【短編】好きな人に告白をして付き合えるようになったと思ったら、どうやら相手は双子の妹だったらしい
ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】
短編
「――好きです、俺と付き合ってください!」
俺、
相手は
学校一人気な美少女で、活発で明るい印象の女の子。
勉強も運動もできる才色兼備な彼女は、その才能を鼻にかけることはなく誰にでも優しい女の子だ。
普段はポニーテールヘアーなのだけど、今しがた家から出てきた彼女はツインテールヘアーになっていた。
学校と家では髪型を変えるスタイルなのかもしれない。
俺は今、そんな彼女の家を訪れて自分の想いを伝えていた。
学校で何度か告白をしようとしたけれど、人気者の彼女の周りには常に人がいて、結局ズルズルと告白ができない毎日だった。
それを今日、終わらせに来たのだ。
――そう、玉砕という形で。
人気者の彼女と、おそらく彼女から見ればモブの一人でしかない俺。
月とスッポンのような二人が釣り合わないことを俺はちゃんと理解している。
だけど、彼女への想いは日々募るばかり。
正直言ってそれが凄く辛かった。
だから俺は、振られるという形でこの気持ちを終わらせたかったのだ。
そんな俺に対し、花村さんは呆気に取られていた。
インターホンを鳴らして出てきてもらったところですぐに告白をしたのがよくなかったのかもしれない。
彼女は今もなお呆然と俺の顔を見つめている。
俺は初めての告白ということで、これからどうしたらいいのかわからず彼女の言葉をただただ待つしかなかった。
すると、五分ほどが経った頃やっと彼女に動きが生じる。
その彼女の表情はといえば、なぜか、ニヤッと笑みが浮かんでいた。
「いいよ、付き合おっか」
「あっ、うん、そうだよね。無理だよね。じゃあ、俺は帰るから――って、えっ……?」
絶対に断られると思っていた俺は、予め用意していた返しの言葉を口に出す。
そしてそのまま彼女が気にしないよう明るい雰囲気で帰ろうとしたのだが、彼女の言葉が自分の想定とは違ったのではないかということに気が付いた。
「今、なんと……?」
「だから付き合おうって言ったの。それなのに君は帰っちゃうの?」
花村さんは俺の傍まで歩いてき、かわいらしい笑みを浮かべながら至近距離から俺の顔を見上げてくる。
それだけで俺は心臓が激しく高鳴ってしまった。
「いや、あの……本当に、いいの……?」
「あれ、君から告白をしてきたのにその返しはおかしくない? もしかして、君は振られるつもりで来たの?」
ぎくっ――!
考えていたことを言い当てられ、俺は思わず動揺してしまう。
すると、彼女は試すような目を俺に向けてきた。
「玉砕覚悟というより、端から諦めていたってことかな?」
「あっ、いや、それはその……やっぱり、相手は学校で一番人気な人だから、俺なんかじゃ相手にされないと思ってて……」
「それなのに告白をしてきたの?」
「えっと、この気持ちに区切りを付けたくて……」
告白をOKしてもらったのにもかかわらず、俺は言わなくてもいいようなことまで言ってしまう。
しかし、ここで隠しても彼女には見抜かれているような気がしたのだ。
「ふ~ん。それで、思いもよらず告白をOKしてもらった君はどうするの? このまま私と付き合う? それとも告白はなかったことにする?」
彼女はニヤニヤと笑みを浮かべ、楽しそうに俺の顔を見上げてくる。
俺がどう答えているかなんてわかっている表情だ。
なんだか普段の雰囲気と少し違う気がするけれど、顔はどう見ても花村さんに間違いない。
もしかしたら学校では猫を被っているのかもしれない。
「ねぇ、どうするの?」
普段とは違う彼女の様子に戸惑っていると、彼女は痺れを切らしたように再度尋ねてきた。
それにより、俺は考えることをやめて彼女の顔を見つめる。
そして――。
「よろしく、お願いします……」
願ってもない返事に、俺は頭を下げた。
「ふふ、そっかそっか。よろしくね」
俺の言葉を聞いた花村さんはとてもご機嫌そうに笑みを浮かべる。
意外と俺の告白は喜んでもらえたようだ。
しかし――次に発した彼女の言葉で、俺は戸惑ってしまった。
「まぁそれはそれとして、少し条件を呑んでほしいんだよね」
「条件……?」
「そっ、まずね、私たちの関係は誰にも打ち明けないでほしいの」
なるほど、そういう条件か。
付き合っていることを隠したがる人は多いようだし、俺もそちらのほうが都合がいい。
なんせ、学校で一番人気な彼女はそれだけファンがいるというわけで、そんな彼女を奪ってしまったとなれば大勢の恨みを買いかねないからだ。
だけど、まずってことは他にも条件があるということか?
「うん、それは大丈夫だけど……」
「そっか、ありがとうね。それで次の条件だけど、私がツインテールの時以外に、付き合っている話題を出さないでほしいの」
「えっ!?」
一つ目の条件とは打って変わって、二つ目の条件は明らかにおかしかった。
まるでツインテールの時以外に付き合っている話題を出されると困るみたいな言い方だ。
だから俺は戸惑ったのだが……。
「この条件を呑んでくれないのなら、悪いけど君と付き合うことはできないかなぁ?」
彼女にそう脅しをかけられてしまい、一度告白をOKされたことで彼女を諦めることができなくなった俺に選択肢は残されていなかった。
「だ、大丈夫です……」
「ふふ、よろしくね」
俺が頷くと、彼女はとても満足そうにスマホを取り出した。
そして少しだけ待ってほしいと言って彼女はスマホを操作し、その後チャットアプリのアカウントIDを教えてくれたので俺たちは連絡先を交換したのだった。
――そして付き合い始めた俺たちなのだけど、彼女と連絡を取れるのはスマホでだけだった。
チャットアプリでやりとりをしたり、たまに夜電話をするくらいで、学校では話しかけることさえできなくなっていたのだ。
なぜなら、学校にいる時の彼女は常にポニーテールであり、変に話しかけることで約束を
正直一週間が経った頃にはもう、俺の中でこれは付き合っているといえるのか、と疑問が浮かんでいた。
そんな時、彼女からこんなメッセージが届いた。
『次の土曜日、デートしよっか』
付き合い始めたのに全然話すことができなかった俺は、考えるまでもなく即答で彼女の誘いに乗るのだった。
◆
「あっ、先に来てたんだね~。お待たせ」
約束の土曜日、駅前で待っていると待ち合わせ時間の十分前に彼女は到着した。
そして、彼女の私服を見た俺の鼓動はとても速くなる。
白を基調とした肩部分がフリフリとなったブラウスに、黒色で同じく先がフリフリとなっているミニスカート。
肩より先がないブラウスから出ている白くて綺麗な腕や、ミニスカートから出ている白い太ももは女慣れしていない男にとって目の毒だった。
「お、おはよう」
「うん、おはよう。ねぇ、どうして顔を背けるの?」
花村さんを直視することが出来なくなった俺が目を逸らすと、彼女はニヤニヤとした笑顔で顔を覗き込んできた。
どうして俺が顔を背けているのか、わかっている表情だ。
「そ、それは……」
「ふふ、照れてるんだね。か~わい~」
「――っ。か、からかうのはやめてよ……」
「はぁ~い」
顔を近付けてきた花村さんにドキドキしながらもそう伝えると、彼女は軽く流す返事をして俺から離れた。
本当に、学校でいる時の彼女とは別人のように見える。
学校での彼女は明るくて活発だけど、上品な雰囲気がある子だ。
それなのに今の彼女は、小悪魔的女の子に見えた。
「それじゃ、行こっか」
「――っ!」
突然花村さんが俺の腕に抱き着いてき、俺の心臓は破裂しそうなくらいに鼓動が速くなる。
腕に当たる柔らかい感触はさるものながら、肌と肌が触れ合うことにより感じる彼女の体温や、花のようにいい匂いのおかげでもう頭がどうにかなってしまいそうだった。
その上、彼女はコツンッと俺の肩に頭を乗せてくる。
それによって周りの男たちが凄い目を俺に向けてきたのだが、そんな目を向けられても仕方がないほどに今は凄く幸せだった。
「そ、そういえば、どうしてこんな遠くで待ち合わせだったの?」
目的地へ行くためのバスを待っている中、何か話題を振らないといけないと思った俺は疑問に思っていたことを尋ねてみる。
しかし、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「だって、遊園地に遊びに行くなら遠出するしかないじゃない? 私たちの地元にはないんだからさ」
「いや、それはわかるんだけど……待ち合わせ場所は地元の駅でよかったんじゃないかな、と」
少しでも彼女と長くいたい俺としては、待ち合わせ場所を地元の駅にしてほしかった。
というか、普通なら一番近い場所で待ち合わせをするはずだ。
それなのに彼女は遊園地の最寄り駅を待ち合わせ場所に指定した。
俺が地元の駅前でいいんじゃないかな、と言っても彼女は頑なにこれを譲らなかったのだ。
その理由を俺は未だに教えてもらえていなかった。
「う~ん、だってこっちのほうがデートっぽくない?」
「そうなのかな?」
「そうだよ。何、それとも君には不満があるのかな?」
「――っ。い、いや、不満はないよ」
「そっかぁ。よかった、私しつこい男って嫌いだから」
遠回しにもう聞いてくるなと言われ、俺はそれ以上この件について聞けなくなった。
いや、それどころか迂闊に彼女に対する質問も出来なくなったと言える。
下手に質問をすれば彼女からしつこい男認定されかねないと思ったからだ。
「――ささ、細かいことなんて気にせずパァーっと遊ぼうよ! 折角遊園地にデートに来たんだからさ!」
遊園地に着くと、彼女は明るくそう言い放ち、俺の手をグイグイと引っ張り始めた。
普段よりも高いテンションなことから、彼女は遊園地が好きなのだろう。
俺はそのまま彼女に引きずられるようにし、ブラジルをテーマとした遊園地でアトラクションに乗りまくった。
まぁ、彼女がチョイスするアトラクションはほとんど絶叫系で途中からグッタリとしていたが。
「うぅ……」
「大丈夫? ごめんね、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな……?」
絶叫系のアトラクションを乗りまくったせいで気分が悪くなった俺はベンチに座り込んでおり、彼女はそんな俺のことを心配そうに見つめていた。
意外と結構他人を振り回すタイプだったけれど、やはり気遣いはちゃんとしてくれるようだ。
俺はそんな優しい彼女のことが凄く好きだった。
「大丈夫だよ……。少し休んだら動けると思うからさ」
「私、飲みものを買ってくるね! ちょっと待ってて!」
彼女はそう言うと、足早に俺から離れていった。
おそらくお店に行ってくれたのだろう。
――しかし、それから三十分ほどが経っても彼女は戻ってこなかった。
最初はお店が混んでいるのかと思ったのだけど、いくらなんでもこれはおかしい。
だから俺は気分が回復したのもあって、彼女を探しに出た。
そして――。
「ですから、しつこいです! 私は今日彼氏と遊びに来てるんです!」
彼女を探し始めてから少しして、聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。
声がしたほうを見れば、何かを囲うようにして人だかりができている。
まさか――。
そう思った俺は、急いで人混みをかき分けながら中央へと向かった。
「でも、今一人じゃん。本当は一人で来ててナンパ待ちなんだろ?」
「いいから俺たちと遊ぼうぜ」
「意味がわからないです! 本当に彼氏と一緒なんですから、手を放してください!」
人混みを抜けると、俺の悪い予感は当たり花村さんがチャラ男二人に絡まれていた。
しかも、片方のチャラ男に片手を掴まれている。
どうやら彼女が戻ってこなかったのはこれが原因らしい。
まさか、自分がこんな場面に出くわすとは思いもしなかった。
「いいじゃんいいじゃん、楽しいこと教えてやるからよ」
「結構です!」
男がニヤッと気色悪い笑みを浮かべると、花村さんの顔は青ざめてしまった。
そして――どうにか逃げ出そうとした花村さんは、相手の頬を叩いてしまう。
「いってぇ! この女下手に出てれば――!」
頬を叩かれたことにより、男は逆上して花村さんを叩こうと手を振り上げる。
それを見た俺は、無意識のうちに駆け出していた。
そして――なんとか、彼女が叩かれる寸前のところで男の腕を掴む。
「な、なんだお前は!?」
急に腕を掴まれた男は激しく動揺して俺の顔を睨んでくる。
だから俺は握る手に力を込めた。
「い、いててててて! う、腕が! 腕が折れる……!」
「大袈裟ですね。人の握力で骨が折れるわけがないでしょうに」
「ば、馬鹿野郎! お前ゴリラじゃねぇのか! ま、まじで腕が折れる……!」
男はダラダラと汗を流し、顔を青ざめながらそう叫んだ。
すると、その後ろで立っていたもう一人のチャラ男が俺に向かって殴りかかってくる。
「てめぇ、放しやがれ!」
「まっすぐツッコんでくるとか、あなた馬鹿ですか」
俺はそう言いながら男の腕を躱し、その際に足を引っかけて男の体勢を崩した。
そして、男が転ぶよりも速く首根っこを掴む。
「ぐぇっ――! い、息が……!」
男は自身の服で首が締まってしまい、苦しそうに手で服を引っ張ろうとする。
しかし、体勢を立て直していないため、俺の腕に首根っこを掴まれた状態で吊られている男はうまく首を解放出来ていないようだ。
俺は息ができずに苦しそうにする男と、腕の痛みによってダラダラと汗をかきながら青ざめている男に対して口を開いた。
「素直に退くなら解放しますが、どうしますか?」
俺がそう尋ねると、二人はコクコクと一生懸命に頷いた。
だから解放してやると、男たちは目に涙を浮かべながら俺のことを睨んできた。
「て、てめぇ、覚えてろよ! 今度会ったらただじゃおかないからな!」
「ぜってぇ後悔させてやる!」
それはなんというか、漫画などで出てくるテンプレートのような負け犬の台詞だった。
本当にこんなことを言う奴がいるとは思わなかったな。
「では、仕返しをされないように痛い目を見て頂くしかないですね」
「ひぃっ――! ば、馬鹿野郎! 今日のところはこれで勘弁してやるよ!」
「そ、そうだ! 有難く思いやがれ!」
男たちはそれだけ言い残すと、猛ダッシュで逃げていった。
俺はそんな男たちの背中を眺めながらポリポリと頬を指で掻く。
あぁいう人たちはこういう台詞を言わないと気が済まないのだろうか?
逆にかっこ悪いと思うんだけどな……。
――クイクイ。
そうしていると、急に服の袖を引っ張られた。
「あっ、大丈夫だったかな、花村さん?」
服の袖を引っ張られたことで俺は笑顔を作りながら花村さんに話しかける。
すると、彼女は頬を赤くして潤んだ瞳でジッと俺の顔を見つめていた。
「君、何者なの……?」
「あれ、言ってなかったっけ……? 幼い頃から武道をやってるんだよ」
「あ、あぁ、そうだったね! そういえばそんな話を聞いた気がするよ!」
「……あれ? でも、そういえば高校に上がってからは誰にも話していなかったね」
「ちょっと!? 何、引っかけたの!?」
「い、いや、別にそういったつもりは……!」
花村さんを引っかけないといけない理由はないのだから、わざとやったわけじゃない。
ただ単に記憶が曖昧だっただけだ。
だからそんなに怒らないでほしいんだけどな……。
「…………」
「は、花村さん……?」
怒った彼女をどうなだめようか考えようとすると、彼女はなぜか無言で俺に抱き着いてきた。
そして――朝とは違い、抱き着いたまま恋人繋ぎまでしてくる。
いきなりこんなことをされて俺が冷静でいられるはずがなかった。
――この後は注目を浴びていたこともあって俺たちはアトラクションに乗ることはせず、少しだけ心地いい雰囲気になりながら仲良く帰るのだった。
それからというもの、俺たちの関係には変化があった。
学校で話さないのはそのままだけど、花村さんは毎日電話をしてくるようになったし、土日には俺の家に遊びに来るようになった。
そして、たまに二人で遠くにデートに行ったりと、正直二人の仲はかなり深まったと自分でも思う。
そんな関係が続くまま三ヵ月が経った頃、ある日俺は花村さんに呼び出された。
何やら大事な話があるとのことだが……。
「ま、まさか、別れ話、ではないよな……?」
ここ最近更に雰囲気はよくなっているし、花村さんは大分甘えてくるようになっていると思う。
この前の休みだって彼女は一切離れようとしなかったし、膝枕をしてあげたら凄く喜んでいた。
だから、別れ話ではないと信じたいけれど……電話越しに聞こえた、彼女の深刻そうな声が気になる。
どうしよう、これで本当に別れ話だったら……。
花村さん抜きだと、俺はもう生きていけない気がする。
そんなことを考えながら歩いていた俺は、いつの間にか待ち合わせ場所に着いていた。
すると、待ち合わせ時間の三十分前だというのに既に花村さんの姿があった。
「ごめん、待たせちゃったようだね……」
俺が声を掛けると、彼女はゆっくりと顔をあげる。
そして、その彼女の顔を見た俺は思わず息を呑んでしまった。
なぜなら、待ち合わせ場所にいた彼女は泣いていたのだから。
「ど、どうしたの……?」
「あっ……これは……なんでもない……」
なんでもないと花村さんは答えたけれど、それなら彼女が泣くはずがない。
「何かあったなら話してほしい。俺は花村さんの彼氏なんだからさ」
「うぅん、大丈夫……。それよりも、君に聞いてほしいことがあるの」
「俺に聞いてほしいこと……?」
「うん……」
俺が聞き返すと、花村さんは重々しい表情でコクリと頷いた。
よほど重たい話題のようだ。
やっぱり、別れ話……なのか……?
俺のどこがいけなかったんだ……。
俺はネガティブな思考に襲われてしまい、彼女を見つめながら自分に問いかける。
そんな中、彼女は意を決したように口を開いた。
「あ、あのね、実は私――!」
「――あれ、
花村さんが何かを言いかけた時、別の方向から彼女と同じ声が聞こえてきた。
思わずそちらを見ると、なぜだかはわからないが、そこにはいるはずのないポニーテールの花村さんが立っていた。
「えっ……?」
ありえない状況に、俺は思わず固まってしまう。
そして恐る恐るツインテールの花村さんを見ると、彼女は絶望に染まったような表情をしていた。
「何してるの、こんなところで? あっ、金城君もこんばんは! 二人って知り合いだったんだね!」
ポニーテールの花村さんは俺たちの様子に気が付いていないのか、ニコニコととてもかわいらしい笑みを浮かべながら話しかけてきた。
逆に、ツインテールの花村さんは両手で顔を覆ってしまう。
「あれ、どうしたの朱音?」
それによりポニーテールの花村さんも異変に気が付いたようで、ツインテールの花村さんを心配する声をだした。
その言葉を聞いた俺は、ツインテールの花村さんに思わず声をかけてしまう。
「朱音……つまり、君は花村朱莉さんじゃなく、別人だったってこと……?」
俺がそう尋ねると、彼女はビクッと肩を震わせた。
そして、恐る恐る怯えたような目で俺の顔を見つめてくる。
「あ、あ~そういうこと、かぁ……」
俺たちの様子を見て何か察したのだろう。
本物の花村さん――いや、ここは朱莉さんと呼んだほうがいいか。
朱莉さんは気まずそうに頬を指で掻きながら俺たちの顔を交互に見ていた。
「えっと、どういうことかな……?」
今の朱音さんの様子だと事情を聞けないと思った俺は、朱莉さんに事情を尋ねてみる。
すると、彼女はチラッと朱音さんを見た後、ゆっくりと口を開いた。
「この子はね、私の双子の妹の朱音なの。ここ最近急に明るくなったなぁって思ってたんだけど、そっか、そういうことだったんだね……」
双子の妹と言われ、彼女たちの顔がそっくりだった理由がよくわかった。
俺の学校に花村という苗字は朱莉さんしかいないため、別の高校に通っているか、もしくは高校に行っていないのだろう。
正直、俺は今戸惑いからどう声を発していいかわからなかった。
「えっと、ごめんね金城君……。どうやら、朱音が私になりすまして君に近寄っていたみたいだね……?」
やはり彼女は頭がいいようで、これだけの情報から大方の状況を理解したようだ。
それにより謝られてしまったのだが、正直彼女に謝られても困る。
今俺は、朱莉さんではなく朱音さんの言葉が聞きたかった。
しかし――。
「あ、あはは! ば、バレちゃったかぁ!」
朱音さんに声をかけようとすると、彼女は明るい声を出して笑顔を向けてきた。
そして、朱莉さんの背中に周り、ポンッと姉の背中を優しく押す。
「ごめんね、お姉ちゃんに近寄ってきた男がどんな人か試そうとしていたんだよ! でも、とても素敵な人で安心した! だからお姉ちゃん、彼の話を聞いてあげて! 凄く大事な話があるだろうからさ!」
「あ、朱音……?」
「じゃ、私はこの辺で失礼するよ! ごめんね、騙しちゃって! ただ、うまくいったら許してくれると嬉しいなぁ!」
彼女はそれだけ言うと、バッと踵を返してしまう。
だから俺は慌てて口を開いた。
「ま、待って、朱音さん!」
しかし、俺の言葉は彼女に無視され、走って逃げられてしまった。
「なっ――!?」
まさかこんなにも早く逃げられるとは思わず、俺はどう行動すればいいのか迷ってしまう。
そんな俺に対し、なぜか朱莉さんがギュッと手を握ってきた。
「ごめん、金城君! あの子が悪いのはわかるけど、追いかけてくれないかな!?」
「えっ!?」
普段学校では見せない朱莉さんの真剣な様子と予想外の言葉に、俺は驚いて声を上げてしまった。
「多分、ここ最近朱音が電話をしたり、遊びに行ったりしていた相手って金城君だよね!? 金城君は、朱音が私だと思っていたから一緒にいてくれたのかもしれないけど、あの子と一緒にいて何も思わなかった!?」
いったいこの子はどこまで見通しているんだろう……?
そんな疑問を抱きながら俺はこの三ヵ月間を思い出そうとするが、わざわざ思い出すほどでもなかった。
だから、俺は――。
「ごめん、行くよ!」
そう彼女に断りを入れ、朱音さんが走っていった方向に向けて全力で駆け出した。
「――はぁ……全く、朱音にも困ったものだね……。それに、彼のことずっと狙ってたのになぁ……。まぁ仕方ないか、これで朱音が前向きになってくれるならいいことだからね」
なんだか風に乗って後ろから朱莉さんの声が聞こえた気がしたのだけど、朱音さんの姿はもう見えていないため、今は彼女を追いかけることに集中するのだった。
◆
「――ひっく……ぐすっ……」
彼女を追いかけてどれくらい経っただろうか。
道行く人を捕まえながら朱音さんらしき人が走っていった方向を聞いて探すことによって、やっと彼女を見つけることができた。
彼女は人気のない建物の隙間に入り、しゃがみこんで泣いていたようだ。
「朱音さん」
「えっ……?」
声をかけると、彼女は戸惑った声を出しながらこちらを見上げてきた。
顔を上げた彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、折角のかわいい顔が台無しになっている。
だけど、それはそれだけ泣いてくれたという意味でもあるわけで、俺は彼女の顔を見て胸が締め付けられる感覚と、そして胸が熱くなるような感覚に襲われた。
こんな相反するような感覚に襲われたのは初めてだ。
「ど、どうしてここにいるの……? お姉ちゃんとは……」
「俺が朱音さんと話したかったからここに来たんだよ」
「やっぱり、怒ってるんだね……」
わざわざ追いかけてきてまで――おそらく、彼女はそう言いたいのだろう。
だけど、それは大きな勘違いだ。
「うぅん、怒りに来たんじゃないよ。さっきも言ったけど、朱音さんと話をしたいんだ」
「なんの、話……?」
「そうだね……。君は朱莉さんじゃなかったけど、それでもこれからも俺と付き合ってくれるのかどうか、って話だね」
「えっ……!?」
俺の言葉を聞いた朱音さんは、凄く驚いた声を出した。
目を大きく見開き、瞳は凄く揺れてしまっている。
よほど彼女にとって想定外の言葉だったというのがわかる。
「ど、どうしてそんな話になるの……? だって、君はお姉ちゃんが好きだったんじゃ……」
「そうだね、俺は元々朱莉さんのことが好きだった。というか、つい先程までは朱莉さんのことを好きだと思っていた」
「…………」
朱莉さんのことを好きだと思っていたと伝えると、途端に朱音さんの表情は曇ってしまう。
これは罪悪感なのか、それとも別の感情なのか――正直、どちらも今となっては関係がないことだ。
「だけどね、君が朱莉さんではなく朱音さんだと知ってからは、俺の好きな人は朱音さんになったんだよ」
「なん、で……そう、なるの……?」
「むしろこの三ヵ月一緒にいてそこを疑問に持たれると辛いね。だって、俺は朱音さんと付き合うようになってから君のことが更に好きになったんだからさ。小悪魔のようにからかってくるのは少し困っていたけれど、そんな君もかわいいと思っていた。そして、甘えてくるようになってからは小悪魔な君とのギャップからか、どちらも凄く魅力的に見えていたんだ。だから、俺が今好きなのはこの三ヵ月付き合っていた君なんだよ」
我ながらなんだか臭いことを言っているな、と思いつつも俺は自分の気持ちを正直に朱音さんへと伝える。
確かに俺は最初花村朱莉さんのことが好きだった。
だから告白までしたわけだしね。
だけど、この三ヵ月で俺は朱音さんの人柄を見てきた。
その上で彼女のことが大好きになったんだ。
だから、本当は彼女が朱莉さんではなく朱音さんだったとしても関係ない。
それならば、朱音さんのことを好きでいるだけだからね。
……まぁ、さすがにすぐに朱莉さんのことを忘れられるかといえば正直難しいけれど、それも時間の問題だろう。
朱莉さんと朱音さんのどちらがより好きかと聞かれれば、俺は迷わず朱音さんだと答えられる自信があるのだから。
しかし――。
「君は、ばか、だね……」
なぜか、俺の言葉を聞いた朱音さんからは馬鹿扱いされてしまった。
だけど、彼女の表情はとても嬉しそうで、侮辱のために発せられた言葉ではないというのがわかる。
「もっと怒るべきなのに……。お姉ちゃんになりすましていた理由を聞くべきなのに……。それなのに……私と付き合い続けようとするなんて……本当にばかだよ……」
「あぁ、怒りはしないけど、もちろん後で理由はちゃんと聞かせてもらうよ? ただ、今一番大切なのは、朱音さんが俺と付き合い続けてくれるのかどうか、ってことだからさ」
「そっか……なるほどね……」
どうやら、彼女にも納得してもらえたらしい。
となれば、当然俺には今すぐに聞きたい答えがある。
「それで、返事を聞かせてもらえるかな?」
「ふふ……聞かなくてもわかってくるせに……意外といじわるだなぁ……」
返事を求めると、彼女は笑みを浮かべてそう呟く。
そして、深呼吸をした。
「もちろん、こんな私でよければこれからもよろしくお願いします……!」
彼女は優しい笑みを浮かべてそう言うと、俺の胸の中に飛び込んでくるのだった。
――ちなみに後日聞いた話だが、あの日朱音さんは全てを打ち明けるつもりで俺を呼び出したらしい。
俺のことを好きになり、本当の恋人になりたかったからこそ、このまま騙し続けるのは駄目だと思ったようだ。
そして全てを知った俺に振られる可能性が高いと思っていた朱音さんは、待ち合わせ場所で思わず泣いてしまったらしい。
朱莉さんの登場は彼女にとって完全に想定外で、もうあの時点で全てが終わったとも思ったようだ。
ただ、朱音さんが謝ると朱莉さんも笑顔で許してくれたので、本当によかった。
そして、肝心な彼女がなりすましていた理由だけど――初めは、自分と姉の見分けがつかない男なんて姉の相手には相応しくないと思い、からかってやろうと思ったのが始まりらしい。
双子なのに姉は自分と違いなんでもできる人間で、そんな姉の相手には完璧な男が相応しいという思いもあったようだ。
その結果、姉になりすまし告白を受けるという形で俺を試すようなことをしてしまったらしい。
どうやら話を聞いていると、朱音さんは朱莉さんに劣等感を抱いてるみたいで、そのせいか高校進学もせずにくすぶっていたようだ。
だから色々と彼女の話を聞いた俺は、少しでも彼女が前向きになってくれるように頑張ることをこれからの目標にするのだった。
---------------------------------------------------------------
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回は短編ですが、
楽しんで頂けますと幸いです(*´▽`*)
また、なろうさんで日間、週間、月間1位を獲得しました新作
『負けヒロインの相手をしていたらいつの間にか付き合っていると勘違いされ、勝ちヒロインのはずの幼馴染みが怒り修羅場になった』
の連載も開始しましたので、どうぞよろしくお願いします!!
【短編】好きな人に告白をして付き合えるようになったと思ったら、どうやら相手は双子の妹だったらしい ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】 @Nekokuro2424
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