エピローグ

ピンク色のカーネーション

 雪菜が一つの小説として物語を書き終えたその日の夕方、秘密の場所でぼーっとしていると一年ぶりに北斗が現れた。

「やあ、雪菜久しぶり!」


 雪菜の目から涙が溢れ落ちた。

「北斗、会いたかった!」


「オレも雪菜に会えて嬉しいよ。よく頑張ったな。約束通り、しっかりと向き合って一つの小説を完成させた。まあ、小説としてどうなのかなって思う所はあるけれど、雪菜の気持ちはすごく伝わる物だったし、オレが伝えたかった事も伝えてくれた。コロロンは終息を迎えず、雪菜が思い描いていた『平和な元気な世界が戻ってくる』っていう小説は書けなかったかもしれない。オレも神様に選ばれて地球上にやってきた任務を全う出来なかったかもしれない。だけど、一つだけはっきり言えるのは『オレは雪菜を選んでよかった』って事。雪菜、ありがとう」


 雪菜は北斗を抱きしめて声をあげて泣いた。

 北斗も泣いていた。そして少し寂しそうな顔を雪菜に向けて言った。

「オレはいったい誰なんだろう。自分でも分からないんだ」


 雪菜は涙を拭いてその目をしっかりと北斗に向けた。

「北斗。あなたは北斗。私の大好きなFOX先生の魂や、私の大好きなお兄ちゃんの魂と繋がっている北斗よ。そんな北斗の事を私は大好き!

 北斗には色んな事を教えてもらったね。楽しかったよ。ありがとう!

 もしも"北斗"っていう人は神様が少しの期間だけ私に授けて下さった者で、あなたが消えちゃったとしても、もう私は大丈夫」


 そう言って雪菜はさっきよりも強く、北斗をぎゅっと抱きしめた。拭いた涙がまた流れた。

「でもさ、出来る事なら、またいつでも会いに来てね」


 いつの間にか北斗の姿は消えていた。そこには一輪の淡いピンク色のカーネーションが横たわっていた。


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コロロンウイルスと東京2020+1 風羽 @Fuko-K

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