シネマの傍観者

 あー……どうしようかなぁ。

 目の前で死にかけているこの男。この男こそは次のセンターであるのだが、現在意識不明の重体でございます。と。

 私が救うべきなのだろうか。

 いや~……私はこういう時に救うタイプの人間じゃないんだよねぇ。今までだってずっとそうしてきたからなぁ。意地悪な家族に虐められ、家の掃除ばかり強制されている可哀想なお嬢さんや、身体を畜生に変えられてしまった可哀想な青年。とある悪の魔法使いに両親を殺され、さらに厄介な魔法をかけられてしまった赤ん坊に、満月を見ると暴走してしまう少年。エトセトラ。

 それらを救う力を有している私は、しかしそれら全てを見捨ててきた──見捨ててきたというと語弊があるというか、私のイメージに自ら泥を塗りたくっている気がするので、私に謎多きカッコよい魔法使いお姉さんというイメージがつくように言い換えてみよう──私はそれら全てにかかわらないよう避ける努力してきた。

 なんせ、彼らは皆『センター』だったからだ。センターって言うのは私が物語の登場人物たちをそれ以外と区別するときに、なんか良い感じの言葉があればいいなと思って適当につけた用語なんだけれど、センターである彼らは物語の登場人物であるからして、結構大事に扱われたりすることがあったりなかったりするのだ。

 よって、この男。即死級の猛毒が身体中の血液を蹂躙し、今にも死にそうな意識を失っているこの男はセンターであるからして、多分おそらく、私が救わなくとも簡単には死なないのだ。

 だから多分おそらく、今回も助けなくても大丈夫だ。

 物語の登場人物、センターが、刺客にあっさり殺されたりするわけない。そんなセンターであったならば、この物語はそれほどのものだったということだ。もちろん、死ぬことが物語中の役割であるセンターもいるから、観測は続けるけども。

 ……しかし、昨日は失敗したなぁ。

 どうして私は、パイプリップを救ってしまったんだろう。

 パイプリップ。彼女は世界に愛された娘だ。彼女の人生は世界中のいろんなセンターたちと見比べても可哀想と言って然るべき人生だった。ぽっと出の女に婚約者を奪われ、あげく醜悪なプロパガンダで評判を落とされ、あげく彼女が焦って実力行使に出たところを目撃され、そして処刑。彼女ほど周囲のセンターに都合よく設定されてしまったセンターもいないだろう。

 しかし、世界は彼女を愛している。

 だって、二度目のセンターなんて珍しいなんて程度じゃない。超超珍しいと言っても足りないくらいだ。

 センターに選ばれた人間達は、その物語の完結までその愉快な人生を突っ走る。そして突っ走った後は眠りにでもついたかのように静かで平凡な人生を送る。ただ幸せに生きたり、死ぬまで救われることのないまま辛く苦しい人生を送ったり。

 そんな中、彼女は二度目のセンターに選ばれた。ああ、これが予測できていたら、私は彼女のことを拾ったりしなかったのに。

 しかし、拾ってしまったものは仕方がない。……いやむしろ、彼女はこの『舞台裏』の家事全般を一手に引き受けてくれているし、拾ったことに後悔はない。

 だが昨日、彼女が毒針を持って可愛らしく遊んでいた時、彼女に気をつけろと忠告したのは本当に失敗であった。センターに関わらないよう常日頃から努力している私が、そんな簡単な失敗をするなんて、そんな都合の良いことは起こるはずがないと油断していたのかもしれない。

 もしかして、これが世界の意思という奴なのか? 因縁深いあいつらが多用する、世界の意思とかいう便利な奴なのか?

 だとしたら私は憤死するレベルでイライラしちゃうなぁ。

 まあ、もう諦めるしかないことは分かっている。彼女に関わってしまった以上、彼女の人生を少しでも変えてしまった以上、私もセンターに組み込まれてしまった。

 ならば、出来る限り端役のセンターでいることだ。

 しかも、私は馬鹿なので、いま屋上に倒れ伏しているこの男。今にも死にそうになっているこの男に、既に関わってしまっている。この男が心の中で弱音ばっか吐いているから、うるさくて声をかけてしまったのが始まりだった。

 そうしたらこの男、暗い生い立ちをしているくせに考えていることがユーモラス過ぎて、そのギャップに思わず笑ってしまう。ずるいのだこの男は、凝り固まった無表情のまま、頭の中で接見の泡立て方の練習をしているのだもの。ギャップの振り幅が大きすぎて、メトロノームだったら爆散している。

 そんなことがあり、私は無様にもこの男の思考に夢中になってしまった。

 今までセンターと関わらないように努力してきた私だから、この男とも関わらないように努力してきたのだけど、この男の思考に夢中になってしまった時点でもう無理だと思ったので、この男との雑談くらいだったら許すことにしようと、努力の基準を変えることでずる賢く対応した。

 ということで、グダグダと言い訳を並べたけれど、私が許したのは雑談のみなので、今にも死にそうなこの男を救わないことにする。

 センターとしてここで死ぬならそれでよし。何か幸運が訪れて助かるもよし。好きにしてくれ。

 私は傍観者として君の物語を楽しませてもらうからねぇ。

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完結主人公達のエンドロール マックラマン @oou444

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