海兵師団

「おいどん達の出番でごわす」


 ぎょろ目の小太りの青年が船の甲板で仁王立ちになりながら言った。

 体格は良いのだが丸々としていて何処か愛嬌がある。

 一見滑稽だが、目の奥にはの強い光が宿っている。

 胆力が大きく大きな仕事をぽんと人に任せ、成功したら当人の手柄だが失敗したら自分の責任と言う父親そっくりの人物だった。

 周囲の幕僚達もそんな指揮官に親子二代で仕えており、信仰に近い感情を抱いていた。

 だが、同時に近代戦をたたき込まれ実戦経験豊富で優秀な軍人でもあった。


「作戦開始!」


 命じると乗組員達が機器に張り付き操作する。


「バラストタンクおよびドック注水開始!」


 船の空のタンクに海水が注水され吃水が深くなる。

 さらに船体の後部に設けられたドライドックに海水が注入される。そこに置かれた二〇隻の小型艇が海水に浸かり浮かんでいく。


「艦尾扉開け!」


 ドックへの注水が終わるとドックを塞いでいた扉が開いて外洋への通り道が開けた。


「全艇機関始動!」


号令と共に小型艇が一斉にエンジンを始動する。轟音がドック内に鳴り響き船体を震えさせる。


「全艇発進」


 出力を全開にして全ての艇が艦尾から出て行った。

 船が前進していた事もあり、最大積載量になるまで積み込んでいるにもかかわらず全ての艇はすんなりと外洋に出て行く。

 外洋に出て行った大発動艇は横一線に隊列を組むと岸に向かって進撃していった。

 海龍商会はアジア独立のために太平洋沿岸の開発を進めていた。

 しかし始めるとすぐに問題が発生した。

 太平洋の島々は未開発で欧米ほど港湾が整備されていない。自然の浜辺に上陸するしかなかった。

 船は太平洋を自由に航行出来るが乗せている貨物、商品を陸揚げできる港が限られていた。

 その整備を行うにも重機や資材を揚陸させる方法が従来からの方法、カッターや艀を使っての揚陸であり、時間がかかる。

 しかも吃水の深い大型の商船は座礁の沿岸部に近づくことが出来ない。

 沖合で艀やカッターに乗せ替える必要があるが、それらは速度が遅い上に浜辺に乗り上げるのは難しく近くで人力で陸揚げする必要があった。

 以上の理由により必要コストがかさみ、開発が進まない、初期投資費用が大きすぎて開発できない案件が多かった。

 それを見て鯉之助が作らせたのが大発動艇だ。

 元は戦前に日本で作られた大発動艇をそのまま再現した揚陸艇だ。

 吃水の浅い艇体で遠浅の海岸でも容易に接岸でき、Y字型のキールで接岸時に二点で支えることで安定させる。

 前部に設けられたラッタルをおろして乗せている物資を容易に揚陸できる。

 後部には碇が乗せてあり接岸前に投下しておき、揚陸が終わると引き上げれば容易に離岸できる。

 日中戦争、太平洋戦争で日本軍が迅速に展開できたのはこの大発動艇のおかげと言っても過言では無かった。

 それを四十年ほど早く鯉之助が作らせたのだ。

 この大発動艇のおかげで太平洋各地への物資の送り出しが順調になり開発が進んだ。

 だが、通常の商船にも積み込めるが、大量に積み込むのは難しいし、積み込みと発進に時間がかかる。

 そこで大発動艇を専門に積み込み運用する母船の開発が行われた。

 かくして三十隻の大発動艇を搭載して一斉に発進させる専用母船龍城丸が完成した。

 内部にドックを作りそこに大発動艇を搭載。天井にクレーンを設置し積み込みを容易にした。積み込み甲板はスロープで上の甲板に繋がっており、荷物や人員を容易に載せる事が出来る。

 この龍城丸はフィリピン独立戦争とその後の復興に投入され大活躍した。

 大発動艇と母船龍城丸の活躍を見た日本陸軍は、大陸への揚陸のために大発動艇を大量購入した。

 かくして龍城丸とその姉妹船三隻が今回の戦いに投入され緒戦の朝鮮上陸作戦に大いに活用された。


 龍城丸の詳細は

https://kakuyomu.jp/works/16816700428609473412/episodes/16816927861712437551


 しかし特筆すべきは今回の南山の戦いにおける揚陸戦だった。


「海兵師団強襲揚陸旅団上陸せよ!」


 日本で存続されていた海兵隊と海援隊の戦闘要員そして第五師団の人員を中心に編成した強襲揚陸専門の海兵師団は大発に乗り南山と大連の間にある浜辺へ向かって突進を開始した。

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