第10話地球人類完全勝利!取り戻した『ドッジボール』

「人類と我らベイダーのエクストリームドッジボールによる闘いはここで終了とする! 地球は今後永久に我々ベイダーの所有物だ!」

「違うわ! 地球はあなたたちの物なんかじゃない! ドッジ戦士はまだ負けていない!」


 台与がアズマの言葉を阻む。


「そうでござる」

「負けていないということは勝つということ。もはや推理ですらない必然だよ」

「ふぅ……死ぬのは実に織田の軍勢と戦って以来の経験であった」


 次々と蘇るドッジ戦士の姿に驚愕し、動揺するアズマたち。


「き、貴様らは死んだはず!」


 叫ぶアズマに対して 三太夫たちが一斉に首元を見せる。

 そこには噛み傷。


「ドラキュラ伯爵に噛まれた者、血を分け与えられた者は吸血となり不死の存在へと変わる。つまり今の吾輩は吸血百地三太夫」

「同じく拙者は吸血針ヶ谷夕雲」

「私は吸血ホームズ」


 最初から仕組んであったのか、ルパンすらも蘇生し勝負は再び十二対十二。


「貴様らいい加減にしろ! 簡単に死んだり蘇ったりなどと!」


 激怒するアズマ。空では幽霊船と宇宙船の戦いが続く。


「宇宙人に生き返る死体……まるでB級映画だ! あっしの作ったプラン9・フロム・アウタースペースの世界だ!」


 エドの体が七色の輝きに満たされると世界の『書き換え』が始まる。


 プラン9・フロム・アウタースペース。


 エド・ウッドが監督を務めた作品。

 宇宙人が死者を蘇生させて地球人を襲わせるという意図の掴めぬ脚本と、低予算によるあまりにチープな映像によりゴールデンターキーアワードで『史上最低の映画』として評価された伝説的カルト映画。

 エド・ウッドの持つ能力は、現実世界を部分的に映画の世界同様に書き換えること。

 現状況下で発動するのは『この場にいる宇宙人の弱体化』である。


「どういうことだ全身から力が抜ける……」

「なんだか頭も悪くなったような気がする……」


 帝国創世騎士団長たちから完全に強者の気配が消え、緑色が蛍光彩色のように安っぽく光る宇宙人へと姿も変わる。

 機を逃さじと、殺戮を開始するチームガイア。

 弱体化したベイダーなどもはやドッジ戦士の敵ではなく、一人、また一人と殺害され、残るはアズマ一人。


「いや、いや、もう逃げるぅ」

 

 知能も低下し、情けない声を上げて逃亡しようとするアズマの前に立ちふさがる影。


「約束したよな。逃げたら殺すって」

「ええっ!」


 ドゴォと音を立ててアズマのボディにボールが叩き込まれる。ボールを放ったのは……。


「弾次殿!」

「吸血鬼として蘇ったでござるか!」


 弾次であった。


「いや、俺まで吸血鬼になると色々困るから、事前にメルクリウスから賢者の石を貰って飲んでいた。だから蘇生できたんだよ」

「弾次さん! 」

「おいおい台与、泣くなよ。これからパーフェクトゲーム、君の話した神託が実現するんだからさ」


「帝国創世騎士団十二騎士長が敗れただと……! 」

「いや待て、奴らが死んだのは我々評議会にとっても好機ではないか? ドッジボールでは負けたことになるが、気にせず評議会の全権の元に地球に宣戦布告してしまえばいい」

「なるほど。数でも技術力でも我らベイダーの方が地球人に圧倒的に勝る。最初からドッジボールなどという競技に拘ってしまったのがいけなかったな。早速三百億の軍勢を動員しようではないか」


 評議会の命令を受けてついに動き出すベイダー三百億の軍勢。ベイダー驚異のテクノロジーを搭載した宇宙空母にフォトンガンシップの軍勢。

 彼らを背後から光が包み、すべては宇宙の藻屑となった。


「やったな、ノイマン」


 弾次の労いに、ノイマンはようやくスマホから顔を上げた。


「ファーザーのセキュリティ、意外と甘かったです」

「お前はドッジ戦士として蘇った時からずっと、ファーザーのハッキングをしていたんだな。考えてみればベイダーが大人しくスポーツの決着で戦争を止めるはずもないか」


 ジョン・フォン・ノイマン。

 物理学・数学・化学の三分野の博士号を持ち、経済学のゲームの理論など、さらに広域に及ぶ諸学問に影響を与えた天才にして、コンピューターの祖と言われる人物。

 彼が真に力を発揮するのはドッジボールではなく、AIとの頭脳戦だった。

 台与の神託が告げた勝利のカギとなる、二人はドッジボールにおけるエド・ウッドと、ファーザーとの戦いにおけるノイマンの二人。

 今やファーザーはノイマンに完全支配され、ベイダーを滅ぼしている。


「まさにチームガイアの完全勝利だな」


 吸血忍法を披露して遊んでいる三太夫たちの姿を見ながら、弾次が呟く。


「あなたの勝利でもあるんですよ、弾次さん。本当の勝利の立役者はあなたです」


 弾次の隣には、いつの間にか台与が寄り添っていた。


「また神託かい? 」

「神託ではありませんよ。実は神託っていうのは全部嘘です。私、本当は台与じゃないんです」


 台与、いや違う誰かの声を聴くと、弾次は納得したように首を縦に振った。


「君は……地球意思そのものなんだね。通りで地震の時間を正確に把握したり、チームガイアの全選手の特性を理解しているわけだ」

「もう少し驚かれると思ったんですが……」

「漫画を沢山読んでいるからね。ここ最近は非常識にも慣れたし、邪馬台国時代の巫女姫である台与が着物を着ているのは時代考証的におかしいよね。ドッジ戦士たちはこれからどうなるんだい?」


 弾次の質問に地球意思ははっきりと回答した。


「私たちは再び大地へと還ります。私は、地球はアカシックレコードに皆口弾次という存在を書き込み、永久に忘れないでしょう。いつか再びあなたの力が必要とされるとき……いえ、その可能性は考えない方がいいですね。これでさよなら、です」


 最後に口づけのような素振りをして、地球意思を体現した美少女は姿を消した。

 弾次が周囲を見回すと、ドッジ戦士たちの姿もない。


「ロリとママの二重属性持ちとかやっぱり地球はすげえや!」

 

 呆けたように溢す弾次の頬を涙が一滴だけ伝った。


「ベイダーとのエクストリームドッジボール対決で無事勝利した皆口弾次監督。君には多大な報奨を与えようと思うが、君は何を望むかね? 富、名声、権力を考える限り範囲内で与えようと思うが」


 地球連合政府閣僚の集まった記念式典の場で、大統領は勝利の美酒にほろ酔いの態で弾次に話しかけた。


「でしたら、お願いが一つあります。エクストリームドッジボールの授業を廃止して、代わりに通常のドッジボールを採用してください」

「それは……どういう理由で? 」

「ドッジボールは本来、楽しい競技なんです。人を殺したり、他者を傷つけたりするためのドッジボールは違います。どうか、俺の愛したドッジボールを世界に取り戻してください」


 大統領と閣僚たちはお互い顔を見合わせると、同時に頷いた。


「よろしい。実は地球にベイダーが残したテクノロジーが沢山あるんだが、解析のため将来的に多数の研究者が必要になることがわかってね。子供を減らす政策をやめるべきという意見が上がっていたんだ。だからエクストリームドッジボールは先々必要ないし、君の希望にも沿おう」

「ありがとうございます、大統領!」


 大統領に一礼すると、弾次は足早に記念式典の場から自宅への帰路を進む。

 正常なドッジボールが再び取り戻された世界で彼が目指すものは、コーチの職。

 自身を鍛え、教育学を学び、再び児童を率いる立場になるため、彼は努力という名の道を行く。


 弾次にもうデパスは必要ない。

 輝く未来という最高の処方箋が待っている。


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英霊小学生軍団VS侵略宇宙人~狂気の殺人ドッジボール~ 宵町一条 @yoimachi2021

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