統帥本部創設

 龍馬の発言で室内は一瞬にして驚きに満ちた。

これまで海援隊は、明治政府とは違う武力組織として、併存、悪く言えば、仮想敵であった。

 北方の守備を行ってくれていたが、初期には旧幕府海軍を指揮下に収めたため、明治政府を上回る海軍力を持っていた。

 その気になれば日本中を海軍力で荒らし回ることが出来た。

 実際、朝鮮半島での事件、江華島事件以後の紛争で海援隊は度々半島に艦隊を派遣。

 海上封鎖を行い、朝鮮王朝を揺さぶった。


 詳しくはhttps://kakuyomu.jp/works/16816700426733963998/episodes/16816927862104894875


 他にも、政府内の傍流が主張した台湾出兵に手を貸したりアメリカのハワイ併合を阻止したり


https://kakuyomu.jp/works/16816700426733963998/episodes/16816927861320308767


 対米関係悪化を恐れて明治政府が手を引いていたフィリピンの独立に手を貸したりと、政府の方針に反する事を武力を持って実行してきた。

 日本の為に独自行動を取るといって、勝手に行動する上、しかも成功させ、結果的に日本の為になっているのだから、余計に手に負えない。

 何とか海援隊を指揮下に置きたかったが、反発されたら武力反乱になりかねないし、日本の物流の半分に影響力を持ってるため手出し出来なかった。

 だが、その海援隊が新組織の下とはいえ明治政府の指揮下に入るのだ。

 海援隊を完全に明治政府の管理下に絶好の機会だと色めき立った。


「統帥本部を設立する」

「早速、統帥本部を設立しましょう!」

「統一指揮を行おう」


 御前会議に参加していた、ほぼ全員が賛同した。


「それでトップは誰になるんですか?」


 鯉之助が尋ねると全員が固まった。

 先にも言ったとおり、海軍と陸軍は並立しており、相手にトップに立たれるのは嫌だった。


「私が」


 山縣が名乗りだした。


「いや、山縣公は参謀総長の重責があります」


 反対したのは伊藤だった。

 権力者で調整能力政策遂行能力に優れているが軍事的才能が無いのは誰もが知っている。

 その山縣に全軍の指揮をさせるなど自滅行為だ。


「大山大将は」

「作戦中の満州軍総司令官を転属させるなど出来ない」


 人格者であり、大臣経験もある大山は適任だったが、前線で戦っている最高指揮官を召喚すると、万が一引き継ぎの時に戦闘となれば、混乱し敗北してしてしまう。

 人選で混乱し始めた。

 紛糾する中、龍馬は言った。


「なら儂がやっちゃろう」


突然、室内が静まりかえった。

 確かに、維新の立役者であり、海龍商会の総帥であり海援隊の元締めだ。

 その、人物が陸海軍の頂点に立つのは確かに良い。

 だが、明治政府の方針に反してまで行動する組織の元締めなど信用して良いのか、時に明治陸海軍の仮想的と想定されるような人物が、トップになどダメではないかと出席者達は思った。


「いやあ、我が海援隊は陸海軍に比べ人員が少なく、規模も小さい。陸海軍のどちらかが我々を指揮下においてこき使われると大変ですのでどうか、儂に務めさせてくれんじゃろうか」


 龍馬の言葉は最もだった。

 最近は兵力増強を行い規模が拡大しているが兵力では陸軍に及ばないし、規模では海軍に及ばない。

 だが戦争遂行のためには両軍が協力する事が必要なのだ。

 詰まり、交渉の余地がある。

 張り合っている陸海軍のどちらかから出すより龍馬の方が、操りやすく、纏まりやすいと考えた。


「では、龍馬先生に統帥本部のトップ、名称は参謀本部の総長と同じで総長という役職名で」

「異議なし」


 こうして大本営、御前会議に代わる実質的な統一指揮を行う機関が誕生した。

 これまでの大本営と違うのは、ほぼ恒常的に戦時のみならず平時にも存続し作戦立案をし続ける機関だ。

 つまり平時から戦争に備えて準備出来る機関であり、即応性が増す。

 また、権限を持った人員を現地に送り、陸海軍の調整を行えるようにしたことも画期的だった。

 これで作戦の齟齬を大幅に減らすことが出来るようになる。


「さて、ひとまず決まったが、もう一つ決めなければならんのう」


 統帥本部の設置が終わり安堵する一同に龍馬は言った。


「何を作るのですか?」


「統一した軍備を作る軍務省じゃ」

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