アスタニカ王国編

3-1 どこかの王子様

ラピスたちがリスタン帰ると、バーにはマヤさんとアンク、ラミエルが待っていた。


「お前ら丸二日いなかったのに、あの森から帰ってきたのか?」


「ああ!」


「みなさん・・・ご無事で良かったです」


ラミエルはうるうるしている。


「アイスティーはいかがですか?」


レインはワンダーランドで死ぬほど飲まされたのを思い出して、真っ青になった。


「え、遠慮する」


「飲みますよね?」


「うげっ」


「なーんてね!ゆっくり休んでいってください!」


「・・・厚意に感謝する」


レインは微笑んだ。


「なんだこの鳥、ちっこくてふわふわで可愛いな~」


「ぴー!!!ぴぴぴーぴー!!!!」


アンクはピポを見つけ抱き上げた。


少年のようにキラキラとした瞳で見つめている。


ピポはジタバタして、すぐにアリスの後ろに隠れた。


アンクは大笑いしたが、ピポは鋭い眼差しで睨みつけている。


「俺、動物に嫌われやすいんだよな!」


「・・・まあ、ピポはもともと人馴れしにくい。こら、つつくなよ」


「ぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!」


ジタバタしている様子に、ラミエルは笑った。


「ふふふ、本当に可愛い」


「んで、この金髪くんはなんだあ?」


「俺はアリスだ」


「女っぽい名前だなァ」


「アンク、失礼でしょ。


背が高くてクールでどこかの王子様みたい!」


ラミエルがうっとりとつぶやくと、アリスは跪いてラミエルの手にキスをした。


ずっきゅーーん!!


ラミエルは鼻血を出して倒れ込んだ。


「て・・・テメエ・・・。この俺様を差し置いてラミエルになにしてんだ」


「申し訳ない。癖でファンサしてしまった」


「ぴっぴっぴ・・・」


「なに笑ってんだクソヒヨコ!!!」


「ぴーぴ!!!」


ピポとアンクは取っ組み合いの喧嘩を始めた。


 「しかし彼は何者なんだ?」


「女のアリスの事情はなんとなく分かったけどよ、たしかにあいつだけ全く分かんねえな」


ラピスとレインは、カウンターの椅子に腰掛け、アリスの様子を見ていた。


「鉾の捌き方がなんとなく変だったとは思ったが」


「そうか?」


「ああ。一打を狙うというより、もっと細やかな使い方をしていた。一度手合わせ願いたい。まるで剣を捌くような動きだったな」


「あいつも元は剣士だったりして」


「有り得る」


「ビジュアル的にはどこかの王様とかやってそうだけどな!」


うーん・・・。


ラピスとレインは考え込んだ。


「突撃~!!!」


「うぐっ!!」


「いってえな!!なんだお前!」


いきなり誰かがラピスの腹に突っ込んできた。


すると、顔のそっくりな、オレンジ色の髪をした男の子と女の子がいた。


二人ともぽかーんとした顔でこちらを見ている。


「誰このモテなさそうな兄ちゃん」


「誰この怖そうな姉ちゃん」


「双子?」


レインはワンダーランドのミポとマポを思い出して微笑んだ。


「そうだよ。僕はビス」


「私はイオ」


「あ!ビスにイオ!さっそくラピスさんにイタズラしてたんでしょ!」


「うーうん。ちょっと激突しただけだよ」


「だってこの兄ちゃん、ボサッとしてるもん」


「こら!事実でも言わないの」


「ラミエルのツッコミの方がよっぽど鋭利だぜ・・・」


「自己紹介が遅れてすまない。我が名はレイン。元殺し」


「あああーっ!!!オイオイオイ」


双子は口を開けたまま唖然とした。ラピスがとっさフォローに入る。


「レインさん・・・?前向きな自己紹介すごい!素晴らしい!でもね、もうちょっとオブラートに包んでさ・・・」


「子どもには直接的過ぎたか・・・。いいかもう一度だ!


我が名はレイン。ちょっと前まで掃除屋をしてたんだ!」


「掃除屋さん?」


「裏社会から排除すべきゴミをだな」


「はいはいストップ!!そこまで!!俺はラピス!旅人だ!レインも一緒に旅してんだ!以上!!自己紹介なんてこんくらいでいいんだよ!!」


「ふうん。レイン姉ちゃんはラピスの彼女なの?」


「俺だけ呼び捨てなの?!」


「おい坊主。口の聞き方には気をつけろ?私がこんなクソダサ君の彼女に見えるか?ん?」


「見えなーい!!」


「ムリー!!」


「だろ~??」


「ぷぷぷ・・・」


「クッ・・・」


ラミエルとアンクは口元を押さえて、ぷるぷると震えている。


「ひと思いに堪えてくれる?!」


「あの兄ちゃんも仲間なの?」


「ああ!あいつはアリス」


「わあ、アリスさんもラピスも変な目の形してるんだね~」


「ああ。よく分かんねえけどずっとこうだ!そういえば、アリスもずっとそんな目なのか?」


「覚えていないが・・・気づいたらなっていた」


「やっぱそうなんだな」


レインは首をかしげた。


(今までこんな目の人間には会ったこともなかったのに、ここに二人もいるなんて。しかも、武器と同じ形の瞳孔とは。武器の効果によるものなのか・・・?)


「レインさん!今日は生還祝いですよ!楽しく飲みましょ」


「ふっ、そうだな」


「こんなに和やかに酒を飲める日が来るとはな」


レインはラミエルの出したカクテルを飲んで、息をついた。





「かわいいかわいい!!」


「もふもふだ~」


ピポは大人気で、双子に抱きしめられていた。


「ははは。さっきまで暴れまくってたのに」


「疲れ果てて、されるがままって感じだな」


「ぴーぴ・・・」


「おい双子。そろそろ帰る時間だぞ。家まで送ってやるからさっさと来い」


「ええー。アンクのケチ!」


「男はとっとと帰るんだよ。で、明日のデートの支度すんの」


「さっすがモテる男は違うね〜」


ボソッ・・・


「アンクの兄ちゃん、アソコは小さいのになあ・・・」


「あ?!てめえ」


「アソコってどこだ?」


ラピスは首を傾げた。


「流せ?!お前のフリも流してやったじゃねえか!なあ!!そうだろ?!」


「器が小さい的なあれじゃないのか?」


レインも真顔で首を傾げた。


「そう!!器!!正解!!帰るぞてめえら!!」


「帰るって!最後にさ、ねえねえラミエル!耳貸して」


「なになに?」


「この前アンクがさ」


「うんうん」


「幽霊が出るって噂の通りで、バーに来た女の子を置いて帰ったんだよ!」


「うわ、サイテー」


「何吹き込んでんだよ!!!」


「あの時のアンク、すっげえビビってた!」


「ああーーーっ!!分かった!!アンクお前、肝っ玉が小さいんじゃねえのか?!」


「違うよラピス!玉は玉でもー!」


「オイクソガキ。くだらねえ下ネタは万死に値する覚えておけ」


「ご、ごめんって」


「んーじゃーね」


ビスはアンクの拘束を解いた。


そして、ビスとイオは思いっきり、アンクの股の下をくぐり抜けた。


「チーン!!!」


「チーン!!!」


「だあああああ!!!!いってえええええ!!!ビス!!イオ!!てめえら・・・」


「チーン?」


レインは首を傾げて、股を押さえるアンクを見た。


レインは依然、真顔で見つめていた。しかし・・・少しして、ハッとして口を押さえた。


その目はアンクの股をまっすぐと捉えた。


全員に、数秒間の沈黙が訪れる。


「・・・・・・・・・」


「その・・・・・き・・・気にすること・・・ないからな!」


レインは目をぐるぐるとさせ、退出した。


「や、やめてくれーっ!!!これ以上触れるなああ」


「寝る前に一ついいか」


「アア?」


「あまり落ち込むのは良くない」


「アリスてめえ!!!」


「ドンマイ」


ポンッ。


「負けるなアンク」


ブチッ!!!


「小さくねえんだよおおおお!!!」


マヤさんが呆れ顔でやってきた。


「アンタ、そういうところ、器が小さいってんだよ。ほら、せっかくだから風呂入って来な」


「風呂・・・?」

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