2-15 大きな試練

 「シャーレ!!私よ!ここから出る決心がついたわ」


アリスが高らかに宣言すると、たちまち周りの景色が変わった。


 ラピスが目を開くとそこは青い壁に覆われた狭い空間だった。壁には大きな斧と、金銀の斧がかざってある。


そして奥の椅子に泉の女神シャーレが座っていた。


「ああ!泉にいた変な人!!」


「相変わらず失礼な人たちですね。ですが、敬意を称しましょう。よくここまで辿り着きました。そしてアリス、あなたもよく決心しましたね。あなたが決意するまで軽く100年が過ぎましたよ」


「ひゃ、ひゃくねん?!お前そんなに籠ってたのかよ?!」


「な、なによ。いいわよ呼べば!クイーンオブ引きこもりってね!!」


「激ダサすぎる・・・」


「なんだその称号・・・」


「なっ・・・!」


「つーかよ!!もしかしてここを出たら、よぼよぼのおばあちゃんになってたりするのか?」


「え?!うそ!!そうなの?!現実に戻るってそういうこと?!」


「大丈夫ですよ。ワンダーランドに入り込んだ時のまま、全員歳も変わりません。ただ、アリスのいた時代には戻れません。ラピスたちが迷い込んでから丸2日が過ぎました。そこから現実は動き出します」


「・・・分かったわ」


 「なあ、女神。ここは一体、なんだったんだ?」


「説明しましょう。ワンダーランドはアリスの作り出した世界です」


「ええ・・・」


「100年前、この地に今にも息絶えそうな男女が来ました。


そして強く願ったのです。互いの命を救ってほしいと。


そして二人のあまりに強い願いに、妖精が奇跡を与えたのです。


本来なら二人とも死んでいたところを、

一つの心臓で生きることを条件に生き延びさせた。


その月のネックレスも、妖精が作り出したものです」


「それで二人の人間が入れ替わるってわけか」


「だけど、それとこの世界は何の関係が?」


「アリスは『生きるために彼とは永遠に会えない』という

現実を受け入れられずにいました。


見かねた妖精は決断するための時間を与えたのです。

それがここ、ワンダーランド。私はこの世界と共に誕生しました」


「ってことは・・・つまりは死にかけのまま、時が止まっていたってことか」


「その通り」


「・・・決意は変わらない。私が生きている限り、あの人も生きているってことでしょ。それならいつかあの人に会えるかもしれない。私は現実に戻るわ」


「分かりました。全員ここから出しましょう」


「よし!!」


 「最後にラピス、あなたに伝えることがあります」


「そうだ!!なんでいきなり俺のジュエルウェポンを奪ったんだよ」


「あなたが持ち主としてふさわしいか試したのです」


「持つのに資格なんているのかよ!」


「ジュエルウェポンを持つ者には、必ず大きな試練が訪れます。その運命を背負うだけの能力があるかどうか、計らせてもらいました」


「そーかよ。で、どうだったんだよ!」


「まあまあですね」


「まあまあって!」


「くくくく・・・」


「ぴ・・・ぴぴぴ・・・」


「ぷっ・・・」


レイン達は必死で笑いをこらえていた。


「お・・・お前ら・・・!!」


「くくくく・・・」


「女神てめえも笑うのやめれ!」


「オホン!!ラピス、あなたを認め、プロフゴット授けます」


「プロフゴット?」


「ええ。神々に認められた者だけが持つ証です。世界中の神からプロフゴットを集めていけば、空への道は開けるでしょう」


「栄光の空のことか!」


「これ以上は教えられません」


「ケチ!」


「ケ・・・なんですって?」


「神のくせにケーチ!知ってることあるなら教えてくれよ!!」


「あ・・・あなたたちね!!神様がみんな親切だとは限らないのよ」


「じゃあ女神様は意地悪なんですね」


「なんか・・・ずっとこの泉には身を清めてもらっていたが好感度下がったな・・・」


「ひ・・・ひどい!これでも教えてあげた方なのに!!いいわよ激ダサ主人公ラピス」


「言い方大人げな・・・」


「オホン!!ピポも連れて行きなさい」


「ピポ?」


「彼はあなたたちの望む場所へ導いてくれるでしょう。今はそのくらいしか支援できません」


「ぴぴーぴぴぴ」


ピポは女神を悪役じみた顔で睨みつけた。


「うるさい鳥ですね。これ以上不幸な目に遭わないように頑張りなさい」


「ぴーぴーぴ!!!」


なにやら怒っているようだが、レインはピポを抱いて微笑んだ。


「お前はピポか!可愛い鳥だな」


ピポは照れて、ニヤけた顔に一瞬で変わった。


 「アリス、行くのですね」


「ええ。とても悲しい結末だったとしても、知りたいの」


「いつでも戻って来なさい」


「ありがとう。最後にみんなに話してもいい?」


アリスのお願いにシャーレは応じ、大きな水晶玉にワンダーランドの様子を写した。そこには住人が全員集まっている。


「みんなありがとう!寂しくなるけど、きっとまた会えるわ」


「アリス!!さみしいよ!」


「なんで出て行くんだよ」


「別に?ただの気まぐれ」


アリスはケラケラと笑うと、ウインクをした。その笑顔に、住人たちは微笑んだ。


「アリス!」


「オード」


「元気でな」


「ええ」


「ラピスさんたちも!また来てくださいね〜!!」


サミットは声高らかに叫んだ。


「おう!またな!!」


 挨拶が終わると、アリスはシャーレにジュエルウェポンを見せた。


「私もこれ、持ってくわよ」


「試練が訪れますが、いいのですね」


「ラピスと一緒にいる時点で、もう巻き込まれることは知ってるわ。それにこれ、妙に馴染みがいいの」


「それではあなたたちに託します」


「任せろ!!」


「あ、そうだ女神様、この剣も持ってくぞ?」


「はいはいどうぞ。あなたたち、ここぞとばかりに色んなもの持ってくわね・・・。って・・・ええーっ!!それ抜いてた?その剣抜いたとこ見逃してたんですけど?!」


「そんなにすごい剣なのか?ってか女神、そろそろ猫かぶってねえで普通に話していいぞ」


「・・・分かったわよ。普通に話すわよ。詳しくは言えないけどある人に頼まれて、この場所で保管してたってわけ。ここには邪悪な者は入れないの。安全な場所なんだから。ま、その剣チャレンジみんな失敗して笑うのも飽きたし、持って行ったら?」


「・・・」


「なによ」


「いや、やっぱり女神様は清楚なイメージがいいな」


「そうだな」


「若い人っぽいとなんか違うっていうか・・・」


ピキッ


「さっさと出てけ!!!」


ピカーーン!!


その言葉を最後に、ラピスたちは光に包まれ、元いた泉の前に戻された。


「外だ・・・!」


「ぴー!!ぴぴぴ!!!」


「これが・・・空?」


ヒュオオ・・・。


日が暮れて、夜の優しい風が吹いていた。


「って・・・」


「ん?」


「え?」


「さっそく月が出てるじゃない!!もっと見たかったのに・・・」


「これからいくらでも見られるさ」


「ふふ、いい楽しみができたわ。またね」


眩しい光と共に、女のアリスは消え、男のアリスが現れた。彼は目を見開き、辺りを見渡した。


「外に、出たのか」


「ああ!」


「時間が動き出したのか」


「そうだ」


「正直諦めかけていたが、やってくれたな」


「おう!・・・それにしてもアリス、ワンダーランドの時と口調が違わないか?」


「猫被ってたんだ。紳士的にエスコートすれば信用される。適当に遠回りして気づけばワンダーランド住人。これで何人も閉じ込めてきた」


「怖!!」


「本当の俺はシャイなのさ。人見知りもする。普通の男の子なんだ、よろしくな」


「お前100歳越してんだろ」


「今更男の子とか言うな」


「手厳しいな」


「ぴぴぴ!」


三人と一匹の声が夜の空に響く。


栄光の空への手がかりを手に入れたラピスは、確かな手応えを感じ歩き出した。


【Jewel Weapon Ruby】ワンダーランド編【完】

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