4 Run away

 私は走り始めた。わからないけれど、それが最善の策だと感じたのだ。きっと今振り向いていれば、真後ろには夢に出てきたあの彼が怖いくらいのあの笑顔を向けていたのだろう。そしてそれからあの刃物で――。

 なんて、首を振ってから加速する。

 あまり運動が得意な方ではなかったけど、それなりに足は速かったと思う。彼から逃げるために充分かはわからない。いや、たぶん、すぐにでも追いつかれてしまうのだろうと感じている。でも、それでも走らなくてはいけない気がしたのだった。

 このまま家の方向に走って行っても、大丈夫なのだろうか。もし彼が家を知っていたとすれば、私の帰りをそこで待っている可能性だって否定できない。彼が今どこにいるのかも、彼が何者なのかもわからない。私には対策が思いつかない。頭を回転させるが、何も浮かばない。ただ家への道を辿っていくしかなかった。

 息も絶え絶えに走り続ける。もう少し、あともうちょっとで家に着く。そうしたらきっと母や父、弟が待っていて、それから話をしたら守ってくれるはず。大丈夫。私なら大丈夫。できる。言い聞かせながら悲鳴を上げている足を無理矢理動かす。

 次の角を右に――。

「ねえねえ、どうして僕から逃げるのかな?」

 そこには彼の黒い笑みがあった。その手にはあの長い刃物があった。

 その瞳には、光などなかった。



叫ぶ→6へ『Do think』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426841578850/episodes/16816700426843073149


立ち向かう→8へ『For him』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426841578850/episodes/16816700426843432216

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