海兵師団 勇戦す
「退きもうさんな」
がむしゃらに攻めてくるロシア軍を見て隆行は、唸る。
沖合の艦艇から砲撃を受け、ボロボロになりつつも前進し、海兵隊員の銃撃を浴びてなおも攻め続けるロシア軍の戦意に驚嘆した。
「機関銃を」
隆行の命令でホチキス式機関銃が持ってこられてロシア軍に向かって火を放った。
密集隊形への機関銃の掃射は極めて効果的でバタバタと倒れていった。
あっという間に一個連隊が壊滅した。
「まだ来もうすか」
だが、ロシア軍も退路を確保するために必死であり損害に構わず攻めてくる。
どうせ退路を断たれて全滅するしかないのなら、攻めた方が良いと考えているのだ。
ロシア軍は次々と攻め寄せてくるが海兵隊の間断のない銃撃の前に倒れていく。
「機関銃故障!」
銃撃しすぎて機関銃が故障してしまった。
銃身が過熱しすぎて部品が壊れたのだろう。
だが、ロシア軍はなおもやってくる。
「白兵戦用意」
ロシア兵との接近戦を覚悟した。だが次の瞬間、ロシア軍のど真ん中で爆発が起こった。
「皇海からの砲撃でごわす!」
幕僚の一人篠原少佐が海を指さして言う。
背負い式に搭載された四基の砲塔が再び火を噴き、しばらくしてロシア軍の陣形を囲むように爆発が起こる。
ロシア軍の攻撃が激しいと聞き、支援艦艇だけでは足りないと思った鯉之助が自ら率いてやってきた。
「兄者の助力じゃ」
鯉之助とは従兄弟にあたるが幼少から海援隊の事業に加わり海援隊を世界規模の大きな会社にした手腕を隆行は尊敬しており、実の兄のように慕っていた。
その鯉之助のために尽力しようと海援隊の戦闘部門へ入隊し各地を転戦してきたのが隆行だった。
「師団長、第二波がやって参りました」
隆行達第一波を乗せてきた大発動艇が母船や商船に戻り兵員を乗せて帰ってきた。
さらに五〇〇〇名が増強され、ロシア軍を封じるには十分な兵力が集まった。
補給も迅速に行われ、前線には弾が補給され戦闘力を回復した。
「よし、砲撃が終わり次第、攻撃に移るでごわす」
だが隆行は更なる進撃を命じた。
「閣下、既にロシア軍の退路は断たれております。降伏以外に道はありません」
「じゃっどん、敵は攻めてきてもうす。ここで一当てせんと降伏しそうにありもはん。ここは攻めるでごわすよ」
降伏するまでに時間が掛かれば、満州のロシア軍が攻めてくるかもしれない。
今はまだ遠いが、旅順のロシア軍が攻めてくるかもしれない。
降伏勧告をして時間が掛かるのだけは避けたかった。
荒武者のような隆行だが、そのような計算は出来る。
だから部下に命じた。
「総員抜刀! ロシア軍を殲滅するでごわす! 突撃!」
隆行を先頭に海兵隊員は突撃した。
元々隆行に付き従うのは父親隆盛を慕っていた殺人マシーンもとい薩摩人が多く血の気が多い。
躊躇無くロシア軍に突き進む隆行に海兵師団は続いていった。
「突撃じゃ! チェエエエエストオオオッッ」
「西郷さんが行くなら、おいどん達も行きもうすぞ」
特に父西郷を慕っていた配下の息子達桐野、別府、村田などは、隆行の後に続いて突撃していった。
敵の方が圧倒的に上だったが、機関銃の乱射の後、携帯火器のを乱射されて陣形が大きく崩れ混乱している最中、突撃を受けたロシア軍の最前線は壊乱した。
特に薩摩隼人の士官達は示現流の達人であり、白刃を振り回し兵達の先頭に立って斬りかかる。
新撰組局長近藤勇に初撃は避けよと言わしめた示現流の振り下ろしは凄まじく、受け止めた銃の銃身は折れ、銃床は易々と切り落とされた。
猛烈な鬼神のごとき攻撃にロシア兵もたじろぎ、最前線の部隊は狂乱し退却を始めた。
「日本軍が来るぞ! 下がるんだ!」
「前に行け! 後ろから日本軍が来ているぞ!」
だが、第二軍に猛烈に追い上げられていた部隊も撤退してきており、彼らは狭い領域で押し合いへし合いの混乱を招いた。
「ええい! とっとと退かないか!」
フォークは部下を撤退させようとするが、憲兵上がりのフォークにこのような修羅場での戦闘指揮など不可能だった。
ロシア軍東シベリア狙撃兵第四師団の混乱は拡大し、指揮系統は急速に瓦解していった。
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