第29話 一大事。
十六夜おじさんが、一夜ばあと連絡を取ると、少し時間がかかったけどつながった。
「やあねぇ。ただのぎっくり腰よ」
ほがらかな声が、受話器ごしに聞こえてきた。
ほっと胸をなで下ろす、十六夜おじさんたち。
ひとまず、大丈夫そうだ。
ただ、あたしは、大いなる疑問を抱いていた。
「蒼夜くんちって、県外でしょ? どうやってこっちまで来たの?」
座敷で向き合って、お茶をすする蒼夜くんに質問した。
「帽子で」
蒼夜くんは、さらりと答えた。
過去で、千夜ばあから聞いた話しを思い出す。
蒼夜くんが被っている帽子は、『瞬間移動』の効果もあることを。
座敷に、さんさんと降り注ぐ朝陽。
あたしと蒼夜くんだけがいる座敷は、しんと静かだ。
マヨミヨたちは、おじさん、おばさんと別の部屋で話しをしている。
黙ってお茶をすする蒼夜くんに、時折り視線を置く。
何を考えているのだろうか。
帽子のつばで、表情がわかりにくいけどなんとなく元気はない。
そもそも、普通に、玄関ピンポンして知らせればいいのに。
なんで、イタズラで知らせようとしたんだろ。しかもあたしだけに。
う~っ。やっぱモヤモヤする。
蒼夜くんに質そうとして、スッと少し戸が開く。美夜が手招きしてきた。
「沙夜ちゃん、ちょっと」
席を外すと、廊下でマヨミヨと額を集めた。
「実はね、一夜ばあの容体が落ち着くまで、また、天道兄弟預かることになったんだ」
舞夜が言った。
「そっか」
「だから、アベニービルは、当分おあずけだよ」
「そっか……そう……えっ?」
えぇぇぇーっ!!
思わず、こんしんの力で叫んだ。
むしろ、叫ばずにはいられなかった。
もはや頭が真っ白だ。
魂がしゅるしゅるとぬけ、へなへなと座りこむ。
あたしのキングパフェは、またも遠退いてしまった……。
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