念願のPC

修学旅行気分で大手家電量販店に入店した。

――このウキウキ感覚、いつぶりだ?最高だ。



あまりこういう店に入ることがないから、どこに何があるか分からない。

店の入口に案内板が立っているのをじろじろ……。

「んー。パソコンは2Fか。」

「エスカレーターで上がるか。」



エスカレーターで2階へ上がると、店内はガラガラだった。

「あれ? 全然お客いねぇじゃん。」

「でも今日は平日。それもそうか。」



左の方から女性店員さんが近寄ってきた。

「……しゃいませ!」



僕は近寄ってきたことでさえ、気づかなかった。

店員さんは疑問に思いながらも「いらっしゃいませ!」

やっと誰かが左にいることに雰囲気を感じた。

――あっ! イヤホン外すの忘れてた。


「すみません。気づかなかったです。」

「いえいえ(笑)」

店員さんは笑顔だが、ビミョーな顔つきで「何かお探しでございますか?」と聞いてきた。



「あのー、パソコンを探していて。」

「かしこまりました! どのようなパソコンをお探しでしょうか?」

「あっ、えっと、このサイトでセールを見てきたんですけど。」

「あぁ! こちらの商品ですね! ご案内致します。」

「はい。お願いします。」

――異様にテンション高い女性店員さんだな。

――名前は……。中村さん?



パソコンが展示されている場所まで、中村さんと行く。

中村さんの歩くスピードが早くて追いつけない。

めちゃくちゃ早いな。

中村さんが早いのか、僕が遅すぎるのか。

どっちでもいいや。気にしたって無駄だ。



「こちらがセール対象となる商品でございます!」

「意外とコンパクトなんですね。」

「はい、こちらの商品は軽量化に特化しており、スペック面でも申し分ないと思います。」

「あのー、大学でエクセルやワードも使うんですけど、このパソコンってできますか?」

「もちろんでございます。エクセル、ワードも元々入っている商品になります。」

――だったら、問題なさそうだな。


何か思い出すように中村さんは僕に質問してきた。

「ただこの商品、こちらの展示品のみの商品となっておりまして在庫がないんです。」

「在庫ないんですか?」

「はい。大変人気商品でありまして、今はこの展示品のみしかないんです。」

――展示品はさすがに……。



「価格は9万円となっておりますが、現品扱いとして少しお値引きもできますが。」

「ちなみにおいくらぐらい値引きしてもらえるんですか?」

ポケットから手帳サイズのタブレットをだして、電卓を叩きだした。



――えっと。ここからキャンペーンと現品値引きを合わせて……。

聞こえるか聞こえないかの微妙な声で、ちまちまと計算をしている中村さん。

「お待たせ致しました! こちらのお金額となります。」

「7万円!? こんなに値引きされるんですか?」

「はい! キャンペーン中の商品でもあり、現品限りですので。」



――これはお買い得だろう。

「これにします!」

「ありがとうございます。ではご精算させて頂ければと思いますので、レジまでお願いします。」



やっぱり今日はラッキーデーだったな。

朝はあんまいいことなかったけど、いい日であることは間違いはない。


「では、お会計7万円となります。」

「クレジットカードでもいいですか?」

「もちろんです。ご一括でよろしいですか?」

「はい。一括で。」

「かしこまりました。」

初めてクレジットで買い物したな。それもこんな高額のもの。

でも何か気分がいい。大人ってこういうことなのかな。



(をいれてください。)

――おっ! 初めて暗証番号入力する!



「えっと。2、6……。」

(をおとりください。)

「お待たせ致しました。カードと明細になります。」

「ありがとうございます。」

「あと、こちらパソコンの保証書となります。本日から3年間の有効となりますのでご注意くださいね。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております。」



大きな袋に入れられたパソコンを片手に、エスカレーターを降りる。

中村さんがまだこっちを見ている。

それも満面の笑みで。

――いい笑顔だな。僕もいつかあんな人みたいになりたいわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

欲人 三嶋ゆぅと @yuto_mishima0615

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ