3-2 ヒノキ風呂の一件


双子が帰った後、客もすっかり帰って、店内にはお馴染みのメンバーだけになっていた。


「っあ~生き返るなぁ。」


ラピス、アリス、そしてアンクは、大きなヒノキ風呂に浸かった。


「こんなにデカイ風呂初めてだ!」


「へへ、街では流行ってんだぜ。」


「マスターのサリが物好きでよ。バーの裏に作っちまったんだ。よく客も来るが、営業時間外は貸切だぜ」


「旅の者たちが多く集う街だからこその商売、というわけだな」


「ああ」


 「お前のこの翼、どうやって洗うんだ?」


アンクは立ち上がり湯船から上がった。


そして、背中から生える大きな羽を左右に振った。


「こう動かすんだぜ。」


「すげえ!!飛べねえのか?」


「飛ぶ感覚が分かんねえ。やってみようとも試みたが、これができねえもんでな。悪魔でも、翼がついていようが、飛べるわけじゃねえのかもな」


アンクはそのままお湯には浸からず、風呂場の淵に腰を下ろした。


「記憶と一緒に、悪魔としての機能もふっとんだみてえだ。今じゃこんな翼お飾りよ」


「街には見たことねえ種族がすげえいるもんだな」


「お前、よっぽど田舎から来たんだな」


「はははは!山ばっかりだ!」


「ははは」


「お!アリス!なあ、見ろよ!ここ!」


「ん?」


「すっげえでかい月が見えんぞ!今日は満月か!」


「・・・・・・。」


「おいどうした?」


アリスから、尋常ではないほどの冷や汗が流れた。アリスはグーサインをすると、死にそうな顔で笑った。


「頼む。アリスに会ったら土下座しといてくれ。あとお前のあそこは普通の」


ラピスとアンクの前を、白い光が照らした。


その眩しさに二人は目を閉じた。


「てっめえいじりやがってただじゃおかねえ!!!」


強い光にラピスは目をこする。


「だあああ、痛ええ!!シャンプー入ったあああ!!!!」


「は?」


光が止み、アンクは正面を見た。なんと、光の中から出てきたのは、女のアリスだった。一方、ラピスは目を抑え悶えている。


「え?」


アリスとアンクは目が合った。


しかも、彼女は裸だったのだ。


「いやああああああああああ!!!!!スパーク!スパーク!スパーク!!!」


「ああああああ!!!」


アリスは電気魔法を放った。


風呂場の淵に座っていたアンクは、その衝撃でお湯の中に沈んでいく。


そしてアリスは一瞬で風呂場を後にした。


「有り得ない有り得ない有り得ない。あんの馬鹿アリス・・・!!!


ちょっとそこの悪魔!!!見たわね・・・!!」


風呂場にアリスの怒り狂う声が響き渡った。


「い、いや、湯気立ってたし、なんなら目チカチカしてたし・・・。」


湯から這い上がったアンクは咄嗟に否定する。


「見たでしょ!!?」


しかし、アリスの威圧感の前でひれ伏すしかなかったのだ。


「み、み、見たって!!!


しっかたねえだろ!!突然女体化したのはお前だろうが!!


こっちは被害者だぞ!!」


「・・・有り得ない。レディの裸を見て?被害者?サイッテー。」


「いや、被害者っつーか、美味しい思いはしたっつーか・・・。」


「なにが女体化よ!!女体化じゃないわよ!!!エアースパーク!!!」


即座に戸を一瞬だけ開き、アンクに向けてまたも閃光を放った。


「っだああああああ!!!」


アンクはまたお湯の中へと沈んでいった。


(ツッコミ・・・遅えよ・・・・)


「馬鹿男に会ったら言っといて!!!いつかぶっ殺してやる!!!」


バタン!!!


ラピスが目を開けると、そこにはお湯に浮くアンクがいた。


「だ、大丈夫か?!死んでんのか?!」


「あの女・・・なんなんだ」


「アリスの声がした気がするけどなんかあったのか?!」


「残念だったな。可愛くて胸もこう・・・ぼんきゅっぼん!だったぜ」


「なんだ?それ」


「はぁ・・・田舎には女もいねえのか。今度都会の女を教えてやるから着いてこい!な!」


「や、興味ねえ」


「ガキだなてめえ。・・・てか、なんなんだよあの女。女体化じゃねえ、って」


「ああ、アリスは二人で一つの身体なんだぜ!


詳しいことは俺も分かんね!」


「ふうん。見たところ特殊な魔法か、それとも呪いか・・・。


不思議な奴がいたもんだな」


「月の光を浴びると交代するっつってたけど・・・さっきも変わったんだよなあ」


「へえ・・・」


アンクは興味深そうに頷いた。


 「本当に最低。あの男。今度会ったらぶん殴ってやるんだから!」


アリスは魔法で服を着ると、風呂場を後にした。


「アリス!また入れ代わったのか?」


「あなたは・・・!」


「レインだ」


「レインね」


「そんなに急いでどうしたんだ?」


「どうしたって・・・あのバカ男がバスルームなんかで入れ替わるから、クズ悪魔に見られたのよ!!」


「事情は分かった。落とし前付けて」


「ありがとう!!でも気持ちだけ受け取っておくわね…。


それより驚いたわ。ワンダーランドでは朝から夜にならないと、入れ代わらなかったのに。地上では一夜の間で入れ代わることができるのかしら」


「雲に隠れて、もう一度月が出れば発動するのかもしれないな」


「たくさん話したら・・・眠くなって・・・」


アリスはそう言うと、その場に倒れこんだ。


「アリス!」


「だ、大丈夫ですか?!」


聞きつけたラミエルがアリスの側へやって来た。


「動かない。屍のようだ」


「ええ?!」


「すまない。一度言ってみたかったんだ。彼女は眠っているようだ」


「よ、良かった・・・。それでこの子は・・・誰ですか?」


「そうか、ラミエルにはまだ話してなかったな。彼女はアリス。男のアリスと、月の光で入れ代わる。彼女も私たちの仲間だ」


「不思議ですね・・・。でも、とても綺麗な人」


ラミエルはそう言うと微笑んだ。


「よくすぐに受け入れられるな」


「私も空からやって来た天使だから・・・」


「それもそうだな」


「アリスさんはこちらのお部屋で寝てください。アンクがラピスさんたちの部屋を用意してますから」


「かたじけない。私もそろそろ・・・」


ガシッ


「何言ってるんですかレインさん!まだまだ夜はこれからですよ?」


ラミエルは悪魔の微笑みで、レインの肩に手をやった。


(どこが天使だよ・・・・・)

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SKY OF GLORY 和泉ハル @skyofglory0822

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