恋は白日のもと

スミンズ

恋は白日のもと

 真っ白な紙に「好きです」とだけ書いたラブレターは、結局帰路も鞄のなかに入ったままだった。


 「無事に卒業できて良かったなあ」とか言う車を運転する親父の言葉もうわのそらだった。


 「うん」と適当な相づちをうちながら、僕は外を見た。空はどんよりとしていて、3月特有の湿り雪が降り続いていた。


 僕は結局、勇気を出すこともできず高校時代を終えてしまった。恋というのは煩わしいものだ、なんて思いながらも、過ぎてしまった日をもうどうこうもできないのである……。



 明くる日、僕は妹とパフェを食いにきていた。


 「なんで卒業記念でナオとパフェを食べなきゃならないんだ」


 「いいじゃん。どっちも卒業だし、たまには」妹のナオはひたすらパフェを食べる。


 「第一、ナオ、中学生の癖に彼氏いるじゃん」


 「げ、なんで知ってるの?」ナオは握っていたスプーンを止める。


 「line誤爆したろ」そう言うとナオはムスッとした。


 「忘れればいいのに」ナオはまたスプーンをパフェに突っ込む。


 「その様子だと今日は彼氏とアポ取れなかったんだ」


 「……男友達の家で鍋パだって」


 「まあ中学生らしいな」そう言うとナオはふとさりげなく言う。


 「それより、ヤスヒロは彼女出来ないわけ?もう高校生、っていうか大学生じゃん」


 「あのな、ナオ。この世の人類はリア充と非リア充っていう、外国人と日本人よりも大きな違いのある分け方が出来るんだ」


 「そういうのがキモいんだよ、非リア充って」


 ナオは尖ったナイフのような言葉で僕を突き刺してきた。あからさまに傷ついた顔をするとナオは「ヤバい、言いすぎた」と呟いた。


 そうですか、「言いすぎた」ですか。冗談って訳ではないんですね。


 僕らはお腹いっぱいパフェを食べると、今時珍しい紙の伝票を持って会計に行った。するとそこには、予想外の人がいた。


 「康裕くん」そこにはエプロン姿の、三日月晴香はるかがいた。


 僕が卒業式でラブレターを渡せずにいた、その人だった。はじめてみるバイト姿の彼女は、率直にいうとかわいかった。


 「はるちゃん」知らぬまにクラスの女子の中では唯一あだ名で呼ぶようになってた彼女に、いつものようにそう返した。


 「はい?」するとナオは突然僕を指差した。


 「もしかして、知り合い?」


 「君こそ。康裕くんの彼女さん?」はるちゃんがすかさずナオを指差す。


 「ちょ、待って。はるちゃん。まず、この横のパーリーピーポーは彼女じゃなくて妹です」


 「妹?」はるちゃんはキョトンとする。


 ナオは少し顔をしかめると「はじめましての人にパーリーピーポーの妹って紹介する?」 と呟いた。


 「で、ナオ。はるちゃんはクラスメート」


 「へえ、クラスメートねえ」ナオはなぜか腕組みをした。なんでそんな上からなんだ……。


 「妹かあ。結構雰囲気が違ったからさ」そう言うとはるちゃんは伝票を見ながら電卓を叩いた。


 「1100円です」


 僕は言われた通りのお金を払うと、僕は少し覚悟をしてこう言った。


 「また来るよ」


すると彼女はふっと笑顔になって「待ってるよ」と言った。


 店から出るとナオは唐突に僕の脇腹を突っついてきた。


 「なんだよ」


 「いやいや。全く女性と仲を持ってないと思ってたから、あだ名で呼ぶくらいの人がいるなんて」


 「クラスメートだって」


 するとナオは「そうかなあ」といって首をかしげた。


 「きっとね、はるちゃんとかって人さあ、ヤスヒロのことに好意持ってるしょ?」


 「いや、え?なんで」


 「いやいや。ホントにそうだって。私普通に怖かったよ。あんな獲物狩るような眼で『彼女さん?』って言われたのはじめてだって。あれはね。嫉妬だよ嫉妬」


 「え、いやいや、思い上がりだよそれは」


 「……まあ、ヤスヒロがもてないんじゃなくてアホだってことは良くわかった」


 「なんでナオって定期的に言葉のナイフ投げてくるの?」


 「……もう、いいや。ごっさんでした。もうヤスヒロとはパフェなんて食べないよ」そういうと自分の食べたパフェの分の小銭を投げつけてきた。

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