洋上からの援護

「本気か」


 皇海の露天艦橋で隆行の通信文を受け取った鯉之助は面食らった。

 猪突猛進の気がある隆行が心配で東郷長官の許しを得て自ら乗り込む皇海を支援に向かわせた。

 渤海側にも隆行達海兵師団を支援するため真岡型沿岸砲艦などの砲艦が出撃し、援護射撃を行っている。

 過剰な戦力投入という批判もあったが、敵前上陸、それも少ない兵数でロシア軍の兵力を抑えるには海からの援護射撃特に一二インチクラスの艦砲射撃が必要と訴え認めさせた。

 最悪の事態を想定して自ら出撃した鯉之助だが、無自覚に兄馬鹿な部分が出てきたことは事実だった。

 だから上陸後に起こるであろうロシア軍の反撃を皇海の主砲で吹き飛ばすつもりだった。だが、隆行は予想以上に攻撃精神が旺盛だった。

 自ら敵に向かうなど想定外だった。


「計画を早める。南山を砲撃してロシア軍を降伏させる。でないと黒金剛が突っ込んでしまう」


 鯉之助は皇海に南山への砲撃を命じた。

 しかし、厄介ごとは陸ばかりではなかった。


「長官! 旅順方面から多数のロシア艦艇が接近しています」

「やっぱり来やがったか」


 旅順の前衛陣地である南山を援護するため、太平洋艦隊が艦艇を出撃させてきていた。

 史実でもロシア軍は大連湾側に艦艇を出しており、攻撃中の第二軍が被害を受けている。

 旅順を封鎖しているとはいえ、霧が発生しやすい上に連日小競り合いを続けていては、すり抜けるロシア軍艦艇も出てくる。

 これらの艦艇を撃破するためにも鯉之助は皇海を大連湾に出撃させたのだ。

 進出距離が長く、迎撃されやすい渤海側に敵が来る可能性は少ないと判断し、防御力の低い沿岸砲艦に任せ、自ら大連湾側に出向いて迎え撃つことにした。


「明日香、撃退してくれ」


 護衛に付いていた式波を率いる明日香に無線電話で依頼する。

 麗は綾波を無茶させすぎて艦首を大破させたため本土の大神造船所にに送り返していた。


「過重労働ね」


 返事はうんざりしたような声だった。

 このところロシア艦隊との戦闘や出撃が多く疲れが溜まっているのだろう。

 だからマジックアイテムを使う事にする。


「間宮の洗濯板一枚おごるよ」

「叩きのめすわよ!」


 先ほどとは別人のように元気な声を上げ、全速でロシア艦隊へ突撃していった。


「こんなに喜んでくれるとは間宮を作った甲斐があった」


 間宮とは、海援隊が保有する給糧艦だ。

 太平洋で活動する海援隊を支援するため、遠隔地で行動中の艦隊への食糧補給の為に作られた艦だ。

 当初は、文字通り食糧、食事の材料のみを輸送する計画だったが、鯉之助が士気向上のため甘味などの嗜好品を搭載製造する昨日を付けるべし、と意見して菓子工場も付けられた。

 軟弱という批判もあったが、イギリス海軍がティータイムに菓子を提供し士気を維持している事例を紹介すると認められた。

 第二次大戦で活躍した給糧艦間宮をモデルに建造させたため運用も間宮に準じている。

 菓子工場で作るのは海援隊員では無く、老舗菓子店で腕を磨いた職人であり味は老舗人気店に勝るとも劣らない。

 そのため間宮の菓子は人気だ。

 饅頭、羊羹、アイスクリームの他、間宮の洗濯板と呼ばれる菓子は一度食べた者が絶賛する程の名物だ。


間宮についての詳細は

https://kakuyomu.jp/works/16816700428609473412/episodes/16816927861745263201


 当然甘味が好きな明日香も好きで食べられると聞いてやる気が出た。

 指揮下の駆逐隊を指揮して、やってきたロシア軍の砲艦に向かって突撃する。

 艦艇が不足しているためか、護衛の駆逐艦や水雷艇も殆どおらず、式波を初めとする各艦の砲撃を前に次々と撃破されていく。


「単純だな」


 菓子の一つで砲艦群を撃破するのは安いと言えた。


「さて、此方もロシア軍にトドメの砲撃を行うとするか。皇海全門砲撃開始」


 鯉之助の命令で皇海に装備された連装四基の主砲がロシア軍陣地に向けられ火を噴いた。

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