第30話 真実その2。

「冬休みの前半までは、超幸せだったのに」

 マヨミヨとともに学校へ向かうあたしは、がっくり肩を落として歩く。

 冬休みはあっという間だった。後半は、すっかり忘れていた宿題に明け暮れていた。

「仕方ないよ。一夜ばあ、入院をよぎなくされちゃったし」

 舞夜の話しの通り。単なるぎっくり腰だって聞いていたけど、本当はかなり重症なんだそうだ。

「蒼夜くん天夜くんだけじゃ、不安でしょうから」

 美夜の言葉に、あたしは納得してうなずく。

 というのも、蒼夜くん、天夜くんのご両親は、天夜くんが生まれた翌年に亡くなったから。

「それに、沙夜の効果があってか、彼、少し大人しくなったし」

 舞夜曰く、帽子を被ればやたら勝負を挑んでいた蒼夜くんは、今では帽子を被っても大人しく過ごしているらしい。

「たまに、星夜がこっちに来て鬼ごっこが始まるけどさ」

「元気でいいんだけど、ちょっとね」

「……姉として、面目ない」

 あたしは、マヨミヨに向かって深々と反省する。

「いっけない。そう言えば、あたし、一時間目の御用聞きがあったっけ!」

 任務を思い出して、あたしはひと足先にダッシュで向かう。

 昇降口を通り過ぎると、雪がちらついていた。

「あ。前にも、見た景色だ」

 タキ田市で雪が降るって珍しい。

 ちょっぴり、わくわくしてきた。

 あたしの手袋に、雪の結晶がとけて消えていく。

 校舎の時計を見ると、時間がずれていたため、懐中時計で確認。

「ふーっ。まだギリギリセーフだ」

 自分の懐中時計は正確だ。

 一度もくるったことがない優れもの。

 靴箱に到着し、靴を直している時だった。

「天丼沙夜」

 はっと顔を上げる。

 靴箱の上で、忍者座りして構えている蒼夜くん。

 反射的に、あたしは懐中時計を握り締めた。

 たしか、あたしの懐中時計を奪おうとしてくるはずだ。

 蒼夜くんが腕を伸ばしてくる。

 ほら、やっぱり!

「ほらよ」

 そう言って、あたしの頭の上にぽふんと何かが乗っかった。

 それを手に取ってみると、当番日誌だった。

「今日、オレたち日直だろ。先に御用聞き行ってきてやった」

 蒼夜くんは、すたんっと靴箱から降りた。

 そうだったんだ。

 懐中時計を奪おうとしたんじゃなくて、腕を伸ばしたのは『念力』で当番日誌を頭の上に置いただけだったんだ。

 蒼夜くんは、ポケットに手を突っ込んで廊下を歩いて行く。

「蒼夜くん、ありがと!」

 あたしは、蒼夜くんのあとを追いかけた。

「蒼夜くんって、ほんとうは優しいんだね」

 そう言うと、蒼夜くんは一層目深に帽子を被って黙りこんでしまった。 

 知ってるよ。だって、一夜ばあが倒れた時、すぐにあたしたちに助けを求めようとしたこと。救急車より、先に。

「蒼夜くん、今度、一緒に普通のカルタしようよ」

「……別に」

 ボソボソ答えた蒼夜くん。

 別にって、OKってことでいいのかな。

「あと、その帽子、今度あたしも被っていい?」

「断る」

 あたしは、むくれる。

 だって、『瞬間移動』ができれば、学校まで毎日ひとっとびできるから。

「懐中時計と交換なら」

 蒼夜くんが交換条件を出して来た。

「断る」

 あたしも淡々と返した。そして、あたしたちは声を立てて笑った。

「もう絶対にイタズラしないでよ」

「しねーよ。たぶんな」

 それから、肩を並べて一緒にひんやりとした教室へ入っていく。

 やっぱし、冬っていいな。


               ―おわり―

 

 

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