青春鎮魂ノ儀
庭花爾 華々
一人目:ロケットサイダー・ガール
これは、高校3年生、即ち受験生にも関わらず、どうしたものか心に火が灯らない僕の物語りである。何処を歩いているのかも分からず、ふらつく僕の足取りである。
そして、青春という不確かなものに、僕とは違いぶつかり戦った、とある季節の少年少女たちの物語である。
猛暑と、一人だけ置いて行かれるような錯覚に、少しの眩暈を覚えながら。
そろそろ始めようと思う、それは夏の日の物語。
僕は、夏期講習から帰る、ちょうどまさにその時だった。
* * *
兎に角、多少は頭が良いらしい、それが今の僕のしみついた印象で在り、一年生の春から変わらないものの殆ど全てだ。
変わらないもの、聞こえはいいが、舘履きと上履きと制服とこれ位かもしれない。
ここに入ったのも、何か、頭がよさそうだったから。まあ、どだい、中学生が選ぶ進路というものに、あの時の緊張感ほどの重要さがあっただろうか、僕は考える。答えのあるその問いは、決まっていつも、
「否、大袈裟だ。結局、何処に行こうが変わらない」
である。違うだろうか、これは僕が僕という変わらない対話相手と一辺倒な問答を繰り返しているための、偏見だろうか。
もし、家の最寄りの、近いけれど通学に便利だったあっちに行っていれば、何か変わっただろうか? 本当にそうか? 部活なんてせずにバイトして、好きなものにお金を使えたか? もっと時間を使えたか?
答えは、分からない。
一人の時間は大事だというが、本や動画サイトなどインプットの仕方も多様であるが、どうしても変調に欠ける僕の青春は、恐らくこの先何の役にも立たない小手先の思想と幾つかの技術で幕を閉じるのだろう。
何なら図書室の哲学コーナーで、カントやニーチェら偉大なる先人たちの言葉に耽るのも良かった、少なくとも、現実よりかは。
と、このように、今日も随分とバッドが決まったところで。
「でも君は順調にいけば、4年間も哲学に耽ることになるんだろ?」
と。青年は、やや茶化すように言う。耳にかかるボブは男のくせに、などと言うといけないかもしれないが、艶があって奇麗な黒色をしている。
名前と相まって、彼は女性に間違われてしまいがちだ。
僕も、初めて見た時は、丸みを帯びた輪郭と言い、可愛い女の子だ、と本心で思ってしまった。思ったが、幻術は幻術、男子の中にはまだ彼をそうと認めない輩が要るともうわさされる彼の美形は。
何故か、女子禁制のファンクラブがあるとかないとか。
彼の美男子は、時たま僕にだけ見せる、ゲスの極みみたいな笑みによって崩れ去るのだ。それは別人のようで。
誤っていた認識を正しい方へと引き戻してくれる。
「違うんだよ、おちょくりたい訳じゃない。君だって受験期の夏何て、忙しいだろうに。そのほんの数秒だって拝借することの重みを、俺は理解して話しかけたつもりなんだぜ」
自分の世界から、僕は無事帰還した。
「うるさい、お前こそ科目数で死にそうだろうに」
機嫌が悪かった。
そう、丁度うとうとしていたところを、無理やり起こされたようだったから。起きて開幕、人が人だから、余計に。
「某東京の大学をお受験するお前に、それこそ一刹那だって無駄は許されてないだろうよ」
誇張しすぎである。
それに東京の某大学何て、隠せていないようなものである。
「東大生だってご飯は食うし、夜は寝る。そういう端から決めつけで、自分から遠ざけようとする姿勢が、今のこの世の中の格差の要因の一つだとは思わないかい?」
歯を突き立ててキャンキャン騒ぐ僕を諫めるように、角盧はいたって平然とそういうことを言う。しかも噛まない。
「うるさい、お坊ちゃまが」
勝負あった、何も言わなくなった角盧に未だ盾突く気にも成れず、僕は彼から目をそらすのだった。
知り合いというには知り過ぎて、友と呼ぶにも何か足りない。
そんな僕たちは、自然と影に入っていた。今は15時くらいだから、十分な影を容易に見つけることができるのである。
だからたまたま僕たちは、自販機の前に立つ形になっていた。
「買う人の立ち位置だね」
二人は自販機、学校食堂前の2台ある自販機の、片方の影に一緒に入っていた。
何の変哲もない自販機である、アツいこんな日には多くの集客が見込めるであろうラインナップ、実際僕の喉は手を生やしそうだった。
「ホメオティック突然変異ならぬ」
「生物は分かんないんだよ、僕は文系だ」
「まあたそうやって」
角盧は恒例の顔をするかと思いきや、期待を裏切り、すっと手を自販機の方に伸ばすのみだった。つられて、僕も見る形になる。
「三ツ矢サイダー」
何の変哲もない、三ツ矢サイダーが、特に人気があるのだろう、三段構成の陳列棚の上段を、ほとんど専有している。
余程、人気があるのだろう。僕はそう、ボソッと口に出して繰り返してみた。
それも何の変哲もない、風景に思えるが。
図田角盧には、違う景色が見えているのだろうか。それとも。
「買うんだったら、買えよ。金は出さんぞ」
しばらく、沈黙があったと思う。ようやく、その言葉が許されるくらいには彼は静止していて、そして動き出したと思ったら、
「屋上に行ってこいよ、答えはある」
名探偵ホームズみたいだ。いやしかしこれも、彼に言わせれば距離を置くという事なのだろうか。
将又、「芸術において何々みたいだ何てのは、評価しているという内に入らないよ。ならば面白かったとか、所謂小学生の感想とかって言われるモノのほうが、よっぽど素直でいい感想だと俺は思うけれどね」
彼はそう思う。
僕は。
再び沈みかけた夏に深呼吸をして、遠ざかっていく彼に僕は叫んだ。
「待てよ、もっと話そうぜッツ」
振り向かないかと思った、だから素直に振り向く彼の姿は、遠近法と相まって、小学生みたくチョコンと立っていた。
「三ツ矢サイダーだよ」
僕は振り向き、そびえる自販機に並ぶロケットみたいな三ツ矢サイダーを見る。ちらと見て、じっくりとは見ずに、改めて振り返るとき。
彼は消えていた。
まあ、お約束である。
すると僕にはロケットみたいな三ツ矢サイダーと、既に解かれている謎と、屋上という答えが残されている。共通点は、どれも与えられたもの、それだけだ。
「余程人気があるんだろう」
自然と漏れた言ったか言ってないかの言葉と、解明の瞬間が近似値的に重なった。まるでサイダーを開けると同時に、ぷしゅうと音が鳴るように。
僕は屋上へと向かう。
真っ赤に点灯する、三ツ矢サイダーだけが残った。
* * *
今回語りたいのは、本当は後者であって、彼ではない。
鈴木ぴかりは、クラス一の美少女を自称し、他称された、高嶺の花的存在である。
成績優秀、品行方正、天然、黒髪、セミロング。
そんな彼女は今まさに屋上で、本日何十本目かの三ツ矢サイダーを、空に向けて打ち上げようとしていた。否、彼女に見えているのはまだ明るい昼間からもうっすらと見える星々、即ち宇宙に他ならなかった。
「飛行機が飛べる距離まではね、一週間もたたず届いたんだよ」
三ツ矢サイダーが。
それがとても大切な気がして、僕は口に出してしまう。思えばこれが、初めての会話なのかもしれなかった。
「そう、でもね。そっからが大変。地球を出るとなると、もっともっと大変」
ガチャガチャと、彼女は主要な機械を適当に、もちろん適したという意味で適当に、いじりながら続ける。
「これね、全部ハカリダくんが貸し出してくれたものなんだよ、日本の未来に貢献したいってね」
「ふうん、角盧がね」
悪い癖で、僕は裏の裏を読みたくなってしまいたくなる。喩えば、ヤツはこうして貸しを作っておいて、大成した彼女に利子までつけて請求するんじゃないかとか。
「いや、無償で良いって言ってたよ」
そもそも器具に何らかの細工があって、実験データを裏で悪用している可能性だって。
「いやいや、私が失敗ばかりなのは調整がまだうまくいかないからだよ。それに彼のことだから、自家用ロケットバンバン飛ばしてるでしょ、火星に」
そうして人類が火星移住を涙ながらに決断したその時には、火星は野性のハカリダで溢れた修羅の世界と化しているのか。
南無阿弥陀。
「一人で充分だね」
「いや一人だって要らないよ」
ひどいね、そう言いながら彼女はガチャガチャと、一仕事終えたような顔を器具の合間から覗かせた。そしてニコッと、快活な笑みを浮かべる。
「友達だからかな」
「
ふふふと、ルビが伝わったか伝わってないかは置いといて、よく笑う彼女は話していて楽しい。よく笑うと言えば、ハカリダも同じ部類だが、似て非なる生物である。
「さあ、もう一発行けるよっ」
屋上に邪教の祭壇のように置かれた厳つい機械群、そのひときわ高いところに、あれは立っている。
「すげえ、三ツ矢サイダーがいっぱしの小型ロケットに見える」
「しかも売りは、サイダー自体を一切いじっていない事ですっ」
某遊園地のキャストさんみたいに声を挙げた彼女は、そのまま眼前の制御盤に身を乗り出す。発射するという事だろう、彼女の笑顔と、焦る僕と、照らされる三ツ矢サイダー。右手を突き上げた彼女は、カウントダウンを始める。
「3、2、」
いち。
「あ、耳抑えとかないとこま」
どううううううううううううんんん。
そうして本日何本目かの、三ツ矢サイダーが宇宙に向けて発射された。
僕はと言えば、爆風と轟音に吹き飛ばされて、屋上に出る階段の壁に全身を強打した。だから実に、2m近く吹っ飛ばされたことになる。
体重59㎏の男の子がだよ?
三ツ矢サイダーでだよ?
いててて、なんてものじゃない。イデエ、そんな情けない声をだして転げまわる僕を、彼女、鈴木ぴかりは山の上から見下ろしていた。
そして笑う。
ははははは。
「ヘルメットとヘッドフォン付けてもらうの、忘れてた」
対する彼女はガッチガチのフル装備。黄色のヘルメットについた十字架が、逆光彼女生来の美しさと相まって、お迎えが来たのかもしれないと、僕にそう思わせた。
山を駆け下りてくる彼女と、頭を摩る僕。手で引っ張てもらう形で、よろけながら立ち上がる。
背が高い鈴木さんは、比較的高い僕と視座が同じか、少し低いぐらいだ。そして勢い余って前のめりな今、その瞳がいやに近い。
星空みたいなハイライトに、僕が映り込んでいるのが見えた。
……。
「ロケットはどうなったんです?」
文字だと伝わりにくいが、素っ頓狂な声というヤツを出して、何なら後ずさりまでして、距離を取ってしまうのが僕。
こういう処なのかもれなかった。
「私の勝ちだね」
「何がです?」
「どちらが先に音を上げるかゲーム」
「……、痛恨の叫びならいくらでも出せますけど」
痛みの治まるどころか酷くなっているような後頭部を、さすりながら僕は言う。
「ロケットは、まあた駄目だったみたいね」
空を注視しても何も見えないが。隣に立つ鈴木さんには見えているのだろうか。
「今のが、587本目の三ツ矢サイダー、次が588本目の三ツ矢サイダー」
「587……、どうりで業者さんも増やすわけだ」
いや、流石に別ルートを用意した方が良いのでは?
「私は、みんなの飲む、日常の三ツ矢サイダーで宇宙を目指しているんだよ」
「はあ、自販機の、誰もが手に取る可能性があるもので、ってことですか」
納得した表情を作る。鈴木さんも満足したらしい。既に見るものは見た、そんな感じだが、僕はまだ話したりない気がした。
そしてそれを、僕には珍しく、直接言葉にすることが出来たのだ。
「良いよ、折角だったら高いところへ行こう」
と、手を取ってもらい、共に山登りをすることになった。
しながら、先程の一瞬の僕の勇気に、多大な感謝を送ることを忘れなかった。
「足元気を付けて、配線とか爆発するかもしんない」
爆発?
そう思い見れば、しっかり赤と青色の配線が、さあ俺を切れとばかりに飛び出しているのだから、僕は笑えなかった。それとも笑えてしまう鈴木さん位のほうが、人生万事うまくいくものだろうか。
よく笑う人は、その裏で多くの苦しみを乗り越えている。
そんなよく笑う中学校教師の言葉を思い出すが、どうだろう。それだって、過去の事なのか、現在進行形なのか、分からないし、別に笑うか笑わないかが苦しみと関係するのかも疑問だ。
笑っていると、そう言った面が見えづらいからかな?
本当に?
そもそもどうして英語の先生が、授業中にそんな事を言う流れになったのだろう?
「着いたよ」
鈴木さんのよく弾む声と、セミロングと、笑顔を以て。本日何度目か、僕は現実に引き戻されるが。その先もまた、夢のような世界に違いなった。
何でもいいか、そんなことは。
書き起こして数行の思考を、僕は呆気なく手離して。少なくとも今は、この瞬間を楽しもうと、そう思った。
「2年間も過ごしてきたのに、まるで別の場所みたいだ」
機械の山から、視座をこれまでかと高くした僕らの学校は、それだけでまるで別の物に見える。それは、人々から忘れ去れらた古城のようにも、火星に不時着した宇宙船の残骸のようにも、昨日の夜ごはんの崩れた豆腐のようにも。
「きれいでしょ、ここ」
「そうだね、きれいだ」
ヘリポートのようで、邪教の祭壇の様だとも思った、発射台が、座るのにちょうどいい。二人並んで座ると、まるで上まで上がり切った観覧車みたいだ。
夜風が気持ちいい、そんな言葉が許されるくらいには、当たりは暗くなっていた。
「そんなに好きだったら、科学部に入ればよかったのに」
少し遠く見ていた彼女の瞳が、僕の方へと向けられる。
「あーー、科学部か。勿論、勧誘は来たし、行ってもみたんだけどね」
我らが多田野高等学校の科学部は、他校に比べても抜きんでて技術力の高い部活である。それは学校がパンフレットなどで大々的にアピールする学校の顔という奴で、それで奴等も即け上がったが為の、四天王の異名でもあった。
四天王。
ダンス部(fashon)、陸上部(Army)、ラグビー部(YAMA)、そして科学部(civilization)の4部活。
部活動経費が馬鹿みたいに高いことからの蔑称である。
その求心力と支配力から付いた敬称である。
「仮入部してみたらさ、奥から反粒子砲持ってきてさ。しかも、人に向けるために作ってるってさ。馬鹿げてない?」
「奴等め、そんなものまで」
もちろん全ては、来年度の経費の為である。
「じゃあさ、次は私が聞く番ね」
日が暮れていた、夏は暗くなるのが遅いから、もう5時とか6時くらいか。長居し過ぎた、けれど良い機会だったと思う。
「将来の夢とかある?」
「夢、ゆめかあ」
それは、ある人の質問じゃあないですか。
そして鈴木さんが屋上で三ツ矢サイダーを打ち上げている理由は、彼女の夢と関係あるのだろう。
噂では推薦で慶応大学理工学部を目指すというのだ、伊達ではあるまい。
屋上から三ツ矢サイダーを宇宙に打ち上げるような女の子は、確かに何処も欲しがりそうだ。
「どだい、文学部哲学科を目指している時点で、んなもんありません、って言ってるようなもんですよ」
言い過ぎである。
しかしそんなもんな気もする。
「私はね、宇宙飛行士になりたい」
そう言って手を空に向けて伸ばすのは、ありきたりかもしれないが、彼女がすると映えてしまうから心憎し。
「でもどうして?」
「可笑しい? 女子で、宇宙に惹かれるというのは」
「いや、全然」
夢、何かやりたいこと、何て、正直みんな分かってない。ある塾講師は、そんなもの持ってるほうが可笑しいぐらいだ、何て言っていたけれど。
持っている人を、凄いと思うし、羨ましいとも思う。
ジュブナイルの中で僕たちはきっと、自分とは何か、また何になりたいのか、そういうものをずっと考えてきたし、考えさせられてきたように思う。
見つからなかったけど。
「中学卒業前の、みんな高校受験の終わった後の学校でさ、『ためになる授業』とかやんなかった? 何で学校に行かなきゃいけねえんだって、時だよ」
あの、中学生とも高校生とも、子供とも大人とも言い辛い時間のこと。
でも通っていたのは中学校か。
「性教育とかさ、夢とか生きるとは何かとか。皆、全然聞いてなかったけどさ、そんな中にあったの」
『宇宙へ行こう』
「夢が無いなら、宇宙を夢にしろって。宇宙なら、絶対に変わったり無くなったりしないでしょ」
僕たちが生きている限りは。
「そうか、宇宙かって思って。その日から庭に、自分を隔離するためのレハブ小屋を建てて、世界中の同じ夢を志す仲間たちと繋がりながら、白地パズルを解いたわ」
「要素多すぎません?」
鈴木さんは、素直なのだ。
しかし空でグーパーする彼女の拳には、しっかりと星が掴まれて見えた。それが実際に触れあうまでに、時間はかからないかもしれない。
「じゃあ、山崎直子氏に次ぐ、3人目の日本人女性宇宙飛行士か」
「その頃には、もっと沢山いると良いよね、友達欲しいし」
「そうだね」
……、何か言おうとした鈴木さんは、ポケットのスマホのコール音で目をそらす。さっきからずっと、青い作業着のいくつかのポケットには、他にもナットやボルトなどが見え隠れしている。
「ごめん、彼が近くにいて。一緒に帰ろうって」
「じゃあお開きだ。お邪魔しました」
いえいえ、こちらこそ。
まだ慣れない足取りの僕は、行きと同じように手を取ってもらいながら、何とか麓まで降りてくることができた。
「さっきの続きだけど」
作業着を脱ぎながら、彼女は続ける。屋上で時間も遅いとはいえ、見える見えるからと騒ぐ僕に、下は制服だよと、彼女は冷静に言うのだった。
「夢、まだ聞いてない」
「……」
催促の視線を下から受け、狼狽する。しかし逆に、これさえ切り抜ければ、今日はミッションクリアだとも言えた。切り抜ける、か。
真面目に考えてみると、案外時間を使った。
その間、何回かのバイブ音が彼女の方からして、僕は申し訳ない気持ちになるが、聞くまで帰らないぞという姿勢に負ける形になった。
「文化を作りたい、かな」
「文化、か。いいじゃん」
「いいかな」
「因みにハカリダくんも同じことを言っていたよ」
「奴が?」
俺は、文明を再構築したいと思う。この世界は元来、歪んだシステムの上に成り立ってしまったから。だから正しいものも歪んでしまうし、歪んでいるものがそう見えたりもして、ややこしいんだと思うんだ。そこに俺が、メスを入れるんだ。
「アイツ、他の人にもそんな感じなのね」
「文化と文明、何か漫画になりそうだね」
「5年ぶりの再会的な、ね」
二度とごめんである。
「しかも似て非なるっていうか。奴が言うと、本当にやりかねないから怖いんだよな」
科学部元部長、図田角盧。
多田野高校史で唯一、科学部をまとめ上げた男。
他称は、天災。
「『俺はアイツ等科学部の喧騒が、ちらちら目の端に移るのが嫌いだ。だから、俺の手でまとめ上げることにした』
そう言った次の日から、アイツは実際に、科学部の下部組織から少しずつ、でも着実に、掌握していった」
「私が帰ってくるとき、人類が残っていると良いんだけどね」
「本当に」
そう思うよ、と。
一段落したところで、本当にお開きにした。あとは屋上を出て、帰路について、憂鬱だが塾に行って、帰って、復讐して、寝るだけ。
「青山君」
彼女が僕の名前を呼んだ。新鮮で、何故かどこか神聖な感じがした。
快活な笑顔は、薄暗い中にも眩しい。
「もし君が苦しいときには、私に相談したっていいんだからね?」
「三ツ矢サイダーを、宇宙に飛ばせる鈴木さんに、ね」
「うん」
よく分からないけれど、少しだけ救われた気がした。もっと何か言うべきかもしれないけれど、『小学生ぐらいの感想』でも良い様な気がしたから、
「楽しかった」
そう締めてしまおう。
一人目:鈴木ぴかり(完)
→二人目:図田角盧 (はかりだすみの)
青春鎮魂ノ儀 庭花爾 華々 @aoiramuniku
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