シングルベルの運命や如何に

 一人で暮らすクリスマスに、クリぼっちだのシングルベルだのと呼び方はいくらでもある。だが俺はもうひとりぼっちのクリスマスなんて嫌だ。サンタクロースなんかいなくても俺は幸せになってみせる。


……と去年の夏に決意を固め、頑張って行いを改めようと考えたものの、今日はすでに1年4ヶ月が過ぎた12月2日。俺は去年の8月から身だしなみをしっかり整え、なるべく人に優しく接し、そして他人の役に立つと思われることを続け、口調を丁寧にしてきたが未だに変化はない。同じクラスの加谷さんが俺にしょっちゅう手伝うよう言いにくるようになっただけだ。

「これ、手伝ってくれる?」

「わかりました」

 なんというか、パシリにされている感はある。だが実際、加谷さんは進路委員で模試の結果などの重い荷物をよく運んでいるから断ってはダメだと俺は思う。今日も無言で荷物を運んでいると加谷さんは俺に話しかけてきた。

「ねえ、山下くん」

 いつもはずっと黙っている加谷さんである。俺は少し驚きながらも答えた。

「どうしたんですか」

「24日の放課後って空いてる?」

 俺はさらなる驚きをもって、加谷さんの方を見た。

「空いてないんだったら別にいいんだけどね」

 俺は声を少し抑えて言った。

「……空いてますよ」

「え」

 聞こえなかったのだろうか。俺はそう思い、もう一度、少し大きな声で言った。

「24日の放課後なら、空いてますよ」

「よかった。ちょっと一緒に来てほしいところがあってね」

「ほう」

「最近ね、SF映画やってるじゃん」

「どの?」

「大瑠皇紀ってやつ」

 西暦2836年、地球連邦政府とそれまで戦争状態にあった宇宙国家「瑠国」との平和条約締結に伴って瑠国の歴史を知り、自国の歴史を伝えるために地球政府は主人公である歴史研究者古島蒼汰を瑠国歴史博物館に派遣し、古島蒼汰は瑠国代表歴史家の助手・須崎本絽とともに瑠国と地球の歴史をまとめた歴史書「大瑠皇紀」「地球全史」を編纂していく……というストーリーの伝説的なSF作品。それが大瑠皇紀である。もちろん俺も知っていて、推しキャラは利久村元帥だ。

「大瑠皇紀2839の映画ですか」

「そう、それ。で、それを一緒に見たいんだけどいいかな」

「はい、喜んで」

 俺は有頂天である。その日の夜、俺はLINEで加谷さんに尋ねた。

「なんで俺が大瑠皇紀見てるって分かったんですか?」

「この前瑠国の国歌歌ってたから」

 俺は大瑠皇紀2839の映画版を一人で見に行こうと思っていた。だから大瑠皇紀が好きな人と一緒に見に行けるなら、とても嬉しい。しかもクリスマスである。嬉しくないわけがない。最高のプレゼントだ。

……というわけでクリスマスの奇跡は起きるのか、それは12月24日のお楽しみである。

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変人たちのクリスマス 古井論理 @Robot10ShoHei

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