ハワイ革命
「ハワイでは昔からアメリカ人が移住し、緊張状態が高まっていました。いつかクーデターが起こるのでは内火と思っていましたが、起きた時はやはり、不安になりました」
ハワイ革命以前のことを思い出したカイラウニは顔を曇らせた。
鯉之助は横に断ってカイラウニの肩を抱いた。
「当時はアメリカのハワイ進出が著しく、彼らの勢力が大きかった」
鯉之助はマーカスに説明した。
1893年当時のハワイはハワイ王国という独立国だったが、アメリカからの移住者が多くアメリカ本土と結びついた彼らの影響が大きかった。
彼らはハワイの土地を買い農場主となりサトウキビを栽培して米国本土へ輸出していた。
捕鯨に代わる産業として発展していた製糖業はアメリカへの輸出でハワイに富をもたらしており、アメリカ人農場主の存在は大きかった。
王国経済の根幹を握っているという背景を元に白人による政治団体ハワイアンリーグを作り、ハワイ王国議会へ進出。
アメリカ人達は徐々にハワイ王国の政治に関与して行く。
ハワイアンリーグは白人義勇軍ホノルルライフルズと共に国王に1887年選挙権の制限――選挙権を納税額と資産が一定以上に限る、アジア系の選挙権剥奪、王権制限を盛り込んだ新憲法、俗に言う銃剣憲法を求めた。
だが、開国後、ハワイ王国との関係を深めるとともにアジアへの砂糖の輸出で勢力を拡大してた海援隊は自分たちの権益が脅かされるとしてハワイ王室側に付いて、武力を背景に白人の政治勢力を排除した。
一旦は、引いたがアメリカ人達は海援隊を恨むようになり、双方緊張状態が続いた。
そして何時しかアメリカへの併合を企むようになった。
きっかけは1890年のアメリカの関税法が改正だった。
それまで無税だったハワイの砂糖に関税が掛けられアメリカ向け砂糖の販売が低迷。
アメリカ人農園主の収入源であるハワイの製糖業が大打撃を受け、失業者が増えたこともアメリカ人地主の焦燥感を煽った。
対して海援隊の製糖業は順調でアジア向けの輸出が増大。アメリカ人農園からダブった砂糖や立ちゆかなくなったサトウキビ畑を借りたり購入する事もあった。
自分たちの収入が海援隊に握られるのを嫌った上に、自分たちの砂糖が海援隊に安く買いたたかれているという被害妄想も加わり、アメリカ人農場主達の不満は大きくなる。
そして彼ら、アメリカ人農場主達は思った。
独立国であるハワイだと収入源である砂糖を米国で売る時、関税が掛かる。
だから高くなって自分達の砂糖が売れない。
だが、併合されればハワイはアメリカ国内になるので関税はかからない。
だから、ハワイをアメリカに併合しよう、とアメリカ人農場主達は考えた。
アメリカ本国もフロンティアの消滅――大西洋岸まで開拓を進め、新たな開拓地が無かった。
その代替として海岸の先の太平洋へ進出を始めていた。
太平洋で活動するとき中間補給地点としてハワイは絶好の拠点であり、早い内から目を付けていて、隙あらば併合しようという考えがアメリカの一部で広がっていた。
「海上権力史論」で有名なマハンも地理的位置の点で太平洋のほぼ中心にあるハワイは重要であり確保するべきだ、と上層部に提言書を提出したほどであり、アメリカの一部でははハワイ確保に動いていた。
「戦艦富士の購入杖アメリカも警戒していた事もマイナスになった」
日本が海援隊を通じて戦艦富士を英国から購入したことも彼らを刺激していた。
もし日本がハワイと同盟した時、戦艦富士をハワイに派遣すれば、当時の貧弱なアメリカの太平洋艦隊及び東アジア艦隊では富士に太刀打ちできない。
日本が戦艦富士を手に入れる前にハワイを併合しようと考えたのだ。
そうした勢力とアメリカ人地主の思惑が絡み合って、いや独りよがりの身勝手な理屈でハワイでクーデター、ハワイ革命が起こった。
「白人の連中、いきなりホノルルで決起しやがった」
1893年1月公安委員会を名乗る組織が突如あらわれ白人義勇武装組織ホノルルライフルズの本部前で市民集会を開き王政の廃止と合衆国への併合を決定した。
ハワイ王国側は反逆罪を適用しようとしたが、彼らの背後にいるアメリカの力を恐れて反対集会を開くだけだった。
しかし、公安委員会は暫定政府の成立を宣言し王政廃止と戒厳令を公布した。
しかもこの混乱を理由に駐ハワイ公使スティーブンスが在ハワイアメリカ人の生命財産を守る為、ホノルルに停泊中のアメリカ巡洋艦ボストンから海兵隊の上陸を要請する。
自分たちが起こしているクーデターによる騒乱を理由に併合先の軍隊を上陸させるなど言語道断だったがボストン艦長のウィルツは承諾し海兵隊164名が上陸。
ホノルル港を占拠した。
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