私は現在福祉系の大学に通っていて「共生」という概念を学んでおります。「共生」とは字の通り「ともに生きる」という意味であり、高齢者や障害者、シングルマザーなどの問題を抱えた人を「助けてあげる (for him)」という上からの立場ではなく「一緒に寄り添って生きてゆく(together with him)」という助け合いの精神を指した言葉です。
私はその精神が気に入っており、自作にも取り入れているのですが、本作では新しい切り口でその「共生」が書かれているように感じました。はじめは「恋人同士」だと思っていた主人公ふたりの関係性ですが、作者の丁寧な筆に誘われるように読んでいくと、爽やかな文章全体はどこか不穏な空気に包まれていき……ラストまで読めば、いつしかその関係は「死者と生者」に変わっていました。それはまるで茂木健一郎のアハ体験のように緩やかな変化で、とても楽しい読者体験でした。
本作で私は「死者と生者」がともに生きる奇妙な光景を目にしました。現実では全くありえないこと。死者が笑って、泣いて、夕日に照らされて——ひたすらにいまを生きている。私はその時はっとしました。死者と生者が「共生」しているのだと思ったのです。もうこの世にはいないはずの人間も、もしかしたら実は私たちに寄り添って生きているのかもしれません。そんな世界だったらとても素敵だと感じて、4000文字の物語は終わりました。川の向こうに揺れているのは、去年亡くなった祖父のジャンパー。それは祖母が捨てようとしていたのを見て、もったいないと貰ってきたもの。私も祖父とともに生きている、そう思い込んで、いまを精一杯に楽しもうと思いました。いつか大切な人とふたりで川を渡れるように、幸せに生きてゆきたいと思います。
素敵な作品をありがとうございました。