私たち三人は、それぞれの椅子に座り、同じテーブルについて喋りながら時間を潰していた。まるで時間が止まったような午後だった。

 野菜の入ったラーメンを食べ終えた後で、カーテンのない大窓からはぱりっとした光が差し込んでいた。光に照らされて空気中のホコリがよく見えた。


「結局、あれはどうなったの?」


 エルが、片手に持ったあんドーナツをかじりながらそう言った。きれいに歯型の付いたドーナツには、粉砂糖がかかっていてどう見ても必要以上に甘そうだった。しかも、その中心部分には穴が存在しない。穴の空いてないドーナツになんの存在意義があるというのか。ドーナツは穴が空いて初めて完成するのだ。少女よ、聞いてるか?


「ほら。歩いてたら路地で絡んできた坊主頭」


 聞いてないな。しかし思い起こしてみても特に心当たりはない。まあ、物覚えの良い方でもないので、そんなに信用がおける訳でもない。なにしろ自分ときたら、自分を産んだ母親の顔すらとうの昔に記憶の彼方だ。


「アル、覚えてるか?」


 質問すると、向かいに座る小柄な少年がのほほんと返事をよこした。


「そんなんもいたね。このご時世には珍しく、マスケット銃構えてきたやつ。灰目が首はねて終わりだったけど」

「そんなに難しくなかった。処理したのってアル?」エルが聞いた。「どうやって処理したのか教えてほしいんだけど」

 あー、とアルの眉が下がった。

「あれは特殊だったんだ。あのころはまだ緩かったから、バラして迷宮に運ばせて、おわり。運び屋には近くの反社を雇った。街に来たばっかりでつながりもなかったからね。なにげに大変だったよ」


 苦労話は聞いてないとばかりに、ドーナツを食べ終わったエルは指についた粉砂糖をぺろぺろなめ始めた。


「いっその事、まるごと消し飛ばしてくれればよかったのに。そしたらなんにもめんどくなかった」


 アルがうらめしそうにエルを見た。


「いつもはどうしてるの?」

「いくつかあるけど。いちばんのおすすめは掃除屋に連絡。次点で、周りごと燃やす、かな。それも少しでも残りガスがあればだめだから難しい。バレたら面倒なんだわ。

 プロが一番便利だよ。高いけど。ボクも昔やってたからやり方自体はわかるんだけどな。めんどいんだよ。時間は金じゃ買えない」


 アルが新しく仕入れた銃弾を手のひらで転がしながらそう言った。その金眼で矯めつ眇めつ観察する。アルは金属の銃弾が大好きで、大量に持っている。彼の部屋にある箱の一つは高級銃弾が。戦闘時にとれる手段は多い方がいいし、エネルギー弾よりも確実だから、とか嘯いてるが、ありゃただのマニアだ。

 光学弾とかエネルギー弾とかより手応えがあるのが趣味なんだろうな。珍しい嗜好だとは思うが、理解できないものでもない。火薬の詰まった薬莢に、先の尖ったフォルム。あれはいいものだ。


「いまさら、死体の処理方法なんて聞いて、どうしたのさ」アルが言った。「興味なかったじゃん」


「知り合いが困ってるらしい。初めて人を殺したって」なめ終わったらしい指を拭きながらエルが答えた。


「一番楽なのは埋めることだから」

「それも言っとく」

 そろそろ出かける時間だ。

「今日の仕事は?」

 二人の予定を聞こうと質問を投げた。

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マンション暮らしの不老不死 sir.ルンバ @suwa072306

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