Hope your happiness. ※テオ視点

 ミラが居なくなってから一週間が経つ。

 同じく薬草摘みを仕事にしている他の子どもたちと一緒に出掛け、見知ったいつもの場所で、ミラだけが忽然と姿を消した。子どもの足で行ける範囲なんてたかが知れている。そう考え村総出で探し回ったが一向に手がかりも見つからず、一体どこに消えたというのか、何かに巻き込まれてしまったのか。レオンとアルから連絡が入ったのはそんなときだった。

 レオンハルトとアルフレート、十五年前一緒にこの世界を旅した二人は、数年に一度星祭りの頃に連れだって訪ねてくる。今年もそのつもりで近くまで来ているようだ。前回は俺も村を離れていたので、顔を合わせるのはかなり久々だ。

 ミラのことを知ると二人とも協力を申し出てくれた。道中気を付けて見てくれるだけでも有り難いが、特にアルは探知魔法の精度がかなり高い。俺たちでは見落としている何かに気が付いてくれることを期待した。

 村に到着するなり、アルは俺とバルトについてこいと言った。辿り着いたのは、ミラが消えたと思われる薬草の群生地だ。既に何度も来て確認しているが……曰く、この辺りに魔力の痕跡を感じるらしい。相変わらず魔法はからきしなレオンは首を捻っているが、残念ながら俺たちにも感じとることはできない。数日周辺を探ってくれたが徐々に力の残滓は薄まっているようで、ここで何かがあったのだろうが、それ以上はわからなかった。


 星詠みの結果で、今年の祭りの日取りが決められた。準備の指揮を執るバルトは憔悴した様子だが、忙しくしている方が気も紛れるんだろう。ろくに眠れていない様子なのが心配ではあるが無理もない。その間も俺とレオンたちで捜索を続けたが、やはりミラはみつからない。何もわからないまま祭りの夜を迎えた。

 祭事を終えて、いつもに比べると少しささやかな祝宴が始まった。やはり皆ミラがいなくなったことを気にしているようだ。そして、子どもたちがそろそろ眠るという時間に、その異変は起きた。


 月夜に浮かぶ眩い光。村の少し東の方角……薬草の群生地の方だ。

 レオンたちとともに急いで向かった先には、空に浮かぶ大きな光の扉があった。こんな現象は、十五年前のあのときを除いて見たことがない。扉の複雑な文様は中央神殿の祭壇のものと似ているだろうか。

 不意に扉が開き、光の渦から飛び出してきたのは……


「とうさま、かあさまっ」

「ミラ……!

 ああ……とにかく無事で……良かったです」

 バルトとスピカに抱きとめられ、笑って再会を喜ぶミラの様子に息をつく。

 行方がわからなくなってひと月近くになるが、汚れてもいないし元気なようだ。見慣れない服を着ているが……それとどこか似たものを、知っている。


「あのね、ゆうき! ゆうきにあったよ!」


 興奮したように喋るミラの口から出てきたのは、俺たちにとって懐かしい名前。『神の御使い』について聞かれ旅の話はしたことがあったが、ミラの言うゆうきはそのユウキなのだろうか。思わずその場の皆で顔を見合わせた。


 皆と薬草を摘んでいたはずなのに、顔を上げたらいつの間にか知らない場所に立っていた。助けてくれたハルトという子の家でしばらく世話になり、ユウキにはそこで会ったらしい。

「はるとのおばさまがね、だいじにもっていたのがまもりいしにとてもよくにてたから、もしかしてっておもったのよ!」

 ハルトとユウキと帰る方法を探していたが全くわからず、途方に暮れていたところに、突然目の前に光の扉が現れた。それをくぐって戻って来ることができたが、何故扉が現れたかはわからない。ミラの話を要約するとそんなところだ。

 まだまだ喋り足りないらしいミラにバルトがまた明日続きを、と促し、不服そうに返事をしながらもレオンとアルにあの旅の話をまた聞かせて欲しいとねだっている。家までの道すがら伝え聞いたユウキの話は、確かに俺たちの知るユウキのようだった。


 その夜、夢を見た。ユウキが笑っている夢だ。

 今まで幾度も見たあの旅の出来事を思い返すようなものではなく、少し歳を重ねた姿に見える。あの頃と変わらない笑顔で俺の前に立って、その口がなにか言葉を紡ぐ。なんと言っていたんだろうか、目が覚めた時には覚えていなかった。


 今回の原因を探るためアルは当面村に滞在するらしい。レオンも一緒に残るようで、しばらくは賑やかな日が続きそうだ。目の下のクマが少し薄まったバルトから、そういえば、と長布を手渡された。

「ミラが向こうから身に着けてきたものなんですが、ほら、ここ」

 バルトの指さした箇所を見ると、模様に紛れて見えづらいが何か……これは……文字だろうか。

「扉をくぐる前に、ユウキさんが書いたそうです」

 あの旅の中で、ユウキはこちらの文字を読み書きできるようになっていた。まだ覚えていた、ということか。滲んで薄くなっているが、そこには『しあわせを』と書かれているようだった。

 読んで、理解した。ああ、そうか、昨日の夢での言葉は、きっとこれだ。あの別れの時と同じように、俺の、俺たちの幸せを願ってくれている。

 過ぎた年月の分、俺もユウキもきっと変わっただろう。だが、幸せであってほしいと、そうお互いが願っている……それはこれからもずっと、変わらない。

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第三の選択肢の世界線(『異世界で本命キャラと恋に落ちたい。』) 佐倉ユキト @sakurayukito422

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