第2話 放課後

 5、6時間目はレクレーションだった。

 体を動かすことが好きな人が多いからバレーボールとサッカーになった。

 運動が苦手な桜子はぐったりとしていた。

「やっと終わりましたわ」

「さくらこ! 部活行く? それとも駅に行く?」

 分かっているだろうに桜子がわざとらしく尋ねてくる。

「待って下さいませ。私はこっ、これから」

「解ってるって! そんなに緊張することないでしょ! 有坂朔夜に返事するぐらい」

 またまた桜子は顔を赤らめ、周りの人に聞かれてはいないかとあたりをみまわしたりしている。

「ちょっとぉ。挙動不審にならないでくれる? 高校生にもなったら恋愛なんて普通なの。うちの地域なんて小学校から付き合っている人だってたくさんいたわよ。さっさと返事、済ませてきちゃいなよ」

「でも……」

 頼みの綱の恋愛指南師は同じ部活で男子の声に反応した。

「菜々ぁ~。何やってんだ? 部活行くぞ」

 桜子たちが通うのは進学校でお嬢様学校と名高い白川学園付属高校であるが、ついに去年の4月から共学になってはいる。


 しかし今までのお嬢様学校としての評判が強すぎたのか男子は全学年で五人しかいない。その5人も比較的おとなしく、女子のなかに埋もれてしまうような草食系男子という感じだった。

「あ、うん。じゃあ駅までいってさっさと済ませて、部活来て! 人数が足りないんだから!」

 桜子は走ってきた男子部員と歩いて行ってしまった。

「なぜわたくしが恋愛で悩まなくてはならないのでしょう」

 そんな独白は意味がなく、返事を返すために駅へ向かって歩き始めた。


 桜子たちの使っている駅前には電話ボックスがある。声をかけられたのはその辺だったと桜子が思い出して歩いていると、後ろから呼びかけられた。

「あの~。早乙女桜子さんですよね?」

 制服を着ているカッコいい男性は今朝声をかけてきた人だった。耳にかかる長さの黒髪。175センチはあるだろうか。

「はい。そうです」

「――それでお返事は?」

「申し訳ありません! 私は好きな人がいまして」

 断わりの言葉を聞いても彼はにこりと笑ってフォローを入れる。


「いや。はじめから解っていたんだ。だめってことは。でも君が可愛いからつい声をかけてしまったんだ。でもせっかくだから、これからどこかに」


 まだまだ話の続きそうな彼を無理やり遮って菜々は話を終わらせようと発言した。


「ではお返事は致しましたので。失礼いたしますね」

 じゃあと会釈して去っていった。

 彼女の判断は賢明だった。あのまま行けば日が暮れるまでおしゃべりに付き合うことになっていただろう。


 彼は行きかう人ごみの中で突っ立っていたが眼には怪しい光が宿っていた。

「ふ~ん。ソッカ。俺の話最後まで聞かずに帰るなんていい度胸じゃん。好きな人がいるんだ~上等だな」

 呟きを聞いた者はいなかった。





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T高校物語 朝香るか @kouhi-sairin

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