第107話 後日談
帝国から無事旧イヒトーダ領に戻ったカズマ、母セイラ、アンは変わり果てた故郷の姿に、女性陣二人はショックを受けていたが、そこで再建を図って陣頭指揮を執る父ランスロットの姿を見て、元気を取り戻すことになった。
カズマも前回会った時の憔悴した姿より、父ランスロットがかなり回復していたので安心する。
それくらい前回の父親は絶望的に疲れ果てた姿だったからだ。
それを知らない母セイラは以前よりやつれた夫の姿に少し胸を痛めたのだが、無事であることに涙の再会を果たしたのである。
ちなみに帝国の様子はというと、未だ内乱状態であるらしい。
と言ってもクーデターを起こした将軍とアイスホークは各地で連戦連勝を続け、味方も続々と集結しているようである。
やはり、帝都を最初に抑えたこと、そして、皇帝が刺殺されたことが流れを大きく変えたようであった。
さらにアイスホーク達は帝室の者達に皇位継承権を放棄させていったそうだ。
中にはそれを断固拒否した者もいたようだが、アイスホーク達がその者達の保護を放棄すると、これまで我慢していた民衆達が殺到することになった。
その後のことはご想像にお任せするというところだ。
実際、放棄した者達は、クーデター軍によって保護され、新たな名前と身分が与えられ、クーデター派の安全な地でひっそり生きていくことになるらしい。
多分、監視付きであろうが、贅沢を言わなければ、殺されることはないだろう。
これにより、帝室は消滅し、抵抗するのは権力を手放したくない旧貴族と、まだ、帝室の復興は可能とする忠誠心溢れる時代錯誤な者達のみとなっている。
とはいえ、これらもなかなか頑強に抵抗しているようだから、しばらくの間は旧帝国領は内乱が続くことになりそうだ。
旧イヒトーダ領都──
帝国から戻った数万の国民のうちその半数近くがイヒトーダ領民であった。
数にして二万程。
もちろん、食糧に事欠く有様の中、二万も増えれば、食糧難は避けられない。
だが、そこは父ランスロットがカズマからの知らせを聞いた時点で動いており、ツヨカーン派に働きかけていた。
ツヨカーン侯爵派は現在、このアルストラ王国を二分する争いの最中であり、アークサイ公爵、ホーンム侯爵両勢力と不利な戦況にある。
だから、支援も限度があるのだが、父ランスロットやカズマに恩があるツヨカーン侯爵は支援を決定してくれていたのでギリギリのところで、領民達は命を繋ぐことになった。
そして、この現状をどうにかしないといけないと思ったのはカズマ達だけではない。
領民達自身が、自分達もこの地の復興の為に、できることをしようと、母セイラに訴え出てきた。
その彼らは帝国で蜂起した際、中心になった者達で、母セイラやその指導を受けた者達、その者達に指導をさらに受けた者達、というように自分達の身を守る為に剣と集団での動きを学んだ者達で、その動きは軍隊のそれである。
彼らはツヨカーン侯爵の支援にも感謝していたし、自分達もお金を稼ぐには、力を提供するしかないと考えたのだ。
その数は二万のうち約五千。
だが、訓練が不十分な者もいるので、母セイラがその彼らの動きを見て、三千を主力とし、残りの二千を予備として夫ランスロットの下に付け、領内で訓練を続けさせることにした。
そう、母セイラがその三千を率いてツヨカーン侯爵派に参戦することにしたのである。
もちろん、報酬は頂く。
それは、食糧援助である。
お互い必要なものを提供するということで、ツヨカーン侯爵もそれを歓迎した。
そして現在、母セイラの率いる三千の軍は、ツヨカーン侯爵派の遊撃隊として戦場を駆け巡っている。
そして、父ランスロットは旧イヒトーダ領の再建の為に頑張っている。
領民達もボロボロになりながら頑張る父ランスロットの姿を知っている者も多く、裕福とは言えないが食べることが出来て自由がある生活に不満を漏らす者はほとんどいない。
そして、アンも自分にできることをということで、カズマと二人で全国を飛び回っている。
ツヨカーン派勢力の為に重要情報を伝達したり、時には人助けの為に動くこともあった。
「カズマ、北部国境の味方への伝令お願いね。私は近くの味方にだからちょっと心苦しいけど……」
アンはツヨカーン侯爵にカズマと二人、また、伝令をお願いされたところであった。
「僕は『霊体化』でかなり早く移動できるんだから当然じゃない! それが無かったら僕の存在意義も半減するしね。はははっ! それに、お互いやれる事をやる。そういう約束じゃない」
「そうなんだけどね? いつも損な役回りをカズマにやらせているみたいで罪悪感が……」
アンは割り切れない部分があるようだ。
「適材適所だよ。逆にアンにしかできない事もあると思う。それに、アンは僕が鉱山地域からの脱出した時、助けに来てくれた事があったじゃない。あれがなければ僕はここにいないよ? だから、できることをやろう」
カズマは実際、あの時アンが刀を持って助けに来てくれていなかったら、一人で鉱山地域から脱出できていたかわからない。
だから、アンの行動で助けられたのは事実だ。
「……そうね。まあ、私はお姉ちゃんだし、やる時はやるわよ」
アンはそう言うと胸を張ってみせる。
「はははっ! その意気だよ。じゃあ、僕は出発するね」
カズマはそう言うと、大きなリュックを背負うと、武器収納から脇差しを取り出しお腹に突き立てる。
するとカズマはアンの視界から消えた。
「カズマ、いってらっしゃい。私も行ってくるわ!」
アンはカズマが消えた辺りにそう告げると、自分もリュックを背負って部屋を出る。
「いってくるでござる!」
『霊体化』したカズマはアンにそう応じると、空中を浮遊して味方の為にまた、旅に出るのであった。
─────────────────────────────────────
あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます。
これで、二部完結となりました。
しばらくこちらは休養に入りたいと思っておりますのでご了承ください。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
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幽霊サムライ転生~ハラキリから始まる少年冒険譚~ 西の果てのぺろ。 @nisinohatenopero
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