけで、

 どれだけ大変だったか、

 思い出して気が付いたのです。

 貴重な体験でしたが、

 こんな意識状態になる人間の数を、

 減らさなければならないと思いました。

 頭の中で、嘘をつけ、嘘をうまくつけ、

 バカ、という憐みの声が、

 止まなくなるのですね……。

 兵士の皆さん、……」

 仲間の古法真夜、

「イドムドスどの、おかえりなさい。

 あなたの帰還をお祝い申し上げる。

 さらに申して、あなたの存在を祝福いたします」

「真夜……。私たちの中には、

 許されない組織があるみたいですね」

「そうなのです。他にも、

 イドムドス所属世界調査室、

 別名・人間排除室。

 アメリカではメキシコ人、中国では貧民を狙うなど、

 その国の内で力の強いほうだけを勝たせるような、

 旧時代の遺物、消えたほうが良い組織が世界中にある。

 失踪事件の実行犯たちです。

 いずれ、みな消していただければと思います」

「ええ、いずれ。それまでは意に沿わない事もあるでしょうが」

 イドムドスの意に沿わないのは、

 体制側に逆らうレジスタンスだけではない。

 巨大であるがゆえに内部に人という問題がある。


 ヒドウはアドバイザーに聞いた、

「何かあったのか。

 古法真夜ってどんな人?」

「この世界の人間じゃないらしい。

 彼女は、実力のある平和を大事にする。

 その精神が極めて大きいんだね。

 イドムドス様と相性がいいみたい。

 最初は味方じゃないからと思って、

 念力勝負を挑んだんだけど。

 いくらやっても、

 負け申した、無理でございます。

 って言って、

 全然、やられてないの。

 負けてないじゃん、って。

 どこでやってるか見つかったし、

 こっちからは見えなかった。

 見つけてきたのはヒドウ君も同じだけど」


 猫の耳はやした女の子が、

 遠くから念力でヒドウに話しかけてくる、

(んっふ)

(誰だ? 傍受されるぞ!)

(こんにちは~)

(こ、この人だれ? 君は?)

(フォエン)

 俺を助ける気だ。

(会ったことのない人、

 けどきっと、味方だ! 何のため?)

(ただ世界のために。

 幸せな方がいいでしょ)

(んなぁアホな、そんな人いるのか。

 あっそうだ、

 オペレーションフォースと、

 イドムドス警備隊について、

 知ってたら教えてくれないかな)

(うん。警備隊は、感性を研ぎ澄まして感性として扱う。

 フォースは、研ぎ澄ました感性を道具として扱う。

 この差を覚えておいてニャ)

(あっそうか、最高の自分を鍛える警備隊と、

 最高の自分を壊してもう一度最高の部品を鍛えるフォース。

 ……怖いな。けどだいぶ使える意見だ)


体制側に逆らう、

 レジスタンスの総統。

 力道山。

「運命を乗り越えたら。

 ホワイトチョコの上に、

 乾燥させた薄切りオレンジを乗せる。

 チョコの中にレモンのエキスを入れた特製だぞ。

 上に金粉は……やりすぎだな!

 おい、馬戸! 馬戸!

 ……。

 あそこまで狙われてる、

 あいつ誰だ?

 ヒドウってやつ。

 捕まえてこい!」

「はいっ」

 ヒドウの家がどこか?

 レジスタンスにはまだ分からない。

 しかし、全員は分からないままでいい。

 今まで拾った情報をまとめて、

 レジスタンス中にばらまけば、誰かは気が付く。

 それだけで、ちゃんとその場に到達できるものなのだ。

 ただし情報の広げすぎは良くない。

 レジスタンスナンバー2・ジャイアント場戸、

「ヒドウという者の居場所について何か知らないか」

 双方向通信装置で、

 レジスタンス〇〇支部・坂東。

「ハッ。

 うちの範囲ではありませんが……。

 情報をまとめると片田舎ではないか、と思います。

 私の住んでいる場所と共通点がある。

 自然が多くのどかだ。日本のそういう場所です。

 探せばすぐ、行き当たる。

 ただ彼のオーラ、

 つまりソウルが拾っている、

 周囲の情報を取得できる技術は、

 イドムドスの方が進んでいる。

 この差はどうしても、大きな差になるはずです」

「俺には難しい機械はどうもな。

 まぁ何とかやるしかねえな。

 それと、相手は超能力者らしい。

 手を使わずに物を持ち上げたりするんだろうな?

 俺のところの若いの使っていいよ。探せ」

「畏まりました。では、私は……」

「いいから、お前自身は動くな。

 あの方のお遊びだ。

 万一、リーダー失ったらな。

 そこまでしてやることじゃないんだよ」

 その後、レジスタンスが擁する各地の怪物が、

 堰を切ったかのように日本中で暴れ始めた。

 それは攪乱でもある。

 謎だらけのレジスタンスの目的の中に、

 ヒドウを捕らえるか殺すというものができた。

 そんなことのために街が破壊されていく。

 坂東は憂う、

「未来が汚れていくな。

 しかし、やるしかない……」


 ある夜、

 アドバイザーの声、

「ヒドウ君?」

 その姿は、

 猫耳美少女の姿。 

 猫の少女フォエンの姿を形どっている。 

 まったく同じ姿だが……似てない!

「俺が彼女を味方だと思ったから、

 傍受して真似したのかな。オーラが違う」

「ち、ちがう? ミャーン……?」

「いやー。丸わかり似てない。

 なんか受けた印象がさ、あっちはそんなにシーンとしてないし。

 こっちは暗黒すぎる。それに変だな? ちょっと清らかだな」

「そっか」

 変身を解いた。

 その場が真っ黒になるようなオーラは、

 まだその身から放っている。

 闇でありながらその目には未だ生気がある。

 やっぱり相当、人を殺している。

 なぜ人を殺しているのに生気が消えないんだ?

 なぜ……? そんな悪いことができるんだ?

「でも、

 ほんと女の子……。

 どうなってんの。

 ちゃんと機能する男性器ありますよね?

 オーラが間違えようなく女の子だな。

 どういうことなの」

 現れたアドバイザーを見ている、なぜか、

 可愛いな、抱きしめてみたい、と思わせるほど……。

 これには空恐ろしい理由があった。

 ターゲットと精神を同調させることで、

 相手がどんな動きをとっても、

 それを自分のこととして理解する。

 全てをかけてターゲットを己の中に刻み込む。

 清さの印象は、主なターゲットが無垢な少女だから。

 いつの間にか自身もそうなっていた。同調する方法を選んだのだ。

 どんな人間でも完全に掌握する技術のなれの果て。

 隠しようのない暗黒のオーラは大勢の殺人が原因。

 矛盾だ、組織的な連続誘拐と殺人の実行犯、

 そのオーラは人間の闇、

 強者であろうとする意思、

 清らかな少女そのもの、

 そして。

「殺しまくってるのか。

 多い、殺してる。

 なんだこの人数は……。

 創設から居たからか。

 俺だったら1人目で自殺する」

「ばか?」

 泡沫のような声。

 女の子の姿から土と草と金属のにおいがする。

「そうっすか。

 色々軍隊の資格持ってるんだ。

 誰かが苦労してやっと得る能力もいっぱいあるけど、

 あんまり使ってないね。

 でも途中でやめときゃ良かったね。

 他の、悪い事しない所ならな」

「それを言うか」

「それに尽きるじゃん」

「気づく力があるんだ? 他には?」

「人間ウソ発見器みたいな、

 見分ける力があるが、

 ヒドウ君は見分けにくい、か。

 何でもできる。えーと他は深夜、闇での移動が、

 コツ掴んでて凄い上手いんだな。

 光りが全くない空間で移動できるって言う人はいるけど、

 たぶん、何かすごい能力レベルにまでなっている」

「すごい?」

「突き抜けてる」

「へへっ」

 仲間内から、あのお方、

 と呼ばれることも多いようだ。

「そういえばアドバイザー、

 ぶしつけにお前って呼んでも全然、怒らないね。

 オーラからさ、こう、間違って扱っちゃうんだけど」

「そういえばそうだった。怒ってもよかった。

 一応まだ、外部の人だし、なんか」

 もうそういうことはどうでもよかった。

「ぼくの性格かな~。バレてるはずだから言うけど、

 イジメるのは完全に捕まえてからなんだ」

「オッエ」

「ねえ、ヒドウ君、変な気持ちだ。

 なんだろうこれは」

「なんですかねー。

 恋それは恋……」

「な、なわけあるか……」

「可能性探してみるか。

 次は、ヒドウ頑張って!

 って言ってくれよ。

 俺も元気が出るかも」

「いや、言わない」

「言えっ」

「えいえいおー、ヒドウ君頑張って!

 な。なんだこれ」

「出来た。そうだよ言ってくれよ」

「おー! えいえい……」

 アドバイザーも集中し、

「だめ! やり返さなきゃだめだ。

 お前も何か、そうだ。

 ぼくに服従しろ!」

「効かないなぁ」

「そんな、うそ」

「何もないっす。

 いつまでも一緒に居ようぜ。

 俺の玩具になってもらおうか」

「逆。ひどい」

「果たしてどうかな~。

 どっちでもいいすよ、ほら」

 性的オーガズムに達したイメージを強力に送った。 

「んぁー……。

 あぁん」

「本気を出せば楽勝、

 アハハ!」

「いっちゃう、や、めろぉ……。

 ペースを取られちゃいけない」

 背後に回って、

 ロープをかけようとする。

「うがぁ。

 やめろ!

 ほら、

 イケ~っ!」

「あうあうあ……。

 そんなの、なんでもないんだ!

 ぼくには力で、やりかえさないの?」

「なんか手を出しにくいな。

 だから平和的に。

 猫ちゃんのフリするなら、

 最後まで行こうよ。

 懐いてもらおう」

 アドバイザーは想念の猫耳を生やされて、

 ぺたりと這う姿。

「こいつどこまで……!」

 と怒ったがヒドウが、

「キレたな」

 というとすぐに怒りを解いた。

「まだ早いや。……」 

「有効じゃないときにキレるのは苦手みたいだ。

 ここは精神の空間なんだ。

 肉体の距離が離れすぎていて、俺が有利だ」

 顎の下に手を入れる。

「メォー……やめて~……」

 しばらくお互い遊んでいた。


 一方、皇帝の血を引く劉備は、

 未来の蜀=地球の未来を守るために、

 日本に少数の精鋭を差し向けた。

 魔女の少女、

「小さい国ですが、蜂のように危ないところです。

 東日本を主な戦場にしてはいかがですか」

「イフロム。ありがとう。

 ただそれだけの言葉が、どれだけの助けになるか。

 それなら分かりやすい。重要な都会に出た怪物を倒す。

 日本の地の利に疎い我々もよく戦える。

 兵を差し向けよう」

 これによりレジスタンスの怪物の半分は鎮圧された。


 7月。

 ヒドウとアドバイザーは、

 もうすぐ現実に会うことを予感しながら、

 精神世界の学校でいちゃついている。

「クラス一可愛くて、クラス一頭の良い女、

 っていうの似合うよ」

 アドバイザーが、

 放課後、ヒドウと教室に二人きり。

 柔らかい笑顔、そして、

 永遠の闇をその身に宿し、

「ヒドウ君。もうちょっと真面目に私の話を聞いて。

 何でもしてあげる、何でも。欲しいものある?」

 こう言った。


「何をもらっても嬉しいと思うね~」


 ヒドウくんはこのアドバイザーちゃんが好きになりました。

 女の子にしか見えないし、心がきれいだから。

 人を殺した者は不幸な終わりを迎えるのが普通でしょう。

 けれど、その運命を、広域超能力で直してあげたいと思っています。

 二度と絶対に悪いことをしないのであれば、

 いいんじゃないのかと考えています。

 バカです。


「アドバイザー。

 アーちゃん。

 ゴースト女史を倒したの。

 心から驚いたよ。

 俺は尊敬していたからね」

 ゴーストという人は本当に強い人で、

 ナイフを抜いたら無敵とまで言われていました。

「……怖かった。ゴースト先生にはね、

 あれ? よっわ~~、って思わせといて、

 先生がナイフを抜く直前に首をついたの。

 先生は喜んでた。

 あっ、武器に触れた瞬間か、ワタシの隙を付ける人がいた!

 って。首をケガさせて、血を流してたから、

 後は、意外って感情を持たせたまま、

 先生の重心を奪い続けたの。

 お弟子さんたちも倒していった。

 怖かったよ」

 一瞬の世界、

 ぱっと切り結んで、

 どちらかが斃れ、

 どちらかが生きている。

「こええ。うまくいって良かったぜ。

 俺も、モンスターチャンネルを見て、

 あこがれてたけどさ。

 あまりにも岡田以蔵じゃん?

 利用されてたんだな。

 前はどうだったか知らないけど、

 この世界では海瀬さんが飼おうとした、

 殺人担当じゃないの」

 押し黙るアドバイザー、

 先生はそんなに殺してないし、

「……」

 少しは褒めろ。こう言いたいのです。


 特殊戦闘……。

 例えば4対4で、味方の誰かが敵を殴ったり取り押えて隙を作ると、

 隙の出来た敵に向けて一斉に味方3人の大口径ハンドガンが火をふく。

 そしてダメージを与えて3人は己の戦闘に戻る。

 隙を作った一人は有利な戦闘を続ける。

 特筆するべきは、例えば砲役の一人は、

 仲間全体の様子をチェックしたり、地形と敵を見てチームの目になる、

 もしくは敵とナイフ戦闘を終えた直後などに、

 己が砲になる時間と立ち返る時間を作る。

 常人には不可能に近い。お互いがお互いを完璧に知っていて、

 戦闘中のエネルギーに負けない精神力を育てていなければできない。


 武器は、

 相手に引っかける紐、ナイフ、

 9ミリ弾グレッグ、マグナム銃、

 アサルトライフル、他、何でも。


 殺人をおかすと人の心が真っ黒になっていくのは、

 体験として一般社会にも知られている。

 程度は軽いが、たとえばおかしな人が動物をいじめたり、

 ビジネスマンが他の人を嵌めた時も、

 似たタイプの黒い感覚を己や周囲が得ることがあるはずで、

 これなら体験した人は増える。

 黒いオーラに関する技術がある。

 己の手で殺人をおかした数を増やせば増やすほど、

 その人は暗黒ともいえるオーラを発する。

 本人の気が狂うことさえなければ、

 このオーラによる妨害という技術がある。

 殺人によって生まれた暗黒のオーラで味方を覆うと、

 その味方を見た敵は、精神的な直感を得られなくなる。

 感性や直感として、あの黒い存在は何だろう? と思う。

 母の息子への直感、親友や恋人の直感、

 それ以上の正確な直観まで消してしまう。

 そして、闇に覆われた味方は、

 まだ殺人を犯した回数が少なく若い。

 察知されず勢いがある、という状態が可能となる。

 アドバイザーは己自身も強いままこれを可能とする。


 神東が言う、

「ギリー聞こえるか、

 ヒドウの相手をしろ」

「はっ」

 次にヒドウの元に現れた男は、

 ギリシャの彫刻の最高峰でも、

 もう少し劣るというほど、

 完全な肉体の力を放っている。

 アドバイザーが言う、

「この方は、ハイスクールを出てすぐ軍隊に入ったの。

 すごいんだ。何でもちょっと多めに知っていて、

 大事なことを率先してくれる」

 ヒドウには、アドバイザーの気持ちが弾むような感じになって、

 この方は、昔の憧れの先輩に似ていてすごいんだ。

 と言ったのが聞こえた。

 ギリーは現状を俯瞰して言う、

「……。あまり良い流れじゃない。

 此方にとって止まってる。どうしたんだ?」

 心理戦、嘘だけで本当を作り出す、

 そんな特殊部隊としては珍しく、嘘が大の苦手。

 ただ彼の場合は静かに威圧すれば大体相手が黙る。

 どうしようが、相手は黙ってしまう。

 会話コントロール技術、2種類。本心と圧。

 徒手格闘では多くの相手に圧勝している。

 オペレーションフォースの指揮系統とは別に、

 信頼関係を醸成して仲間を擁しており、

 独自の命令を出して戦闘員を20人ほど動かせる。

「よし。

 今日の呪殺を始める」

「ストレートに怖い、

 絡まれたくないタイプだ……。

 でも、このギリーさんは、

 むやみに絡んだり、人を呪うのを良しとしない性格に見える。

 俺は今から、その相手に絡まれて呪われるんだな。奇跡だな」

 ヒドウはウンザリした。

 ギリーが精神の中でヒドウを殴ると、

 精神と現実の世界の両方でヒドウは激しい衝撃を受けた。

「おげえっ!」

「手を緩めない」

「く、体で、食らう……。

 でも、この人を念力で止めきったら、

 俺は確実に消耗する。

 きっとヘロヘロになって、

 誰からでも、

 攻撃しやすくなってしまう!

 どう守ればいいんだろ」

 ギリーは体中から怒りを発する。

 その様子を見て神東は腕を組んで目を閉じた。

「……」

 圧を受けて喋りにくいが、

 何か問いかけていって、

 情報が欲しい。

「絵にかいたような陸軍兵士だ」

「……」

「アンタ、何人くらい殺したんだ!」

「……」

「何かドーゾ!」

「静かにできないのか?

 少し答えてやる。

 何の時だったかな。

 これだけの小さな成果のためにこんなに殺すのか、

 と思ったことはあったっけ。

 だが。

 今はヒドウ、死ね!」

 はるか遠方で精神の殴打、それに威力がある。

「うぅっ!」

 こらえながら、他のこともやっていく事にした。

(ジリ貧を避けるぜ。彼らのやり方の中で、

 応用していい事なら俺もしてみよう)

 何日か何週間か忘れたが時が過ぎた。

 新技を思いついた。

「そーだギリーさん、ウニ好きですか?

 念力であなたの味蕾を刺激する。

 ウニ味、チキン味……」

「おいしい。ありがとうな」

 少しギリーの攻撃力が弱まった。

 しばらくヒドウは、

 文句なしに強いギリーの存在に耐えた。


 こらえながら、他のこともやっていく。

 アドバイザーの脳波から、

 その記憶を見ると、

(誘拐……出来た……。やった……)

 このチームは世界のルールの上位にあるんだ、

 そう人間調達隊が喜んでいる。

 どちらかといえば世界のルールの外だろ。

(大佐、してるんだなぁ……)

 実際の感覚を持った人間には、

 味合わせてはいけないことをやっている。

(毎年かよ。腹に納めますか……)

 多くの人間を苦しめて、

 自分は我慢している。

(毎年……すこーしずつ苦し……いや、

 苦しくない……うん。

 楽しみといったら、何か教えることと、

 新しいターゲットが死ぬところを見るくらいだ)

 小さい姿に話しかける神東、

 拉致された女の子に向かって銃を向け、

「この任務で……、

 君はぼろぼろにされた後、

 本当に死んじゃうんだからね。

 本当なんだからね。もう家にも帰れないし、

 友達もこの後で同じ目にあわされるんだよ」

 女の子の答えは、

「ばーか、ばか?」

 こんな場面が何人何人も……、

 そんな事が……。

 傍で見ていたのか。

 どんなことも、

 いつも大佐の傍で。

(ばーか、ばか?

 そっか、

 神東大佐は偉いんだよ。

 子供だから分からないか。

 ばーか、ばか。 え? ばか?

 こ……。声が消えない)

自室でじっとしている姿。

 必要のないことはしないようだ。

(ぼくもトラウマを持てたのか。

 また一つ、人の気持ちをゲットした)

 よく我慢できるな。

 こんな事が……。

 世界にあっていいはずが……。

 いや、一部の人間が特に、

 世界を汚しているんだ。

「ばか?」

 自身の会話や連絡サインにも用いる、と。

「神東大佐なんか、死んでしまえ。そう思ったよ」

「……!」


 現実世界でアドバイザーが、

 オペレーションフォースの初代フォース長、

 神東大佐を後ろから捕まえて首を刺し血抜きをした。

「!? ……っ」

「弱っ……あっけな……」

 あっさりした殺害だった。


 初代、つまり元フォース長といっても、神東大佐は、

 OBが影響力を持ち続けるケースだった。

 アドバイザーにとっては忠義を誓った相手だったが、

 毎年人を誘拐させる上に、

 あまり自分に答えてくれなくなったので殺した。

 心の中で何かが臨界に達していて、

 ちょうどその時にヒドウが現れた。

 表の世界で、

 自分を好きと思ってくれる人ができたことによって、

 ついに、神東大佐をやりたくなってしまったのだ。

 やってしまった。


 ボスを倒したと思ったヒドウの念力が、

 アドバイザーに抱き着いて、

「よくやったぞ。えらいな」

 他に言い方なんかない。

「もう、ぼく、おわりだね」

 次はOMの所まで行って脱出、逃避。

(はぁ~、後はもっと女の子になる方法を探す。

 あいつの前で女の子になりさえすれば、

 全てが幸せになる気がする)

「ヒドウ君、あなたのせいで、人が死んじゃったよ?」

「アーちゃん。なんのために戦ってる」

「あなたのため!」

「そうかい。……。

 可愛いぞ。

 でも今更ながらさ、

 なんで、人が死ぬような世界に俺が絡まれなきゃいけないんだ?

 なんで、お前らは小さい獲物を狙った運動会やってるんだ? 

 俺もかなりストレスがたまってきた。

 ……。

 ふう。

 これから、お前を大事にする方法を考える。

 けど何があるか分からないから、聞いとこう。

 もし、もしも俺が嫌だなーと思って、

 アーちゃんの気持ちを裏切ったら?」

「全部殺す。あなたの家族も友達も。

 大事にしてるものも目の前で壊すし。

 最後にあなただけを生かして、やっぱり殺す。

 っていうか、そのためにも、

 今から助けに行くから」

「可愛く言ってくれているんだな」

「いい?」

「嫌だから! 

 といっても、

 俺の超能力を中和する手段くらい探しているだろ。

 もしそうだったら、逆らえないけどな」

「……探し中」


 逃げる途中で数発の銃弾がアドバイザーに命中した。

 ヒドウはこの時点ではまだ分かっていなかったが、

 うち一発は鼻か頭蓋骨へのダメージがあり重大な当り方だった。

(怖くもなんともない。でも死んじゃう。ヒドウ君)

(生きろ。止血テープ張れって! 持ってるだろ)

(生きよ……。あ、生きようと思ったら、怖くなってきた!)

 放っておけば死んでしまう傷だった。

 止血すれば病院に行かなくても十日は持つ。

 しかし傷が深く病院に行っても、

 ちゃんと助かるとは限らない傷だった。


 銃弾の影響力に対して、

 むろん、運や、精神のスピード、

 肉体について知っているかどうかで、

 栄養の行き渡り、筋肉と脂肪、動きに変化があり、

 その変化が生死を分けることもある。


 この事件の最中に、

 ヒドウは家でテレビゲームをしていた。

(あぁ……もう)

(こちとらインドア派)

 狩りが得意な連中相手に逃げてもしょうがない。

 超能力者である以上は、これで正解だと思う。

 アドバイザーはOMに乗り込む前に撃たれたが、

 生きている。

 組織を裏切ったと言っても過言でないほど無茶やって、

 OMに乗って、ヒドウのもとへ。


 こうなった以上は、

 ヒドウ君を捕らえて自由にできる状態にしなければ、

 そして自分にたてつくものを殺す算段を立てなければ、

 もうオペレーションフォースへは戻れない。

 逆に、そんなことでいいのかって?

 特殊部隊は、上を殺しても、

 円満に首のすげ替えが出来れば無罪。

 ターゲットを殺す、などの目的を果たすことは絶対。

 だから成り立つの。おかしな話。でも、

 普通の隊員がやってうまくいきっこないのも事実。


 自分の家に、

 アドバイザーの乗ったロボットが向かってくるのを感じながら、

 ヒドウは、念力の会話を続ける。

「問題だらけなんだよ。

 でも何の問題もないとして、

 褒めてあげたい。

 アーちゃん」

「ねぇ!」

「そうだった。

 俺って……」

「天然、ド天然。

 ばーかばーかぁ!」

「ほんとだな」

「もっとちゃんと話して」

「あぁ。

 体、大丈夫か。脱出の時に撃たれて、

 テープを張ってんだったね。

 十日くらいはもつんだっけ」

「時間がないかもしれない。

 だから、ちゃんと遊んだり、

 ちゃんと話したいの」

 ……。ヒドウは思う。

 そのあと俺を殺すんだよな~?

 どんだけ人が死んでも傷ついても半ば裏切っても、

 全員の目的が変わらないんだよな。

 この組織、怖い、どうなってんだろう。

 アドバイザーも、治療をすればいいんだと思うが、

 本当のけが、本当の苦しみで、

 憐みを誘うという技術もあるのかな。

 時間がないのも本当だろうし、

 何かこう、すれすれを利用してくる? というか、

 何がなんでもあらゆる状況を一つ残らず利用しろ、

 とでも、この人たちは言われているのかもしれない。


 このままだと家が破壊される気がする。


 そういう直感がおこってヒドウが家の外に出ると、

 大きなレジスタンスの怪物がヒドウの家を叩き潰した。

 そこに現れたOMが、怪物に、

 連続して機関砲を叩きこみ、

 やっつけた。

「ヒドウ君!」

 真っ黒いボディ、

 7メートル、40トン、

 OM・SFC(オペレーションマシン・スペシャルフォースクロー)。

 パイロットは小さな女の子にしか見えない。現実世界でも。

 アドバイザーは、SFCを見つめるヒドウに向かって叫んで、

「言った通り助けに来たわ。

 後ろに乗って、行こう」

 ヒドウはハッチをあけてもらって、

 SFCに乗った。

「組織を裏切って撃たれた上に、

 俺に逢いに来るなんて、

 バネがあるじゃないの。

 かわいい。

 尽くすタイプか。

 良い男いっぱい居るんじゃない」

「でも、あなたが最高よ。

 ……ね」

「怪我をしているんだろ」

「終わったら早く治療しなきゃ」

「そっか。

 本当に分からなかった。

 念力というか、心理戦を受けると、

 何が本当か分からなくなってくるね。 

 怪我のイメージは本当みたいだった。

 だからこそ逆に嘘なんじゃないかとさえ思ったけど。

 怪我をしてるのを、何かで応急的に隠してるんだな。

 俺は、忘れっぽいんだよなぁ。

 知らない間にお前の心を、

 踏みつけにしてしまったら悪いから、

 思い起こさせてくれていいよ」

「ばか? 屈託もなく話すし、

 マークされてる時もスリッパだし」

「あぁ、スリッパ履いてきちゃった。

 俺って能力以外は一般人だから」

「何か言って?」

「そーだな。

 アーちゃんの職場、

 軍隊だから男比率が高いだろ。

 どんくらい?」

「男女比は、

 フォースは女性多いよ。

 男92、女8。

 警備隊は男だけ」

 声が重なる、

『こんなに』

「どういう意味だ」

「えっと」

「分かった。

 俺たちは孤独だったのかもしれない。

 そして、

 こいつなら自由に愛してもいい、

 という対象がお互いだったんじゃないか?

 こんなに、うれしいもんなのかと。変態だ」

「そういう予定じゃなかったんだけど」


 うれしい。キスも必要じゃあない、

 心がしているからしなくていいのです。


 アドバイザーとヒドウを乗せて、

 闇を行くOM・SFC。

 もう少しで街から海に出る。

 港から空を飛ぶ予定、

 人目につかないようにそこから基地まで移動。

 その港で、

 真っ白い車がSFCに近づいて、

 クラクションを鳴らす、

「こんな街中で!

 ちょっといいか、

 何しているんだ?」

 話しかけてくるものじゃないよな。

 疑問、っていうか敵だろ。

 アドバイザーは車を踏みつぶそうとした。

 しかし車は一瞬でOMとは別規格のロボットに変形して、

 そのムーブメントで回避した。 

 パイロットの坂東が、

 己のロボット、ブランワイルドボアで、

 SFCの肩をつかみ、言う、

「いい気になりやがって」

「じゃあ、しょうがないか」

 至近距離で、

 SFCの小型ロイダリィレーザーと、

 ワイルドボアのプラズマ砲が交錯する。

 プラズマ砲はSFCの一瞬の動きで外れた。

 ロイダリィレーザーはワイルドボアのバリアで散らされる。

 ワイルドボアは蹴りを入れる、

 機体重量の差があるはずだが、

 何か他の機能があって威力が重い。

「こ奴め」

 SFCは再度レーザー砲で目くらまし。

 踏むような蹴りもバリアではじかれるが、

 少しは形が変わるはず。丁度良い所にパンチ、

 重量が伝わるようなコンビネーション攻撃。

 だが実弾を叩きこむ腕の向きを外された。

「やるな。お前も」

 称賛する坂東。

 ワイルドボアの機能で、

 その周辺の重力が加速度的に重くなる。

「アーちゃん、どう、なんだ?」

「黙ってろ」

 ヒドウが言いたいのはどうせ、

 俺たち大丈夫かな、そんな程度の意味なんだ。

 一緒にいると思っているからその言葉を使う。

 うれしいけど、いま時間を使うことじゃない。

「邪魔だ」

「ごめん」

「……いや、アイツも邪魔だ。

 デートの」

「あ~、それもそうだ。

 念力をかける、よし。

 二人とも争わず、離れろ!」

「!」

 坂東はブラックホール砲の準備をやめて、

 距離を離した。その行動は、まったく己の意志ではない。

 その隙にSFCは実弾をワイルドボアに命中させながら、

 一気に海に向かって逃げ去った。

「防御が遅れた。己自身を、

 操作されることがあるのか……?」

 驚いて退いただけかもしれない、

 操作された感じもないが、

 聞こえた言葉の意図通りになった。

 その点に逆に焦る坂東だが、

 場戸の言葉、そこまでしてやることじゃないんだよ、

 という言葉を思い出して追いはしなかった。

 今夜は死なずに済みそうだった。


 その時、

 永田は焦っていた。

(ヒドウ強い!)

 神東、海瀬、ゴースト、

 人間解体家ギリー、

 新リーダーの真朋、

 リーダー格とトップ実力者が次々と死んでいく。

 アドバイザーも出て行ったきりだ、

 最後の連絡ではヒドウを輸送すると言っていたが、

 今は念力による連絡も通じない状態だ。

 ヒドウを狙ってからというもの、

 彼の防御力も物凄いが、

 偶発的かヒドウに操られたのか、

 そういう死傷者が多数出ている。


 リーダーの一人だったギリーは神東の死体を発見し、

 事件が己の責任になって拷問を受ける可能性があると思い、

 軍資金の一部・3000万クレジットを持って逃亡した。

 フォース側はギリーに危害を加えない事を伝え戻ってくるように説得、

 その時すぐには戻らず、しばらくして仲間を呼んでうまく組織に戻るが、

 やはり逃げた者は裏切り者、と、息のかかっていない者に思われたことで、

 油断したところをひっそりと殺された。


 ギリーが逃亡して次のリーダーになった真朋は、

 ヒドウを倒せずに何日か経過したため、

 仲間を一人殺して勢いをつけようとした。

 そして警備隊に所属するビッグブラザーを選んだ。

 隊はフォースと比べ数は三分の一、

 戦歴にも劣るが強い者はいる。

 特殊部隊は食い合って強くなる。

 要はフォースの餌として隊はあった。

 しかし真朋はビッグブラザーに、

 速さも力も勝負勘も全部敵わない、

 撃とうとした瞬間ナイフを両目と首に刺されて、

 瞬殺される真朋。死にゆくまま盾にされる。

 繊細であるかのように正解を選ぶ動作それでいて怪力、

 ビッグブラザー強すぎる、

 その場にいたフォースの人間はほぼ全滅。

 ビッグブラザーに直接挑むな、何かやってからにしろ。

 そうじゃなければ、

 エクストリーム(過激な)自殺!

 ということで、

 エクストリーム自殺を遂げた真朋たちを見て、

 フォース所属の永田は、バレないように増援を呼びつつ、

 ビッグブラザーと一緒になって増援を殺し、彼の味方になることを選んだ。

(ビッグブラザー、私はあなたに味方します。敵ではありません)

(わかった)

 そして、

(生き残りは、俺とビッグブラザーだけか?!

 じゃあ本隊に連絡だ。

 まずは若い子を連れてきて場をつないで、

 その間に再編成を!

 そして俺とビッグブラザーでヒドウを追う!)

 その時は型落ちの、専用品、

 スイッチキューブを使っての念力だった。

 なんとビッグブラザーの上官、海瀬は騙されていたのだ。

 証拠もなく人を殺せる、人に念力を送る装置を得て喜んでいたが、

 他の秘匿部隊では自動式だ。

 精神波を創造する人格コンピューター。


 全てのもの、物質なら何でも燃料にできるエンジンを作って動力源としている。

 古い型式は人間の死体を燃料として魔術的効果を狙っている。

 新しい型式は魔術的効果を重視して死体からは離れている。

 空母長官、戦艦の艦長などやたら眠そうな重要人物がいるとすれば、

 彼らは念力戦闘のための人格コンピューターのアクセスを受けているのかもしれない。

 睡眠中でも感応できる。ある人間の強点から弱点まで何でも見られる。

 要人を取り殺すとメッセージを記録されて怪しまれるので情報源にする。

 そして、ガード方法も開発されている。つまり、

 機械を使った念力で殺すのはもう古い、という世界も存在する。


 どんな形としても作れるが、スイッチキューブは、

 弱くさせるために渡した武器に過ぎない。

 えらい中国人は、こう言うだろう。

 ヒドウも、

「俺でも作れそ。

 こんな古臭いの使ってさ」

「……」

 ビッグブラザーの上官、

 ブリはうつむいた。

 しかし、スイッチキューブには、

 旧規格だけの悪用方法があった。

 それは……???

 何らかのエリートであればあるほど、

 人間を生体コンピュータ化させるのだ。

 画像処理が得意な量子コンピューターにもなれる。

 それだけではあるが。なんかヤバい。

 

 それはそうと、

 永田とビッグブラザーだけになったので、

 場つなぎ的に永田が連れてきた若い子は……、

 やっぱりヒドウには勝てなかった。

「死ね死ねカースっ!」

「うっせ~……」

「き、効きません!」

「今まで精神波で察知した秘密言っていくからな。

 オペレーションフォースっていうのはな、

 子供を拉致する任務がある。

 拉致した子供に向けて、

 母親に電話がつながっているからと言って、

 助けてと言ったら蹴りまくって虐めて殺す、

 黙っていたら根性があるから許すと蹴らずに撃ち殺す。

 知ってるやつは、あの件だって思うだろ。先輩の思考を読め。

 ちょっと前に死んだ真朋さんは、女子大生ばっか狙う。

 失踪女子大生といえば真朋という風に言われていたんだと。

 海外旅行を当選させて、

 旅行先で拉致殺害か……。

 小さな会社として呼び込みを付けて、

 イベントを開く、それ自体は本物だが、

 そのイベント自体が彼女を拉致殺害するためのものなんだと。

 抽選機の中に機械が入ってて、他の人も賞はちゃんともらえる。

 誰も事情を知らないから明るいもんだよ。

 結構イベントってあるからな。

 わかんないよ。

 オペレーションフォースができた理由、

 それは神東さんが、15才以来、俺は素晴らしい女性に会ったことがない、

 嫁さんも別になぁ。それを聞いた海瀬さん、なら特殊部隊がいいですよ、

 あらゆる行為が肯定されるし、最高の嫁探しをしてみてはいかがですか、

 イドムドス様もお喜びになる。なるわけねーんだけど、そうか、それは妙案、

 じゃあ作れるかどうか自分の権能を全部使ってやってみよう、それで出来たのだ。

 しかし晩年には俺はなんてものを作ってしまったんだ、

 怖い、俺が思ったのとは違う、だとよ! 何人、死んだんだ?

 イドムドス警備隊は海瀬の私兵、

 オペレーションフォースは海瀬の口車で出来たっていうことだ。

 潰れちまえ!」

 ヒドウの、最低だ、でも相手が動揺するだろうから、

 言うしかないという思いが広がる。

 ヒドウは海瀬に目を付けられたことによって、

 念力戦の相手が上から下に下がってきた形だったので、

 相手の精神を読むことによって知り得たが、

 若いフォース員には、まだ早い情報だ。

 永田は、ちょっと予定と違うが場つなぎの若い子、

 15人は追い返した、誰にも言うなよだ。


 また永田とビッグブラザーの二人になった。

 念力勝負は遠方から行う、そして、

 フォースと隊が行う方法は携帯電話のように、

 電波装置と衛星を使って念力を増幅する。

 だから天然の念力と違って、

 屋外か屋内か、

 そして地下であるかで捕捉速度と威力が異なる。

 念話、未来予知、様々な能力を持つ優れた超能力者であるがゆえに、

 それを数か月受けながらまるで元気なヒドウ、遠方から念力で言う。

「分かるんだ。

 永田さんとビッグブラザー、

 近いうちに、

 どっちか怪我して、どっちかは大怪我だ」

「そんな馬鹿な? はは」

「そんな気はしねーけど……。気を付けるか?」

 二人とも活動に支障の出るような怪我はない。

 ヒドウがどこに住んでいるか、

 永田とビッグブラザーは見つけた。

 というか、海瀬も見つけていた。

 しかし、

 誰かがヒドウに手を下せる可能性が濃厚になると、

 急激に死が、その誰かを襲ってヒドウを守る。

 手を下して殺すことができないのだ。

 これは永田がうっすらと気づいて、

 ビッグブラザーが解析能力者に頼んだらいい、

 と言って、調べて判明した。

 ヒドウの能力1、こいつの生命を邪魔するとだんだん死ぬ。

 ただし、寿命や自発的自殺ではヒドウは死を避けられない。

 ヒドウが何の狡さもない視点から悪いといえる場合は、

 適切であると言える程度のダメージを避けられない。


 永田は思った、俺ら二人は、

 フォースと隊の中でも、一応は、上位だ。

 今になって分かった。

 なんか、20人一組で呪殺する部隊の中で、情報を見つけて、

 住所を見つけてそうな奴も黙っていたのは理由があったのか。

 そうだ、観光旅行だと思って行くというのはどうだ。

 もし見つけたら、その時本気になって倒す。

 俺らは死ぬのか。死ぬまでに何秒ある?

 その時、手を下して殺そうと思う。

 奴の能力、破格すぎる、

 解析能力者に解析させたら、

 殺せない能力、っていうんだもんな。

 だが何か細工した能力、嘘である可能性だってある。

 イメージ力で嘘に塗り替えることだって可能かもしれない。

 大体は脳だが、特殊能力を無効にする方法だっていっぱいある。

「敵うかな。ブラザー、

 アドバイザーはどうなった?」

「さあな。俺に聞いてもな。

 死んだんじゃねーの」

「俺たちで、ヒドウに、

 もしくはヒドウを守る何かに、敵うでしょうかね」

「いや。ちょっと変な感じはある。

 だが会えば。……、余裕だろ。

 会いさえすれば弱すぎて可哀そうな存在なんだよ。

 こっちからもアイツの身体能力に感応しているから絶対だ。

 行こう」

「……」

 永田は車に乗って思う、ヒドウどころか、

 ビッグブラザーにもこのままじゃ敵わんな。

 立場を分からせるか。

 助手席に座っていた永田は、

 運転席のビッグブラザーに軽く銃を向けた。

「永田、嫌な感じだな。

 アンタは俺が戦ったとこに乗ってきただけなのに」

「ん? ……」分かってもらう。

 発砲、同時に永田は目を失い腹を切られ足にナイフ。

 う、撃ってんのに……。

 永田は少し泣いた。ビッグブラザーは笑って、

「ヒドウ、お前、俺らが怪我するって言ったよな。

 当たってる。俺は怪我、永田のアホ、大怪我」

 そう言うとビッグブラザーは、

 永田を車の後ろに放り込んだ、

 永田は常時持っている固い止血テープで止血した。

 ビッグブラザーもそれを許し、

 銃弾の入り込んだ自分の腕を止血し、

 電話で自分のチルドレン(特に息のかかった部下)を起こした。

「なんすか……」

「夜中に悪いな。データ送るから、覚えろ」

「はーい!」

「地図を覚えてもらう。

 獲物を追いたい。ヒドウってやつだ。

 奴の恐怖の匂いをたどれ。そういう任務だ」

 永田と出した完璧な住所だ。

 が、

 ヒドウの家の近くまで行ったら、

 おかしなことが起こった。

 ビッグブラザー、

「俺は、どこを、行ってる?」

 カーナビの調子が悪い、

 もっと大事な頭のナビが壊れている気がする。

 腕を撃たれているし、

 永田は意外と傷が深くて泣いているし、

 気持ちが変わってきた。

 チルドレンに任せるか。

 やっぱ帰る。

「気を付けろ。何かある」

「大丈夫っすよ……、

 あれ、何も思い出せん」

「住所は伝えたはずだ。

 あ、俺も、忘れている」

「私はまだ覚えてます」

「よし、忘れるな!」

 特殊部隊は証拠になるようなメモを残さない。

 しかし記憶からもコンピューターからも、

 ヒドウの住所についての記録が消えてしまった。

 結局、全員が基地に戻っていった。

 戻ると永田の連絡によって再編がなされており、

 ヒドウに対して挑戦するチームが出来ていた。

 永田を治療室に送ったビッグブラザーと、

 護衛として、という理由を付けてビッグブラザーの傍に来たチルドレン、

「や、やばいかな……。俺たちは数の少ない警備隊だし、肩身が狭い」

「大丈夫かどうか分からない、ビッグブラザー」

「うん。直感としては、急に危ない感じはないがな」


 前、ビッグブラザーにもピンチの時があった。

 仲間から集団で殺すターゲットに選ばれたのだ。

 隊、フォースに入れたとしても、

 その時点ではまだ本当の隊員ではない。

 今回死ぬのはあいつと、あいつと、あいつだな、と、

 先輩方に決められる役が毎年ある。

 そして選ばれなかった隊員は思うのだ。

 本当に殺すんだ……。

 理由はまぁ、新入りの中では弱かった、むかついた、という感じ。

 入るだけでかなりの能力と資格を要するが関係なく殺して、

 事故でした、任務でした、部隊の性格上内密にと家族に言って終わり。

 他の若い心に亀裂が入れば成長する、

 それが目的だ。


 少し過去を思い出すビッグブラザー、

 そこにフォースの人の心の声、

(ビッグブラザー。大丈夫ですよ……。

 怪我をされていますね……ご苦労様です……)

「なんか大丈夫そうだな」

 ところが、2人のフォース戦士が部屋に来て、

 いきなり手負いのビッグブラザーとチルドレンのうち1人を射殺。

 残り2人はそのまま制圧した。

 やったのはフォースのトップチーム、

 人間調達隊のメンバー、ヒールと、

 その部下だ。


 ヒールはヒドウに念力を送った。

「ヒドウ君、はじめまして」

「なんか悪役っぽいオーラだな。

 ヒールさん、

 ヒールでいいよな」

「ヒーローがいいけどな」

「ヒーローっていいよね。

 でもそう言うなら、

 ヴォルテクスくらいやってくれないと。

 世界を食い物にするんじゃなくて、

 正義の味方をしなくっちゃ」


 仮面のヒーローが会話を傍受している。


「そうだねぇ、お互いまだ、

 ぶつかり合ったことは無いんだけど、

 ヴォルテクスは今まで4人見つけている。

 こっちも作戦の途中で見つかってはいるとおもう。

 ま、いいや」

「ヒール、

 あなたの仕事場ってどんなところ?」

「そりゃ、

 殺意推奨殺人無罪。

 ただし。

 全員強くて残酷なので余計なことすると死ぬ、

 それが特殊部隊」


 別室の永田も調達隊のメンバーだった。

 そして永田はさえないおじさんから、

 手負いの隻眼の美男に変わっていた。

 心の中で姿を変化させるとここまで変わる人なのだ。

(腹と足はちゃんと治せるくらいのダメージだ。

 念力と身体で回復加速を行えば怪我は数日で治る。

 目はもう戻らない、隻眼になったが……、

 でも、な、なんとかなるかも!)

 だが、

 そこに同じくビッグブラザーを倒した後のヒールが現れ、

 残った眼を突いた。

「イヒヒ」

「あっあー……」

 治療室で容体が悪化する永田、これは死んだも同然だ。

 念力で遠くから見ていたヒドウは思った、

 なんでだ。

「ヒール? ヒール、お前どうして」

「ヒドウ。永田はまじめだったから人気もあったけど、

 俺にとっては、邪魔だった。

 俺はいつも海瀬さんとランバージャックのように、

 コントロールされてて負荷が大きかった。

 そこまでは、まだ納得していた」

「じゃあどうして?」

「永田はさ。

 あのお方、アドバイザーが、

 やっちまってОMに乗る前に、

 手ぇひいて傍に置いておけよ。

 そうだろ。

 そのうえで負けて使えなくなった。

 だからやったんだよ」

「うん……。

 永田さんはアドバイザーには殆ど何もしなかった。

 もっと信じてたか、忙しかったんだろ。

 ここまで永田さんもほんと……」

「……。

 ハァ。お前の視野をジャックしたらさ、

 お前、戦略家クラウザーの本を読んでるの。

 高校生のくせに」

「おかしいかな」

「ページ開いてみろよ、

 何か解説を付けてやるよ」

「なんか俺たち、話の相性が凄い良い」

「確かに相性はあるよ、いいよ。

 だけど、

 お前は今回のターゲットだからな」

「あー。だからか。

 短期間で、知り合いがめっちゃ増えた」

「あっはっは。俺らは飯の時間もお前に合わせるし、

 お前が何かやってたらそれも同じタイミングでやるように気を付ける。

 そうしたら念力が効き始めるから。恥ずかしいけど、しょうがないよな。

 ……。

 どうやら、俺たちは家庭環境が似ているらしい」

「そうみたいです」

 意識の感応がある。

「親が最悪でね」

「ただ、あなた……、

 自分の父を殺してる。俺の両親は……」

「ああ。でも別にさ、特殊部隊になってからなら、

 犯罪じゃない。罪ごと存在しないんだから。

 縊り殺して、フォースの死体処理班に連絡。終わりさ」

「あなた、フォースの人だけど、警備隊とも組んで、

 夜な夜な……」

「あぁ、かっこいいチーム組んで、人を攫ってる。

 失踪事件の犯人は、俺たちだ。

 車、でかいバンや細工ありそうな車には気を付けろよ。

 夜人通り少ない場合や、何も抵抗しないで乗る場合は、

 怪しまれんだろ。だから人通り大事、夜は動くな」

「怖すぎ。他にも聞きたいな。

 フォースって拷問部屋があるじゃん」

「ある。ちゃんとしたやつある。

 AC歴2021年に作り直してる。

 手術室もある。壊した上に生きながらえさせる手術だけど」

「その念が聞こえるんだ。

 つまり世界中の拷問部屋には、

 まだ人がつかまってるんだ?」

「捕まえた奴は、二週間くらいで殺すよ。死なない方法で殺す。

 超小型爆弾を体の中に入れて炸裂させて、止血。

 ちょっともう治らないけどすぐは死なないっていう、

 体内だけっていう血の流れ方をさせたり」

「恐ろしい……」

「最近ひどい拷問受けた人がいた。

 フォースに楯突いた隊の人が、

 なんと全身を超小型爆弾でボムって止血、

 そんで胃に管付けて栄養補給。中々死なない」

「凄く恐ろしい……」

「それが特殊部隊。

 フォースの隊員を10人くらい倒したんだよ。

 オッケーだけど、こっちもやってオッケーなんだ」

「味方じゃないの?」

「味方味方。味方。

 外で失踪させるときはもうちょっと優しいよ、

 チーム単位では。

 そんなに生かしておくと、ちょっと面倒になるでしょ、

 だから連れ去って遊んだら殺して処理班に連絡だ」

「……。ひでえ」

「だろ? お前がもし強かったらどうしたい?」

「お前を殺す。っていうか組織つぶす」

「何かオタクっぽい一言で」

「シェルターは完璧なんだな?」

「? そっか。漫画好きか。お前はガンダムか」

「いや……ゴブリン。ちっちゃい怪物」

「うそだ。俺漫画見てるんだ。

 仕事で人に話しかけるために漫画読んでても、

 周囲には全然、漫画好き居なかったからうれしいよ。

 で、お前が雑魚だったら、どうやって強い者に勝つ?」

「ゴブリンがいっぱいいたら、

 全員がすごく鍛えますよ。動きなんかをね。

 そして毒を相手の鎧の中に入れる。

 笑顔で殺されて仲間を走らせる。 

 二人一組、三人一組、これでやりますね」

「ヒドウは、漫画の延長で軍事もちょっと好きか。

 いいかもね」

「あなたこそ、ほんとに読んでるんだ。

 逃げようにも電気と衛星使った念力は、

 逃げられないし、

 話すしかない」

「それって本当かよ。それにしては、

 こっちから見ると付いたり消えたりしている」

「そうかな~?

 じゃあ、何か話しましょうか。

 有名漫画の能力使いはどう倒すんです?

 精密な動きで、トラックを殴ったら吹っ飛ばせるような。

 他にも、なんとかして新入りにおしっこを飲ませるような能力使いは……」

「そのまま倒しますよ。生身なんでしょう」

「えっ……。でも臨戦態勢に入ってたら?

 ドアの向こうで待ってたら、

 あっちだけが能力で壁をすり抜けて、

 こっち叩かれない?」

「うーん。そうか。

 やっぱオタクに聞いたら、より良い意見でるね。

 俺らのイメージより強いんだね」

「殴られたら終わりって能力が多いよ」

「うん。じゃあ、最強親子の親父はどうする?」

「雄ちゃんは、そうだな、銃が効くかどうかは大きい」

「あ、そうだね。

 格闘王の前川彰良って知ってる?」

「知ってますよ、昔のから遡って試合見てます」

「俺たちなら勝てると思う?」

「あなた方の勝ちだ。

 一対一で瞬殺かもしれない。

 軍隊格闘の上の方って、

 プロレス、総合格闘、空手、喧嘩、

 他の何よりも、速さも重さも違いすぎる。

 でも、前川彰良は表の格闘王だから。

 俺もその試合見て、前川さん、

 強いな、カッコいいな、

 って思っているんだから」

「うん。それでいいと思う。

 なんか、お前いいかも」

 ヒールは遊びじゃないんだよ、

 って言いながらヒドウをボコボコにしたかった。

 しかし、久しぶりに生き生きした人間だ。

「ヒール、アドバイザーは……」

「あぁ、俺の先輩だったが」

「あんたも、

 死にそうだな。

 最後の風景をあげるよ。

 あんたが死ぬときには、

 俺が頭の中に風景を送ってやる」

「え? 何にしよ。死ぬ気ないけど」

「太陽だ……。

 手が届かない太陽。だからいい。

 晴れた空に太陽が浮かんでいる。

 あんたは手を伸ばそうとしている。

 届かないけど、外はきれいで暖かい、だからいいんだ……」

「俺、お前好き。まだ死ぬ気ないけど」

 ヒールは頭の中がヒドウでいっぱいになっていって、

 何か取り入ってみたかった。それから殺そうと思った。

「ヒドウ。

 お前すごいな。

 いろんな機械を使った念力なのに、

 こっちの攻撃が全然、効いてない。

 短時間で成長してるのか?

 お前は俺が欲しいもんもってる」

「……」

「俺たちの今のフォース長はどう思う?

 フォース長」

「……。どうでもいいことだよ」

「じゃあ、殺してあげようか」

「入れ替わったばっかりらしいし。

 それは……無理だろ」

「いーや、出来るね!」

 ヒドウに念力をかける作戦。

 オペレーションフォースの、

 訓練と任務を分けない性格が仇になった。

 たった一人の男にここまで手こずるか?

 どうすると良いか計画中の、

 新しいフォース長に、ヒドウは、

「あんた殺されようとしてるぞ。

 俺には関係ないから逃げなよ」

「えっ……」

 様々な装備で念力からは守られているはずのフォース長は、

 いきなり自分が捕捉されて驚いたが、何か身の危険を感じ、

 言われた通り、トイレにでも行くふりをしようかと部屋の外に出た。

「確かに殺されようとしている気がする。

 それにしてもヒドウって奴、

 この過程で成長していっているのか? 恐るべしだ」

「あのやろーっ」

 ヒールは賢すぎて頭がちょっと馬鹿になっていた、

 ヒドウと遊んでいる気持で、

 フォース長を追って、

 即殺した。

 首にナイフ突っ込みーの、ザックザク。

「アドバイザーは何、ガキに惚れたの?

 と思ったが、俺もやっちまった。

 ヒドウ、何か言ってくれ」

 あまりにも素早く新しいフォース長を殺してしまい、

 それじゃあテンションも上がらんし、

 ダメだろうということで、

 他のフォース員に銃を突き付けられた。

 終わりだ。

「死ぬ気なかったのに。

 ヒドウ、何か言ってくれ!」

「ヒールさん、あんたが悪いよ。

 そんな世界に入らないほうがよかったね」

「あ、ダメ。

 イジメ方が軽い。

 向いてない」

「風景を送る……」

「ぐっ……」

 殺されてしまった。


 隊の若い人から、

 ヒドウに質問がきた。

「少しは大変じゃないの。

 俺らに勝てる?」

「やあ。

 会えば敵いっこないんだ。

 隊、フォース、

 その中の誰か一人にでも、

 遭遇してからじゃ敵わないよ」

「隊のいいところ教えてください!」

「擦れた人間の中では……、

 まだまだ明るくて元気で純粋だ。

 そこまで擦れていないところかな。

 気持ちを崩すために、心からの笑顔を向けるような、

 そういう特殊戦の会話の技術があるみたいだけど、

 笑顔の違いがある。

 どちらにも同じ特徴はあるけれど、

 隊は純粋な、それこそ心からの笑顔だね。

 フォースは、世界にはいろいろある、

 けれど俺は君に笑顔を向けるよ。

 っていう、大人なんだな、ビター味の笑顔なんだ。

 どっちもあるけど。

 隊はユニークだ、

 隊に学歴はいらない。そして強い。

 入るのには身体能力、資格があって、

 ヤサグレているかどうか、か。

 ただ、ランバージャックさんが、生前、

 俺の男の子のあこがれを見抜いて、

 カッコいいから入りたいか? キツイぞ……っ。って。

 隊の人と話してるだけでこっちはへとへとだからね、本当だろうね」

「次は……、

 フォースのいいところと、

 弱点教えろ!」

「俺も呪われ始めて半年は経った。

 フォースはやっぱり強いよね。本当に強い。

 最高級の狡さと頭脳がある。身体能力も。

 何か行動一つしても、何でしたの?

 って先輩にしつこくバカにされる。

 寝ていると拉致される。周りで人が死ぬ。

 フォース員それぞれ一人の中でも、皆としても、

 一回溶かすくらいにして、ゼロから、

 ゼロから動かないくらいゼロから探して、

 実力の重ね合わせをやっている。

 全部を高レベルにしている。

 高度な地獄が作られている。

 他の誰かが、どっかだけで勝っていても、

 どうにかなるもんじゃあない。

 個人的には、悪い奴らだと思っているから、

 つぶれちまえばいいんだけど、

 彼らの目的からしての課題は、

 もしも隊くらいの目線があれば、実は練度がバラバラなところ。

 普通にみたら人類級に片足突っ込んだ人の集まりで、凄いんだけど。

 他にも選択肢で勝っている。実力だけじゃなくて、

 物事の道理を使っている。選択を間違えない。

 連携能力が人間の域を超えているから誰も勝てない。

 邪魔する能力も恐ろしいものがある。そこに触れるだけで死んでしまう。

 けど、その邪魔する能力を抑え込むことが出来た人もいるみたいだな」

「だ、誰ですか」

「隊では、ビッグブラザーが死んだあと、

 ダーティが強かった。

 呪いもそこそこに、

 俺の家に向けてバン2台を寄こしたけど、

 到達はしなかった。

 それよりもドサクサに紛れて、

 フォースに復讐したくてたまらなかったらしい。

 数も違うし、普段から負けて泣かされてきたから」

「人員整理だと思えばいいじゃない、

 って俺等には言ってました。

 こいつを先に殺そうかなって……」

「どうやら、

 自室では泣いていたよ。

 みんな息子達らしいから。

 それは海瀬さんも、

 他の人もそうだよ。

 で、ダーティは、

 フォースの若い奴相手に暴れまくって、

 その場所では全滅させた。

 豊臣秀吉や菅原道真みたいに元は人間の神として、

 海瀬さんとランバージャックとビッグブラザーを、

 神として祭っていたんだよ、彼は。

 信仰心は良いみたい。

 特殊部隊は汚れ切って、普通の人にはもう届かないけど、

 汚れた者同士では信仰心がある方がそういう力がある。

 上杉謙信の『愛』だな。

 だからこそ、しぶとかった。

 ダーティはフォースの若い人を倒してから、

 車を奪って逃走しはじめた。

 でも、少し走ったら良い所で故障して停車したんだよ。

 フォースの車はどれも遠隔で故障させることが出来るみたいでさ。

 やりすぎだっていうんで停車させられたんだろう。

 フォースのチームが、

 逃げられなくなったダーティのチームを追って山狩りが始まった。

 死んだなと思ったけど、なんとダーティは負傷しながらも、

 相手チームを倒して生き残った。山にも地図にもこだわりがあったんだな。

 オペレーションフォースは、

 どうせ世界は狭い、俺たちは相当知っている、

 って思っているのか、意外にも、

 自然との一体化と、山の移動と、

 地図判読は隊に負けている者も大勢いる。

 傷だらけのダーティーは車を盗んで、

 また戻っていった。

 最後に思い切り遊びたい、って言うんだ。

 そりゃいいや、と俺は正直思って、

 途中で聞こえた、弱い者ばかり狙うチーム、

 変な何とか室が近くにあったら、ぶっ潰してしまえ、

 やっちまえって言ったんだった。

 彼は何とか室をひとつ壊滅させた後、

 フォースに殴り込んで、

 限界がきて捕まったんじゃないかな。

 恐ろしい拷問を受けて、

 もう人間らしい生活は不可能な状態に切り刻まれ、

 今も生きていると思う。

 ビッグブラザーに勝てるかといえば難しいはずだが、

 隊最強は自分が見た短い期間の中ではダーティさんだった。

 とても品質の高いフォースの隠ぺいを割と見抜けたし、

 フォースからはうまくダーティを見抜けなかった。

 ダーティはこう言った……」


「ヒドウ、お前は甘ちゃんだ。

 しかしお前を狙ってから死傷者が多数出ている。

 強くなる方法を教えてくれ!」


「特殊部隊は良い情報を聞いたら、

 使えねーよって言って相手を殺すらしいが、

 俺は集中して考えた。

 戦士は間に合わなくなったら手を出して銃弾受けろ、

 特殊部隊は殺害人数が多い方が強いとされているけど、

 操作されずに精神と肉体を同時に攻撃に使ったら、

 殺害人数が少ない方が精神力が残っているから有利だ。

 山、そして、戦地となる部屋は泳ぐもの、

 敵のオーラが満ちている、泳げないか?

 って助言したのが良かったらしい。

 ダーティさんは、

 フォースがなぜ強いのか常に疑問視していたし、

 泳ぎに熱心だったから、完全に応用できたんだろうね。

 どっぷり浸かってないと部屋は泳げない」

「お前はできねえのに、

 きもちわり~、ありがとございまーす」

「バカ、出来るわけないんだよ。

 ダーティにも、

 死ねっ、

 つったら笑顔になっているし。

 ランバージャックもビッグブラザーもダーティも、

 死んだ後のブリの悪口言ったら笑顔だし。

 もうね、アンタね。辞めちまえ。

 糞部隊だよテメェがいるのは」

「チッ、おかしいな。

 なんで、うわーっ、ってならないの」

「どういうこと?」

「さあ……」

 精神波を読んでみると、

 全員が一度は20対1の念力を受けて、

 うわーっ、

 死ぬほど苦しい、

 こういう効果があるのか、

 という事を受けてみる。

 もっと少人数か大人数の場合もあるが、

 軍レベルのサイコキネシスを、

 ヒドウが我慢しているので驚いているようだった。

「!」

 質問者はなぜかナイフで己の首をついて死んでしまった。

 うわーっ……。これで何人目だ? 俺の超能力、

 こんなに強いとは自分でも思わなかった。

 防御態勢に入ったら、念力をかけてきた人が、

 関係のない何らかの原因で死ぬなんてな。

 因果関係がどうなってるのかも自分でもわからん。


 猫の耳はやした女の子が、

 遠くから念力でヒドウに話しかけてくる、

(んっふ)

(誰だ? 前にも一回あったな。フォエンさんか)

 この人の行動に乗れば、

 俺は幸運を作れると気がするな。

(一番大きな呪いが来る。ボクのソウル、真似して)

(え? あ、面白い形しているね。

 俺はちょっと疲れているんだけどな)

(でも、お願いニャ)

(人間じゃないみたいだ。神様か?

 俺の広域超能力なら日に数度、

 数分間、同じ形になれそうだ)

(その数分で作ってほしいものがあるんだけど。

 今までで一番大きなのが来るから。これは絶対)

(あぁ。わざわざ済みません)


 オペレーションフォースとイドムドス警備隊は、

 身体、精神、頭脳のエリート達を何年もかけて、

 人でなしに作り替える組織であった。

 全てができる、善用すれば大変な善事を為せる。

 しかし、生命の尊厳破壊と殺人しかやらない。

 全てがそれへの布石。

 ただの不要な組織だ。

 そこから生まれる一番大きな呪いがヒドウにやってきた。

 それは、オペレーションフォースとイドムドス警備隊の本隊にまで通達された命令による、

 心身を鍛えぬいた人間300人同時の「ヒドウ、死ね!」の念が一日目、8時間。

 二日目、16時間、三日目、8時間。

 そしてフォースと隊による、新ヒドウ計画を発案したが、

 反対に上から停止命令が出たことにより、地下化して継続。

 しかしヒドウは、

 遠方からフォエンの口添えを聞いていたことで、

 己の周囲に本物としての特徴を備えた目立つヒドウを創造し、

 己は全く異なった振動を放つという基本的な回避技を編み出した。

「ジャミングと防御を兼ね備えた、

 本当の俺よりも本当の俺が受けて立つ。

 生身では耐えられねーからな。

 ありがと、フォエンさん」

 こうして、最大の攻撃はアッサリと回避されつづけた。

「戦車やOM部隊で暴れたらすぐに決着だっただろうに、

 表社会に影響を与えないということを考えてるんだな」


 ヒドウは念力勝負の途中で、

 非常に素晴らしく珍しいものを見つけた。

 人類最高峰の執着がいくつもヒドウに絡みついたおかげで、

 ふつうは死ぬはずなのだが、

 フォエンの助けがあって生きていて、

 人間の念力が絡みつきすぎて次元がひん曲がって、

 ヒドウの精神は真理の領域に到達した。そして……。


 怪物に攻撃を受けて、

 装甲を引きはがされるOMの中で、

 ビビるヒドウと、

 アドバイザー、

「こうなるなんて」

 驚愕の表情。

海からまた陸、他の街中に来た所だった。

 OMは残った武器を至近距離でぶっ放した。

 怪物は生命を散らしながらバラバラになって飛んだ。

 けれどもう、目的の地点までは行けない、それどころか、

 爆発しかねない、OMに乗っていられない。大ダメージ。

 ダメージを受ける直前。

 アドバイザーは誰かが、

 自分を誘拐するように依頼したことを直感で察知した。

 できないはず……。

 しかしそのことで一瞬の隙が生まれ、

 怪物の攻撃を捌くのがコンマ一秒遅れた。

 倒しはしたが、撃破された。そして、

「ぼくを、ゆ、誘拐する依頼はウソ? 馬鹿な……」

「やられちゃったな。けど、

 アーちゃん、心配するな。

 何か良いことが起こったぜ。

 何だか分からないが、今、

 怪物にやられたのは良いことだ」

「チッ。近くにまだレジスタンスの敵が隠れているはずなの」

「俺は勝ったと思う。

 逃げようアドバイザー、まずは病院へ行こう。

 そして、もうこうなったら2人で住もうか。

 海外逃亡だ。不思議だなーって誰も追ってこないさ、きっと」

「えっ? バカ?」

「髪のにおい、化粧っ気も何もないな」

「あ、あたりまえ。仕事忙しい」

「ロボットから降りようよ。

 すぐ下りないと、どっちかやられる。

 少しでももたつくと悪くなる!」

「う? うん。ヒドウ君と念力が通じ合えない、遮断されてる」

「えぇ、なんでだろう?

 今のうちに外に出よう、今静かじゃん」

「馬鹿だろ。居ても、

 静かにするもんなの。

 危ない、ぜったいやられる」

「でも出ないとやられるし。

 コクピット開けろ。早く降りよう」

 手を取り合って降りると、

「危ない、危ないって」

「ほら。大丈夫だろ。

 何も起きないじゃないか。

 心配すんな、俺がついているよ~」

「何の足しにもならない……」

 アドバイザーは、

 本当に不思議な気持ちになっていった。

 ヒドウは跪いてアドバイザーの足にキスをした。

「アーちゃん。お前は、

 なりたかった本当の女の子になったんだ。

 そして俺たちは特別な世界の中で生きている」


 真理の領域。

 下に落ちたら上につながっていた、

 ヒドウが見た宇宙はトーラスという構造になっていた。


 一般部隊で9年間、

 フォースで15年間、

 計24年兵士として勤務。

 全てにおいて洗練された、

 50代の特殊戦士として散華し、

 今霊界で女の子になったアドバイザーは赤面し、

(く、くそ、くそ……っ)

 ヒドウはアドバイザーを抱きしめた。

 生命の駆け引きのない、本当の恋愛関係になった。

 幽霊になったアドバイザー、

(好きだ、ヒドウ。

 やられた!

 本当はいつやられた?)

 途中で進化し霊能力を持ったヒドウ、

(思い出したくない部分もあるけど、それは)


「う? うん。ヒドウ君と念力が通じ合えない、遮断されてる」

「えぇ、なんでだろう?

 今のうちに外に出よう、今静かじゃん」

「馬鹿だろ、居ても、

 静かにするもんなの。

 危ない、ぜったいやられる」

「でも出ないとやられるし。

 コクピット開けろ。早く降りよう」

 多少もたついた。2人が下りると、

 どこにいたのかレジスタンスの怪物が猛然と現れて、

 引っ掴むとロボットにたたきつけてアドバイザーを殺した。

「ヒ……」(やっぱりな、お前、馬鹿、ばーか……)

「アドバイザー!」

 ヒドウも同じように掴まれた。

 ぺしゃんこになる運命に思えたが、

 仮面のヒーロー・ヴォルテクス、

 英雄の仲間、ヴォルテ・クアッドが現れた。

 戦闘バイクが自走し巨大な怪物の腕を轢く。

 ヴォルテクスが落ちたヒドウをつかまえておろす。

 そして怪物を殴り飛ばし、

 腕を向けて連続して針のようなものを飛ばす。

 怪物は眠り、もう動かなかった。


 ヴォルテクス。

 いるとは思ったが、

「……? ……!」

 会うことはないって感じだったのに。

 周囲を警戒しながら話しかけてきて、

「いいか。

 ……ヒドウ君。

 いったんは大丈夫。

 だが君は、あまりにも狙われすぎている。

 おそらくどこへ連れて行っても発見される」

 そういうと、

 自分から顔面部分の装甲の一部を外し、

 ヒドウの顔に巻くようにして、

 かぶせた。

「え? カッコイーお兄さんか。

 ヴォルテクスって、

 発祥の時期からして、

 おっさんだと思ってた」

「知っているのか」

「裏世界にしては有名だし。

 な……、なってみたいっすね」

「なら、君もヴォルテクスだ。

 これで……。

 ヴォルテクスの鎧は、

 選んだ対象の念力を遮断できる。

 近くで使えばより正確に」

「でも、なんであの子は、

 アドバイザーは助けなかったんだ」

「……。届かなかった。間に合わなかった。

 しかし正直に言えば助けることは危険だ。

 彼らはイドムドスの暗部。

 普段は民間人を拉致しているが、

 チームを組めば怪人でも秘かに倒せる。

 それは怪人と戦える程度の力も、

 倒せる能力があるということだ。

 ……。

 けがは、ないようだな」

「いや、でも俺って、

 ケガしてるしてないって関係ない位の身体だから、

 今の助けがなかったら、死んでたよ。

 一人で何とかなると思ってた。

 こ、ここまで大事(おおごと)にならないと、

 ダメなものか? アーちゃん……、

 他の相手も、俺が超能力で防御していたら、

 面倒になってひっそりとあきらめると思ってた。

 なのに勝手に死んで行っちゃうしさ。

 あんたが来ないと、俺は助からなかったのか」

 ヴォルテクスが来なければヒドウは、

 アドバイザーから地獄を味わうことになっていた。

 ヒドウの周囲については情報収集が終わっていた。

「……。

 君にとっては、

 ただの夢なのだ。

 思い過ごし。

 しばらく、そう思うといい」

「この板? くれるの?」

「いや。念のため渡さない。

 ただ、君の精神力は尋常ではないらしい。

 素材を理解すれば精神世界での効果を維持できるのではないか」

「あ、できそう」

「オレには無理だ。誰にもな。

 さあ少しの間、それを被っているんだ。

 我々はその間に片づけることがある」

 言葉の通り、怪物が続々と集まってきた。

 3台の戦闘バイクの音がどこからともなく響いてくる。

 だがバイクの音は止まり、

 近づいてくることはなかった。

 その場で戦い始めたのだ。

 その時、上空からレーザー砲か何かが連続して照射され、

 ヒドウにとっても、消されるんじゃないかという迫力だったが、

 レーザー砲は怪物ばかりを狙っていて、

 傍にいるヴォルテクスはヒドウの近くで警戒して、

 2匹の怪物を倒す程度の防御行動をとるだけで済んだ。


 レジスタンスの場戸、

 部下から怪物が倒されていった報告を受けて、

「ホゲェ~、うちの若いのが全滅?

 ヒドウは捕捉してたけど、

 機械の不調で外れちゃった?

 劉備か。

 ヴォルテクスか。

 え?

 味方同士でも?

 潰しあった?

 もう知らんぞ!」


 空から降りてきたのは、

 紺色の細いOM、レヴォプレッサという。

 ハッチが開くと、すぐに魔女の格好の女の子が、

 重力制御マントを使ってふわりと降りてきて、

 そしてヒドウの傍まで来る。

 ヴォルテクスの装甲の一部を取り上げると、

 ヒドウの頭をゴン、と叩いた。

 ヒドウにとって何か、

 場が明るくなった気がした。

「だ、誰? あっ。

 いて~よ」

「いいですか。

 この後、

 貴方は私のことを忘れる。

 アドバイザーを召喚する。

 そのためのストラクチャーを入れますね」

「俺たち、同じ学校の生徒だぜ。

 近づいてみろ。

 えーと……キスしまくってやる」

「クアッド」

 ヴォルテクスはうなづくとヒドウの口を押え、前のめりにさせて取り押えた。

 魔女の少女イフロムは、ヒドウの額にその額を合わせた。


 イフロムのストラクチャー、そして、

 破壊されたSFCと本人を素材に召喚された、

 実体化可能な精神生命体、

『英霊アドバイザー』

 今となっては大人しく優しい。

 少々ぶっきらぼうだが、本当に少々だ。

 10代の少女の外観と声。

「ぼくが君の武器だから」


 ちなみに男として現れるときは、

 現代の忍者というような出で立ち。

「聞いたことは一度で覚えるのが当然。

 すぐ出来るようになれ。さあ、ミスするな」

「難し~っ!」

「甘いと思うんだけど」

 その際には体格さえ違い戦士然として現れるのだが、

 ヒドウは見たことが無い。

 もはや、ちゃんと彼を見た者の多くは、

 続々とあの世へ旅立ち、この世に残っていない。

 優等生で、慶応義塾大学を卒業した後、

 医者にしたいと願う両親、

 とくに父親と決裂していた。

 平和維持組織イドムドスに入隊すれば、

 両親から逃れて自活でき、本当の意味で強くなれると思い入隊。

 全身全霊、持てるすべてで軍隊に適応。

 サバイバル技術とオペレーションマシン操作の資格を取得し、

 イドムドスの特殊部隊、オペレーションフォースに入隊。

 極秘任務を行う部隊の性格上、世界中で残虐行為を行ったが、

 最終的には深層心理がそれを嫌がっていた。

 フォースのトップチームとして暗躍し、小さな戦いで散った。

 死後は少女となり、ヒドウの英霊になっている。


(何時って、フォースリーダーの一人、

 真朋さんが死ぬ前だ。

 あそこで、

 アーちゃん、死んでたよ。

 悼む時間も殆どなかった。

 俺はあの後、

 眠っているお前と一緒に、

 レヴォプレッサっていうOMに乗せてもらって、

 なんか、普通のマンションに隠されて、

 そこでヒールが死ぬところ感じて、

 ダーティが暴れたのを見ていた。

 次に猫の神様に助けられて、

 残りのマイナスの念力を受けたんだよ。

 お前はそのあとで目が覚めた。

 順番を間違えていたら、

 何か歯車が狂って、

 危なかっただろうな。

 今なら言えるってやつ。

 もう夫婦だから言うぞ)

(もういい、もう。

 恥ずかしい)

(アーちゃんは兵士だった。

 もし神と倫理の存在がなければ、

 あのまま強い存在として単純に尊敬してたよ。

 でもダメだ。今の方が良い。

 念力を使えるエスパーの女の子だ)

(それでいっか)

 ヒドウはマンションから出て行った後、

 実家が物理的に壊れているので、

 市役所に行って相談し、アパートに引っ越した。


(あれから何年たったのかな)

(さーな? 思い返せば、

 お前がナンバーワンだった)

 実績と能力があるエースだと何回気づいても、

 つど現れる女の子らしさから、上手く防御態勢に入れなかった。

 それどころか可愛いと思う。ただしそれが実は、

 アドバイザーにとっても弱点であった。

 ヒドウが苦心するほどに、

 この人は私を幸せにしようとして守ってくれる。

 と精神が動いて心から思ってしまうのだ。

 とくに英霊となってからは、

 肉体の枷もなく美しさに磨きがかかっている。

 その泡沫のような声、

(サービス・エースー……)

 これはテニスやバレーで点が入る意味だから、

 君も点を入れよう。という事?

 エースからのご奉仕という心もあるみたいで、

 この連絡の後には何かを教えたいみたい。

「これ、例えです。

 しっかりやって。でも動かすなよ~。

 動かさないでいいんなら動かすな。

 でもしっかりやってね。分かる?」

「ウーン。まだ分かんない」

「あーあ。

 教えるの無理か。

 この子、

 鍛えたらどうなるんだろう。

 少し見たいな」

「もういいっす」

「どれだけ好きでいてあげてるか分かる?

 ヒドウ。ぼくはお前に騙されたんだね」

「そうなるか。

 じゃあ、戻りたい?

 元の状態に。

 お前も大佐も中佐も生きている所まで。

 今と、どっちがいい」

「……。戻りたくない」

「だよな。開放感があるだろ。

 でも実はちょっとだけ戻りたい?」

「戻りたくない」

 人間、記憶違い、

 聞き違いもあるけれど、

 戻りたくない、そう言った。


 青年となったヒドウ。

(思い出だよ。

 俺、若かった。

 忘れてない。

 イフロム、あいつが俺を活かしたのは、

 イドムドスの特殊部隊にデカいケチをつける気だったな。

 だからタイミングを見計らい、

 アドバイザーを英霊として召喚させた。

 俺だけがアドバイザーの秘密を知っている。

 俺には勿体ないほどの)

(何も言えない)

(でも。何度思い返しても、

 アーちゃんが上手くいっていたら、

 一番、恐ろしい殺され方をするところだった。

 ……。

 英雄として存在するぶんにはいい。

 俺はこの人生の方向を誤ったり、

 自ずから精神を病まない限り、

 英霊アドバイザーに保護されることになった。

 一生……)

(強くなったね。ヒドウ)


 この後、

 フォースと隊は平和維持予算を流用して、

 ヒドウの命を狙うプログラムを継続する。

 それが作戦、仕事。

 しかし。

 アドバイザーが、

 ヒドウの英霊として召喚されている。

 そして、結果的にヒドウはただ狙われるだけで、

 大組織の非道な部分を同士討ちさせるという、

 誰もそんなことはできないということをやった。

 よみがえった英霊アドバイザーは、

 プログラムを稼働させながら、

 実質的には、もたつかせたり失敗させたり、

 機能させないことにした。

 衛星と電気を使った遠隔念力は、

 屋外と屋内で威力が変わる。

 アドバイザーはトップの戦士だったので、

 味方が持っている弱点もすぐに思いついた。

 ヒドウが買い物に行くにしても、

「アーちゃん、

 どう?」

「今、外出できないから。

 もうちょっと。30秒後、

 それなら大丈夫」

「何の差があるんだろ。恐ろしいなぁ」

「はい。とても恐ろしゅうございます、よ」

 その方法はあまりにも細かく難しく、

 ヒドウには意味不明。

 真理さえ利用する特殊な目線からは高尚、

 その意味が分からなければバカバカしい。

 さておき。

 知ることはできない方法だ。


 それから、

 ついにイドムドスは、

 特殊部隊を、

 残虐過ぎる。

 被害者はただ弱者であったというだけ。

 隊員も己の一生を使って廃人になる。

 創始者のコンプレックスを満たすための組織は、

 この世界の上に必要がないと認識していった。


 真理の領域。

 誰かが間違って単に到達しても、

 本人の気づきがなければ何も起こらないが、

 ヒドウは自身が広域超能力者であり、

 フォエンのソウルをマネできるので気が付いた。

(こ、これは……、直感した。

 俺が何かを創造できるのか?

 例えば創造力をもつでっかい神を……。

 順序が変だぞ。逆だ、危ない、不可能であってくれ……。

 俺は……木の根っこのように有り余る真理を吸って、

 それなら出来るのか。

 現実世界に戻ったら訳が分からない理屈だが、

 今の状態なら本当だ。

 数分なら、神と人の順序さえ変更できる?

 や、やっていいと思えねぇ、

 神様が遊んでいいと許してくれているのか?

 精神が、真理の流れに……今、

 少しだけ乗っている。

 すごいぞ。今なら、

 疑問を宇宙の時間に任せて、

 演算の答えをもらえそうだ。

 疑問なんかあったっけ。

 残念ながら俺って、

 疑問ってものを持たない性格。

 いや!

 あった。

 ちっちゃいヤツがあった。

 これは戻ったら疑問に思うぞ。

 特殊部隊がなぜ、念力なんかやってるのか?

 答え、戦闘態勢に入って精神が爆発している敵にさえ、

 催眠術をかけられるような自分達になるためで、

 それなりの功を奏している、そりゃ効果はある。だ!

 裏切り者を追うことにも効果を発揮する……。

 これは怖い! 彼らと比して自分に足りないのは、

 現実の戦闘技術……。

 ただしそれを覚えたら普通の一生は送れなくなる。

 やめとこ。これでオッケーだ)


 女性フォース隊員1、

「ヒドウは学生だけどちゃらんぽらんで、

 毎日、女子生徒の勉強の邪魔をしようと狙ってる、

 大した人気もないのに自分を大人気スーパースターだと思っていて、

 世界転覆を夢見ている。力もなく生きている価値が無い。

 何ですかこの資料? 私の知る限り、

 今まで彼のせいで70人は死にました。

 実情と同じでは……ない」

 上官P、

「その資料も古いものだしな。

 それに資料は、

 ……そのな。

 重要なポイント以外は、

 倒しても良いと見えるようにうまく書いている。

 本当に死んだ人数はそんな数ではないのかもしれない。

 初めからこういう相手だとわかっていたら狙わなかったはずだ。

 ま、計画が終息するその日、終わりまで、あまり怒らせるな」


 青年となったヒドウは、

 まだ狙われているままだが、

 英雄ヴォルテクスと、

 忘れなかったことにより、

 魔女イフロムに、

 会おうと思えば会える程のつながりが出来た。

 己の能力の進化と英霊という大きな力を得て、

 暮らしている。


「ヒドウ君。あっ、

 どこかから念力部隊が来たみたい!

 うーわ、ノーマークだった」

「えぇ? どうして……もういいだろ!」

 始まりと似ている。

 20人一組で、1人の男が代表で話しかけてきた。

「お兄さーん。コンニチワーッ!」

 体がでかい。

「せっかく、

 秘かに念力増幅マシンを賃貸してるのに、何でずっと生きてるですか?

 何故そんな念力強いですか? ビジネスに差し支えます。我々と勝負でーす」

「勝負……?

 いらないものを作った奴らが遂に俺の前に来たか。

 なら不調にさせるぞ。念力マシンを」

「私どもの念力増幅マシンはめっちゃ頑丈、壊れないはずです」

「平和維持組織のどこか?」

「そうです。だから興味もちました」

「帰って下さい! いや、

 敷居またぐんじゃねーぞ。またぐなよ。

 ……。

 サイコキネシス!」

 手をかざすと、

「グアァ、頭……割れそう!」

 男の精神体は頭を押さえた。

「怖」とアドバイザーは言った。

「その攻撃。

 終わらない争いの幕開けなんじゃ?」

 さすが戦いの開始には結構、繊細だった。

 男がヒドウに銃を向ける、

 アドバイザーは横からスコップで男の腕を突いて、

 スコップを首に持って行って突く。

 男は数度突かれて転倒し、首、顔を連続で突かれた。

「ォオオ~」

 この【どこか】からの念力は、

 12時間で区切って、予備チームを置いて、

 場合により24時間かけることもある様子。

 効果がないとみると、すぐやめて計画を練る。

 逆に本気を出さずにダラダラと様子見もやる。

 フォースと隊の時も思ったが、

 通常兵器で戦争始めたら勝てるよ。

 だからやめませんか? と思う。

「……。悪の組織っていうのは、

 この世界にどれくらいあるんだ?

 出てけ!」

 両手を前に伸ばす、

 全員を精神の外へ追い返した。

 地球のどこか、それが分からないまま、

 アッサリと念力増幅マシンの本体を見つけると、

 そこに己の精神をつなげ、

「自分は……最低の人に作られた……。

 自分を使う人間を許さない……そういう存在なんだ……あーーっ。

 厭世の感情! 特殊部隊は全部私のペット、遊んでやるぞ~。

 私は一般人の味方なんだ!」

 こう念力増幅マシンと同調して喚いた。

 いかなる任務も即応完遂しようとする彼らが練ったやり口、

 そして今の俺の体を通して出るエネルギー、よーく効くだろ。

 敵からの攻撃はアドバイザーがガードしている。


 後から、念力増幅マシンから、

 悲しい音楽の響きが送信されてきたが、

 これがどうも心地いい。

 そら一般人の味方なんだから当然だ。


 静かに暮らしている所に、

 甘いメロディ。

 それは何日もやまなかった。


 2人は生活に花を添えられた。

 ヒドウが手を取ると、

「……」

 顔をそらす。

 それから調べに乗って、

 ワルツを踊り始めた。


 おわり

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スペシャルサイコキネシス あいざわひかる @aizawahikaru

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