第3話 ここの痛み

高校生になるにあたって

私には目標があった。





あの日

私の胸に手を当てて


『ここが痛い時は

僕がきっと側にいてあげるから』



そう言ってくれた

あの男の子に出会えた時に、

きちんと前を向いて生きていることを

見せること。





そっと定期入れを握りしめた私を見て、

凛がくすくすと笑っていた。





「また大事な大事な

サッカー少年のことを

考えてるな?」





いたずらな目をしながら

凛が私を覗き込む。









見透かされた私は

ちょっと照れて笑った。







胸のキズで辛い思いをした時に、

思い出すのはあの男の子のことだった。





心臓の手術をしたのは、

地元の病院ではなく、

電車で小一時間ほど離れた

都会にある大きな病院だった。




心臓の手術では有名な病院らしく、

あちこちから

患者が集まってきているらしい。





小学校、中学校では

私のような手術をした男の子には

出会わなかったけれど、

高校になれば、

出会える可能性が格段に広がるのだ。






あの病院で手術を受けた人は

たくさんいるだろう。

そして近隣の

あちこちからその病院に

集まってきているから、

そんな簡単には会えないということは

わかっている。




それでも、同級生、という繋がりは

大きな繋がりだと思う。





キズの事で嫌なことや落ち込むことが

あった時には、

きっと彼も私と同じように、

辛いことをたくさん乗り越えているに

違いない。

そう思って乗り越えてきた。




一人じゃないんだ。




それはとても心強かった。









私の宝物。


あの日あの時描いてもらった

私の似顔絵とサイン。




それを写真に収めて

お守り代わりに定期入れに

忍ばせている。





その絵を見る度に

心がほんのり温かくなる。








今まで、なんとなく、

キズを見られることが嫌で、

好きな人なんてずっとできなかった。



心のどこかで、

ブレーキをかけていたんだと思う。

それに、ずっと同じメンバーで

代わり映えなく中学校まで過ごしたから、

今更感もあった。




中学では小学校からの

よく知るメンバーばかりだったけど、

どんどん綺麗になっていく凛は

いつでも男子の憧れで、

凛はいくつか恋の経験がある。




恋がしてみたい。

でも、それはいつになるのだろう。






「でもさ、

あのサッカー少年が

まだサッカーを続けてるって

保証はないんだよ?」

凜に言われてなるほど、と、

考えた。





胸のキズのこともあり、

私は運動そのものがあまり好きではない。

動くということよりも、

動くことでキズが見られる可能性が

上がるからだ。



おかげさまで、

私はめでたくオタク気質であり、

ずっと服の乱れない美術部だった。



そっか。

あの男の子も爽やかイケメンで

バリバリ運動できる青年に

なってる確証はないのか。



私の中の想像では、

めちゃくちゃ爽やかに

グラウンドを駆け抜けている

イメージだった。




あの頃の少年は

サッカーボールをとても大切にしていて、

心臓が元気になったら

サッカーをするんだ、と、

目をキラキラさせながら

話していたからだ。




「ま、オタクならオタクで、

心と趣味が合うかもしれないけどね。


でさ、やっぱ高校でも美術部にするわけ?」




「もちろん!

美術部最高!

筋肉美最高!」






私は筋肉が好きだ。


私自身の足も手も、

運動をしないせいか鉛筆のように

まっすぐでなんの凹凸もない。


よく言えばスラリとしているらしいのだが、

私には全然魅力的ではないのだ。




適度に運動している人の

しなやかに動く筋肉と、

その曲線に私は憧れる。




そして気づけば筋肉フェチに

なっていた、というわけだ。





「凛は?

やっぱテニス部?



私、凛のテニスコート姿も

めっちゃくちゃ好き。」




目がハートになった私を

横目で見ながら凛が言う。



「うーん。

どうしようかな。

ま、暫くあれこれ見学してみて

決めようかな。

心も付き合ってよ」





「そりゃ見学だけなら喜んで!」



凛と運動部を見学する約束をした。


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心のキズは 櫻んぼ @sa_aku

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