フォーク少将 愕然とする

 上陸中ロシア軍の攻撃に晒された海兵師団。

 だがフィリピン独立戦争や義和団の乱で活躍した海援隊隊士および隊員が多数を占める海兵師団は落ち着いて反撃を開始した。

 周囲の障害物を見つけて陰に隠れると、ロシア軍に向かって銃撃を浴びせる。

 ナポレオン戦争時代の伝統を色濃く残すロシア軍は密集隊形で押し寄せてくるため、隠れて狙撃する海兵師団の兵士達の良い的だった。


「敵に火力を浴びせるでごわす」


 隆行の号令で早速上陸した兵士たちが次々と自分の武器を用意する。

 小銃が素早く射撃され、その援護でホチキス式機関銃が持ち込まれロシア軍の隊列に銃撃を浴びせる。

 次々とロシア兵は倒れる。

 そこへ、後方で準備を整えた迫撃砲部隊が、ロシア軍の後方へ砲撃を始めた。これにより前線部隊は孤立、後続と分断され、退路を断たれた。

 そこへ無反動砲を持った海兵隊員が現れ、密集したロシア兵にトドメの砲撃をお見舞いした。


「撃ち方止め!」


 指揮官の号令で発砲が止むと、ロシア軍兵士の遺体しか残っていなかった。


「さすが兄者でごわす」


 戦果を見た隆行は鯉之助のことを思い出し褒め称えた。

 少人数で戦う必要のある海援隊では個人装備の充実が必要と鯉之助は考えていた。

 そのため、様々な兵器を開発していた。

 無反動砲や迫撃砲はその一つであり、自ら開発し、各部隊に配備していた。

 その伝統が海兵師団にも引き継がれ、彼らには小隊に必ず迫撃砲と無反動砲が配備され攻撃力を高めていた。

 機関銃など、その祖先であるガトリングから購入しており、徹底的に相手に銃火を浴びせることを目的にして龍馬が第一次樺太戦争当初から導入していたほどだ。


「閣下、敵が来ておりもうす」


 隆行の配下が報告した。

 激しい攻撃を見ていたはずなのに更に多くの兵力で攻めようとしている。

 手持ちの兵力でも対応できるが、上陸中で補給が難しい時に大量の弾薬を消費するのは好ましくない。


「沖合の艦隊に援護を依頼するでごわす」


 隆行はあっさりと支援射撃を求めることにした。

 血気盛んな薩摩隼人の多い部隊ならば、与えられた火力で多少多くても勝てるが、弾は無限ではない。

 デカい的を艦艇が狙えるなら任せるに限る。

 直ちに、迫撃砲から煙幕弾が発砲され、ロシア軍の部隊に着弾し紅い煙を上げる。

 同時に、海兵師団の通信隊が手早く建てたアンテナと繋げた通信機から沖合の艦艇へ無線を送り、砲撃を依頼。目標――紅い煙幕を狙って砲撃するよう依頼した。

 沖合に展開していた支援艦艇、海軍や海援隊の砲艦は次々と砲撃を開始して、ロシア軍に艦砲射撃を浴びせる。

 小型砲でも七.六サンチクラスは陸軍の野戦砲と同じ口径だ。

 陸の大砲は、輸送、馬の牽引能力や時に人力で移動せねばならないし、最悪、雨などによる道のぬかるみを考慮し可能な限り軽量化を行うため性能が低下しやすい。

 だが艦載砲は、移動手段でもある艦艇にはじめから乗せておくので重くなって影響は少ない。

 そのため重量増加を気にせずに済むので多くの改良や装備の追加が出来るので性能、威力と発砲速度が良い。

 しかも多数の大砲を搭載しており、陸の砲兵隊より一隻の砲艦の方が火力は上だ。

 雨あられと砲撃を浴びたロシア軍は混乱し、潰走した。




「どうした。何が起こっている!」


 夜明けになって退却を始めたフォークは突如止まった部下に怒鳴り声を上げた。


「前方に日本軍が現れたそうです」

「馬鹿を言うな。どうせまた同士討ちだろう」


 急な撤退命令のため各部隊への命令が伝わらず、味方が動くのを見た部隊が、味方の陣地を突破して接近中の日本軍と誤認して攻撃する誤射が多発していた。

 今回も同じ事が起きたとフォークは思い進むように命じた。


「違います。本当に日本軍です」

「馬鹿な!」


 フォークは、怒鳴って前を見るが本当だった。

 目の前に日章旗と二曳きの旗が翻っており、事実である事は間違いなかった。


「なっ」


 旅順へ至る道に敵の旗が翻っていることにフォークは驚愕する。

 日本軍が後方に来たという話は聞いていなかったからだ。

 混乱するが、破れかぶれに命じた。


「ええい! このままここにいても全滅だ! 前進せよ! 目の前の日本軍を踏み潰せ!」

「しかし、敵は一個師団ほど沖合の艦艇の支援も受けています」

「だが少数だ! 後方の三個師団を相手にするよりマシだ! 旅順へ帰るには連中を撃破するしかない! 攻撃しろ!」

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