天道家は今日も平和。
第28話 Re。
タキタ市の気温は、15℃。
12月下旬にしては、暖かい。
「雪降らないかなぁ」
あたしは、クリスマスプレゼントを小脇に抱え、マヨミヨの家におじゃまする。
「そういえば」
蒼夜くんのことを思い出した。
冬休みに入ったけど、蒼夜くんたちがこちらに来るって連絡はなかったようだ。
あたしたちは、小四の時に出来なかったクリスマス会を盛大にやることにした。
ジングルベルも、きよしこの夜も、あわてんぼうのサンタクロースも大熱唱!
それから、年明けにはアベニービルへ行くんだ。
ほんとうは、夏休みにアベニービルへ行きたかったど。
超能力勝負やら天道兄弟のせいで、マヨミヨたちは宿題に追われてしまったのだった。
そうして、千夜ばあの命日も過ぎ、年が明けた。
本家に集まって、まったりお正月を過ごす。
豪華なおせちやごちそうを、マヨミヨ家族とあたしの家族で囲む。
それから、普通の羽子板対決に、普通のカルタ取り。
お正月らしいお正月を、満喫していた。
「すっごく楽しみ~! 明日アベニールビル行くの」
夜、あたしは舞夜の部屋で、何の服を着ていくか相談する。
今日だけは、マヨミヨんちにお泊りさせてもらい、こっからバスと電車を乗りついで日帰り旅行へ行ってくる。
「キングパフェ、楽しみだなぁ」
「沙夜、ずっとそればっかだね」
「じゃあ、舞夜は何が楽しみなのさ」
あきれる舞夜に、あたしは聞いた。
「やっぱ、アベニールビルの展望台にいくことかな。高いところってわくわくするもん」
舞夜は、空気さえあれば、どんな高いところでもへっちゃらだろうな。
「まさか、飛び降りる気じゃないよね?」
「んなわけないでしょ! もう清水の舞台だけで十分だし!」
舞夜と顔を見合わせて笑った。
「美夜は?」
静かに荷物をまとめている美夜に、あたしは聞いた。
「わたしは、かわいい雑貨屋さんでショッピングができれば満足だわ」
さすが、美夜らしい。
「割れにくい、ガラス細工とか欲しいなって」
「……それ、絶対無理でしょ」
舞夜がすかさず突っこんだ。
「じゃあ、明日に備えて今日は寝よう!」
意気揚々と、あたしは電気をパチンと消した。
舞夜の部屋に布団を敷いて雑魚寝だ。
そして、朝がやってきた。
意外と、よく眠れた。
ぐーっと思いっきり背筋を伸ばす。
時間通り、みんなで布団から起き上がる。
「げっ! 沙夜!?」
「沙夜ちゃん!? その顔!!」
あたしの顔を見るなり、マヨミヨは、そろって目を丸くした。
「何? 顔って」
顔に触れた時、なんだか皮膚がパキパキとした。
洗面所へ行って、やっと事態が飲みこめた。
「なんじゃこりゃああああっ!」
盛大に叫び、十六夜おじさんも、おばさんも慌てて洗面所へ駆けつけた。
「どうしたんだい、沙夜ちゃん!?」
墨で右目は丸で囲まれていて、鼻の下にジェントルマンなヒゲも描かれていた。
「こんなことするのって……」
一人しかいない。
あたしは、外へ出て犯人を探した。
「そうだ。むしろ過去へ戻ればいいか」
『時間操作』で、先回りして犯人を捕まえればいい。
そうして、再び戻って来た昨日の夜。
「明日に備えて、早く寝よう」
あたしが言うはずだった言葉を、舞夜が言った。
「あたし、五時に起きるよ」
「沙夜、そんなに早く起きるの?」
「六時で間合うのに?」
けげんな面持ちのマヨミヨ。
「それがね」
あたしは、マヨミヨにわけを話した。
「何それ!?」
「ほんとに!?」
口々に驚くマヨミヨ。
「だから、絶対に犯人を捕まえるから! おやすみ!」
意気ごんで布団の中へもぐると、あたしはすぐに深い眠りについた。
目覚ましが鳴り、あたしはすぐさま止めた。
しばらく布団の中にいると、二階だというのに窓がスッと開いた。
目を凝らすと、筆らしき物体が。
そこで、時計を止めた。
すぐに外へ出て、犯人を捜す。
庭にはいないようだ。
となると。
敷地の外へ出ると、やっぱりいた。帽子を目深に被って、腕を真っ直ぐ伸ばしたままの蒼夜くんがいた。
あたしは、蒼夜くんの前に立つと時を動かした。
「コラッ! 蒼夜くん!」
叱りつけるあたしを前に、蒼夜くんは腰をぬかして驚いた。
「さ、沙夜……」
あたしは、一瞬意表をつかれた。
いつも、天丼って呼んでいたくせに、突然名前で呼んできたから。
「イタズラは、もうやめて!」
ビシッと言ってやる。
「あと、蒼夜くんに舞夜と千夜ばあから伝言があるから!」
そう切り出すと、蒼夜くんはたじろいだ。
あたしは、こほんと咳ばらいをした。
「あたしたちに迷惑かけるなら、二度と本家の敷居をまたがないで! それから、えーっと」
千夜ばあが言っていた、例のことわざが出てこない……。
わたしって、ときどき忘れっぽい性格だから厄介。
「そうだ、思い出した! たしか、『魚心に下心』だよ!」
そう言い放ったあと、蒼夜くんが白けた目をした。
「……あのな、それを言うなら『魚心あれば水心』だろ? ちゃんと勉強しろよ」
「うっ……」
勉強は、相変わらず苦手だ。返す言葉がない。
「……悪かったよ」
蒼夜くんは、急に神妙な面持ちで謝った。
そして、「実は」とためらいがちに切り出す。
「一夜ばあが倒れて。知らせに来たんだ」
びっくりして、息が止まりそうになった。
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