運動神経皆無でも魔法はオールラウンダーだったので安泰な暮らしを所望します

老い老い

第1話  運動神経皆無の男

大陸の端の王国、リバーストランスクリプターゼの辺境ライゲーションのとある貴族の領地の庭にて


「おいおい、弱すぎるぞエル。もはや、お話にならんレベルだ。」

「え、それでもそこらの同い年の女の子よりは強くなれましたよね?」

「いや、今のお前では女の子相手に善戦するくらいの強さしかないぞ。残念ながら。」

「そんな…!俺はどうして…!こんなにも弱いんだッ!」

「しょうがないだろ。お前は運動神経壊滅的なんだから」

「そうですけど…そんなにストレートに言わないくださいよ」


俺ことエル・シュタインは悩んでいた。

自分のとてつもない弱さに。



大陸暦およそ300年、北端に突如として魔王という存在が現れた。

魔王は大陸を征服するという意向を各国に宣戦布告し、北の大地から魔王領として開拓を進めた。

大森林が広がる北の大地、メロミオシンは瞬く間に魔王の手によって瘴気に包まれた。


暦347年、365年、392年に立て続けに魔王軍は北の小国、ルビスコとへテロファジー、大国のチミンリボシドを滅ぼし魔界の領地とし、大陸の五分の一を支配した。

魔界と隣接する国々は次々と強固な共同戦線をはり、防衛軍の強化に努めた。


暦442年、魔王による魔界からの領地拡大のための攻勢が収まりはじめ、戦線は不穏な膠着状態に包まれていた。

各国ではこぞって富国強兵に走り、魔王軍に対抗するための研究機関や魔法師、戦士育成のための教育機関の発展が見られた。



リバーストランスクリプターゼ王国、辺境ライゲーションの貴族、シュタイン家の庭でもまたそれは見られた。



カンッカンッカンッ


木剣同士が当たる音が鳴り響く。


「こうですね!?」

「違う!腕を直せ!」

「分かったぞ…こうか!」

「違う!離れた!なぜ、そうも煩わしく右手と左手が入り組むんだ!まるで子供に箸の持ち方を教えている時のようにうまくいかない!むしろそれより酷いまである!」

「またまた〜ご冗談をッ!ハッ!」

「冗談どころではない!本当に出来なさすぎて怖い!まず今まで剣の指南をしてきて聞いたことのない指摘が自分の口から出るのが恐怖でたまらないわ。」


んー分からん…

なぜ俺はこれほどまでに上手く出来ないんだろう?

父さんに手取り足取り剣の持ち方から教えてもらっているのに、打ち込んでいる間に持ち手が逆になったり、剣の向きが逆方向にいっていることもしばしばという下手くそさだ。


ちなみにシュタイン家は俺の祖父が対魔王軍戦線において地点防衛で目覚ましい活躍をしたとして貴族の地位をもらったそうだ。

武闘派の貴族としてその道の家柄の人にはまあまあ名が知られているようだ。

当然、祖父から直々に教え込まれた父も強く士官学校で教師をしている。

俺の兄2人はすでに士官学校に入学しており1番上の兄のライ兄さんは第3学年で序列4位、2番目の兄、レン兄さんは第1学年で入学試験次席という優秀さだ。


俺と雲泥以上の差である。


「あー疲れた。」

「お前は何もできていなかったがな。」

「そんなことは無いでしょうに。」

「そんなこと大有りだ。」


三男の俺は家系を継ぐとかそうゆう問題に巻き込まれることはないが…


シュタイン家では兄さん2人のうちどちらかが家を継ぐことが決まっている。しかし険悪とかそうゆうことはなく2人は仲が良くて、ライ兄さんの方は父さんの血が強いのかガチ脳筋でレン兄さんより強い。

レン兄さんの方も強いがそれ以上に頭がいい。どうやらこっちは母さんの血が強いようだ。

というわけで2人でどっこいどっこいという感じだ。実際どっちが継ぐことになっても大丈夫だろう。


だからこそ!

俺の夢は大陸の色んなところを旅して回って生きることだったのに…

なんだこの俺の為体は…

考えるだけでため息が出るな。


「あ、レン兄さん」


噂をすれば。ちなみに2人の容姿はこんな感じ

レン兄さんは青い髪で優しい目をしたイケメン。

ライ兄さんは赤い髪でワイルドな風貌のイケメン。

容姿まで対照的とは…でもこれで相性抜群で仲がいいんだから驚きだ。


「やあ、エル。稽古はいつも通りだったみたいだね。」

「いえ、とても上達しました。なんと前方に剣を振れるようになったのです。すごい進歩でしょう?」

「そうだね!それはすごい進歩だ!まさかエルがちゃんと剣を振れるようになるなんて…兄さん嬉しくて涙が出そうだよ…」

「なんだろう…かわいた涙流すのやめてもらっていいすか。」

「まあまあ頑張って鍛錬続けなよー」


兄さんはそう言ってくれてるけども…鍛錬を続けたところで人並みに剣を振れるビジョンが見えない。

おそらく剣だけでなく槍や弓、単純な殴り合いも俺は上手くできないだろうな。

このままでは俺は強くなれないのか?

何か方法があればいいんだがな…後で書庫でも漁ってみるか。


晩御飯を食べ、書庫に行ってみる。

書庫は6段分ある本棚が連なっている。一冊一冊の厚さが5センチぐらいで本当に重い。


「家事、家事、家事、お金、お金、お金、家事、武術、武術、家事、武術…」


なんもねえじゃねえか。

なんだこれ、どうでもいい本と俺では扱えない本とか酷すぎるだろ…

結局何も無しか?

というか、父さんに聞いてみるか。こんな適当に探してても見つかるわけないしな。

そうと決まれば父さんのところへ行こう。

あと、父さんは白髪混じりのワイルドな感じです。


誰にいちいち説明しているのか…

考えたら負けである。


長めの廊下を通って父さんの書斎を目指す。

なまじお金があるせいで家が広いから尋ねるだけで一苦労だ。


「コンコン、父さんエルです。」

「入れ。」

「失礼します。」

「エルが来るのは珍しいな。そしてその丁寧な口調やめろ。気色悪い。」

「酷えことゆうな。まあいいや。それでさ、書庫になんか強くなれるようないい本ない?探したけどちっとも見当たらないし。」

「強くなれる本ってなんだ?そんなの俺が欲しいわ。でもまあ…奥の方に本積み上がってるところがあるからさ、そこら辺に魔導書とかあると思うぞ。俺は魔法適正がなくて捨てようと思ってたやつだからな。」

「確かに父さん脳筋だからね。適性あるわけないよ。」

「うるさいわ。話が終わったならもう行け。俺はお前と違って忙しいからな〜」

「はて?仕事が遅いだけでは?」

「煽り口だけは達者だなお前は。早く行け。」

「はいはーい。」


父さんとの仲は結構良い。

ってそれはさておき、魔導書とやらを探してみますか。
































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