番外編 1-9
二人で見る花火は美しいものだったけど、何せ何も知らされずに連れてこられたので、今も少し胸がドキドキしている。私を驚かしたのだから、何か仕返しをされても文句は言えないだろう。私は覚悟を決めて、隣に座る恋人の方に視線を向け、その肩を叩いて、こう言った。
「優祐、私をここに連れてきてくれてありがとう。とっても驚いたけど、とっても楽しかったよ!」
それは、私からのサプライズであり、アプローチでもあった。付き合い始めて半年が経とうとしているのに、いつまでも「草間くん」、「音無さん」と呼んでお互いに敬語が抜けないのではこれ以上関係が進んでいかない。そう感じていた私は、せめて呼称からでも変えていこうと、あまりにも突飛な形で彼に持ち掛けた。いきなり仕掛けられた私からの呼称変更の要求に優祐はかなり動転していたが、やがて覚悟を決めたように俯いていた顔を上げ、
「突然の提案に応えてくれて、こちらこそありがとう。僕も楽しかったよ。さ……聡里……ちゃん」と言った。
最後の方はかなり詰まっていたし、終始顔を赤くしていたが、最初なのだからこれで良いのだと思う。どうせ私も明日になれば後悔することが目に見えていたし、既に顔が熱くなっているのがわかった。自分から仕掛けたことなのに、いざ言葉を返されるとすごく恥ずかしい。
私たちは、赤くなったお互いの顔を見あって笑っていたが、私にはどこか物足りなさがあった。強欲かもしれないけれど、切り出した勇気に対するご褒美が欲しかったし、私の意図を理解して回答を返してくれた優祐にも、ご褒美があっても良いと思った私は、向かい合って笑っていた優祐の顔に、そっと自分の顔を近づけた。優祐は一瞬戸惑ったような顔になったが、すぐに私の意図を察して顔を近づけてくれた。
刹那、夜空に大きな柳の葉が光って、万雷の拍手が起こった。
盲目 香豊大 @castor0516
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