雨上がり

「結局、愛や恋の類いだったんですか?」

その目には、まだ迷いや疑問があるように見える。

「分からないけど、僕だって馬鹿じゃない。彼の方こそその気がなかった、ってのは伝わった。恐らくだけど、彼にはまだ未練があったんだよ。浮気されても嫌いになれないなんて、少し妬いちゃうな」

あなたこそ、と言おうとして口を噤んだ。私こそ、未練と後悔ばかりで。

「そのお相手に、また会いたいですか?」

今まで黙っていたマスターが急に喋ったので、全員が驚いて固まる。

「あ…もちろん。会えるのなら」

「実は、今日から新しい従業員がいらっしゃる予定なのですが…お話されていた特徴が似ておりまして。もう少し詳しくお伺い出来ますか?」

柏木さんは自分が持っている細かい情報を出していく。なんでそんなに覚えているんだと引くほど饒舌に喋っていた。それを聞いたマスターは満足気に頷く。

「面接したときに書いていただいたプロフィールにかなり当てはまる。もしかしたら、可能性はありますよ。他人の空似かもしれませんが…」

「それ、個人情報大丈夫…?」

「個人情報の仕入先が本人からになるよう、通っていただけると助かります」

マスターは意外と商売においても強からしい。ただの親切な人で終わらないなんて。

「マスター、その人はいつ来る?」

「そろそろだと思われます。先程まで雨で足止めをくらっていたらしいですが、もう復旧したと連絡が入りました」

そう言われてハッと窓を見ると、確かに雨は止んでいた。

「じゃあ、私はそろそろ」

「あっ、私も」

続けてお会計を済ませ、外に出る。

「ねぇ、あなたが好きだった人についてもう少し教えてくれない?」

突然何を言い出すのかと思ったが、もしかしたら知り合いなのかも、とさっきの展開に期待を寄せてみる。私だって、会えるのなら会いたい。

「じゃあ、これ、私の連絡先」

渡されたメモ用紙の文字に見覚えがある。

「もしかして…」

私が名前を呼ぶと、いたずらが成功したかのような笑顔が返ってきた。

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