第5話 発見


「あそこがルーラ大森林だ」


「...すっげ.....」



歩き続けて6日、ようやくルーラ大森林が見える。山を越え現れたその森は、見たことがないほど太く高い木々が延々と続いていて、目視では森の出口が全く分からない。

不謹慎かもしれないが、セシルは初めて見る光景に胸が高鳴り、興奮していた。


「さぁ、魔獣もいるかもしれんし、盗賊とやらにも気をつけて進もう。隊列は崩すな。」


ビノウの声にハッとした。

先ほどまでの空気が変わり、皆の緊張が伝わってきた。それほど危険なところなのだろう。頭では理解しているつもりだった。しかし実際に来てみて、実感する。ただそれ以上に、ワクワクしていた。ここから、何かが変わる気がした。

大森林へと入り、警戒しながら少し歩く。


「あっ、あの薄紫の花と、あっちの木に巻き付いている植物の葉が薬になります!」


「本当かイヴちゃん!いや良かった、これでナゴンにも良い知らせが出来る」


「よし、周辺は俺達で警戒してるからその間に採集してくれ」


「はい!セシル手伝って!」


「あ、あぁ!」


森を少し進んだところに目的の薬になる植物が見つかり、イヴとセシルで採集を始める。イヴのやり方を見ながらセシルも真似をしてカバンに葉と花を詰めていく。

すぐにリュックが一杯になるとイヴはもう一つのリュックの中からまたリュックを取り出して入れ始める。


「いやどんだけ持ってくんだよ!」


「だってどのくらい効くかわからないし、長期化しちゃったら足りないし!他にも色々な薬に使えるんだよ!」


「わかったから貸せって、背負えないだろ」


「セシル....これ背負いながら帰り道行くの忘れてる?」


「......イヴにもたせるより良いだろ!」


「ありがとう」


持ってきたリュック合計5つに大量に植物を詰め込んで背負う。セシルが前後に2つ、左右に2つ持ち身動き出来ていない。


「カッコつけるのもいいけどよ、もうちょい考えてやんな」


「こんくらい持てる!!」


帰れないだろ、とコボルがセシルからリュックを2つ奪い背負う。

採集が終わり森を進む。あとは盗賊の噂を確かめるのが目的だが、とても人間が住める環境だとは思えなかった。人の気配も全くしない。恐ろしく静まりかえっていた。



「....血の匂いがする。」


「なんだって?」


「南の...向こうから、血の匂いがするんです。」


「確かめる....しかないよなぁ、大将」


「そうだな....もう一度言うが、絶対に勝手な行動はするなよセシル」


「なんで俺だけなんだよ!」


イヴが血の匂いがすると言ったのを確認するため、その方向へと歩き出す。魔獣かもしれない、戦闘になるかもしれない。その緊張感で心臓がうるさかった。

血の匂いがする、という方向へと3分ほど進むと奥に洞窟のようなものが見えてきた。草が邪魔でよくわからないがおそらく川も近くにある。

それを確認しようともう少し進むと、


「見ちゃダメ!!!」

「ぉわあ!!なっなんだよ!?」


「お、おぉ....そのまんま目隠ししててもらいな、セシル。」


セシルはイヴに後ろから目隠しをされた。

驚いて声を上げると前からビノウの声が聞こえた。

洞窟の前には、人間だったであろう肉片が転がっていた。

ぐちゃぐちゃで魔獣のものかとも思ったが人間が身につけるような洋服、武器や防具のようなものの破片も一緒に落ちているためおそらく人間だったと推測できる。その肉片は人間のものだとしたらざっとみても10人近くはいたと思われる。その周りだけ緑が赤く染め上げられていた。

その光景に、皆しばらく言葉を失ってしまった。



「こんなところを拠点に出来る人はいないですよ、引き上げましょう!」


「そ、、そうだな、本当、そうだ!よし、村に戻ろう!」


「もういい加減離せよイヴ!」


「だめ!!」


あまりの光景に立ち尽くしてしまったが、イヴの言葉で我に返り慌てて撤退する。

それと同時に、この大森林には人間をできの悪い挽き肉のようにしてしまう何かがいるのを理解してしまい、恐ろしくて仕方なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愚かな魔女は やん @ddyuanyuan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ