第9話 魔弾の射手と弾次死亡!?
ジャンプボールはどちらもジャンパー役を出さないという異例の事態。
「こちらにはルパンがいるからわかるとして……ベイダー側は何を考えている?」
ホイッスルが鳴り、宙高く飛ぶボール。
ルパンがすかさずボールを盗むが、手元にあったはずのボールが突然の強風でベイダー側へと運ばれる。しかしボール吸引装置が使われた形跡はない。
「どういうことだ……?」
ルパンの疑念に弾次が叫ぶ。
「ルパン、おそらくベイダー側に天候操作能力がいる! そいつが風を操ったんだ!」
帝国創世騎士団長の一人フウは自然を操る能力者。弾次の言葉通り、フウは風を使ってルパンからボールを奪った。
「天候操作とは危険な奴だな……」
ルパンは内野のフウに視線を向けると呟いた。
「殺しは好きじゃないがお前は危険すぎる。盗ませてもらうぜ、『ライフスティール』!」
ルパンが宣言するとフウがごぼっと液体を吐きながら、突然倒れた。
フウの容態を確認したベイダー選手ナスティが絶句する。
「し、死んでる」
「なるほど、怪盗ルパンは命も盗むというわけか。中々に恐ろしい隠し玉を持っている。ではまず奴から殺すとするか」
アズマはルパンに向けてえいっと念を込めると、ルパンの体が見えない力で引き裂かれた。
「ぎゃああああああああっ!」
アズマの念動力によるルパン抹殺。
恐るべき帝国創世騎士団長の力により、ついにチームガイアに死者が出た。
「恐れるな! ルパンは相打ちしたと心得て我らも突撃だ!」
丹波が鬨の声を上げると夕雲が前に出る。
「いざ尋常に勝負!
」
ベイダー側の火炎使いキアロを心剣空間に拉致する夕雲。しかし
「ガハッ……まさか拙者と同等の心の強さを持つとは……宇宙は広い!」
心の強さが同等の夕雲とキアロは心剣空間で相打ち、現実世界でも両者共に死亡する。
「夕雲!」
丹波が夕雲の死体に近寄ると、さっと後ろに跳ねた。すると先ほどまで丹波がいた場所を中空からレーザー光が襲う。黒い円盤状の飛行船が試合会場に乱入してきたのだ。
「あれはベイダーの宇宙船!? 」
訝しむ丹波に対してアズマがとぼけた様子で答える。
「どうやらフォトンクルーザーのようだな。愛国テロリストが業を煮やして乱入してきてしまったのかもしれん。我々は気にしないから試合を続行したまえ」
「ふざけるなっ! 何が卑怯と言われたら末代までの恥だ! お前たちは卑怯者だ!」
丹波の罵りを意に介さないアズマたちを一瞥して、弾次が指示を下す。
「伯爵、こちらにも『船』を頼めるか?」
「容易である」
試合会場全体を一時的に濃霧が包む。
やがて現れる宙を飛ぶ一艘の帆船・エンプーサ号。
吸血鬼ドラキュラの非公式映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』。作中でドラキュラのアバターであるオルロック伯爵は幽霊船エンプーサ号を召喚する。
その幽霊船が今、伯爵の命令により現実世界へと呼び出された。
「エンプーサ号の指揮はバルバロスに任せる、いいな?」
「こちとらガレー船でも幽霊船でも船なら何でもありだ!」
バルバロスが二十名の控え選手を連れてエンプーサ号に乗り込むと、幽霊船と宇宙船の空中決戦が始まる。
「さて、空は空。陸は陸で再戦と行こうじゃないか!」
「もう許さんぞベイダーども!」
相打つ戦いは激しく、ファーブルが、ホームズが、パラケルススまでもが次々と帝国創世騎士団長たちと相打って果てる。
だがまだ、ここは地獄の一丁目。敵は六人も残っている。
「内野選手の一名交代!」
弾次が、相手が六人ちょうどになった瞬間に選手交代を申し出た。
「誰と誰を交代するんだ?」
「俺、皆口弾次とノイマンの交代だ」
チームガイアがざわついた。ドッジ戦士ではない弾次が、自ら前線に出るというのだ。
「どういうことだよ監督! そもそも監督は選手じゃねぇだろ!」
「騒ぐな、エド。俺には俺の考えがある。それに選手の追加登録は済ませてある」
弾次が言い切ると、相も変わらずスマホと睨めっこしたまま、ノイマンが場外へと出る。
「ドッジボールか……久々だな。いや、今はエクストリームドッジボールなんだったな。なら、俺がこの手を汚さなくちゃならない!」
デスボールを手にした弾次の前で、ベイダーの瞬間移動能力者デビウスが四方八方を転移しながら笑う。
「なるほどデスボールは当たれば死ぬ。だが当たるとは一言も言っていない!」
「だろうな。だが……ザミエル! 俺はお前と『契約』する! 」
弾次の視線の先に存在するのはザミエル。
悪魔ザミエル。ドイツの脚本家フリードリヒ・ラウンの『怪談集』に登場する、契約者に「魔弾」を与える存在。
魔弾は全七発あり、そのうち六発は所有者の望んだ部位に必ず命中するが、七発目は悪魔の望んだ場所に命中するという呪いの弾丸。
契約により弾次は魔弾の射手となった。
相手が六体ならばザミエルとの契約は最強のバフ。
「いくぞっ! ベイダーども!」
弾次が全力で放った一投はまず、不可視の超高速移動をしていたデビウスの胴体を穿つ。
「俺の動きを見切っただとぉ……」
デビウスは絶命。
「次のベイダーも死ねやっ!」
弾次はデスボールを投げまくり、帝国創世騎士団長も残すはついにアズマ一人。
「なるほどチームガイアは強い。こちらがハンデをやっているとはいえ健闘だ。いや、強いのは弾次、お前の精神性か? ふふっ、お前が死んだとき他の選手たちがどう崩壊するのか楽しみだ」
「俺は死なない。なぜなら次で六投め。アズマ、最後の一人であるお前を殺して勝負が終わるからだ!」
弾次が万感の思いを込めて投げた六投目のボールもアズマの体を捉え、吸い込まれるように心臓部を狙い撃つ。
アズマは回避できずデスボールの一撃を受け、即死した。
「殺った!」
喝采を上げるチームガイア一同。
「ふふふ、ははは」
全員死んだはずのベイダー側のコートから不気味な笑い声。
「なんだ! ベイダーは全員死んだはず……!」
「弾次さん、あれを見て!」
台与が指さす方では、これまでに死んだはずの帝国創世騎士団長が次々と立ち上がりつつある。
そして今、アズマも立ち上がり始めている。
「どういうことだ……!」
「弾次よ。我はマステマを破った貴様の知略を買っていたのだがな、所詮は地球のサルということか」
もはや完全に蘇生したアズマ。彼の姿を見て弾次が何かを察した様子で叫ぶ。
「本体は影に潜んでいたのか!」
そう、帝国創世騎士団長たちの本体は影。
なぜ彼らが夜の戦いを嫌がり試合を翌日に持ち越したのか。そこから推理できるはずの答えだった。
「頭脳戦でも我らベイダーの勝ちだ! 七発目は悪魔が狙うんだったな!」
十二人の帝国創世騎士団長が高笑いすると同時に、デスボールは弾次の体を直撃した。
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