第8話 最終決戦!帝国創世騎士団

監督を失ったベイダー選手団は動揺を隠せず騒ぐ。


「ま、マステマ様が亡くなられた! 我らはどうすればいいのだ! 」

「狼狽えるな! まだこちらの控えは八百人以上いる! 数で圧倒すればばばばば! 」

「一体どうしたあんあんあんあんあん!」


 ベイダー選手たち全員の体が内側から弾け、中から蜂の群れが無数に飛び出してくる。

 昆虫綱膜翅目有錐類ヒメバチ。

 幼虫は他の生物の体内に寄生し内部を食い、成虫になると内側から食い破って羽化する寄生蜂。

転生する前、生前時のファーブルの主たる研究対象だった一つ。


「ほほほ、間に合いましたな。ベイダー側の全控え選手への蜂の寄生」


 ファーブルは戦いが始まる直前から、密かにベイダー側選手の胎内にヒメバチの卵を植え付けていた。弾次の指示によるものだ。


「千人とまともにやりあうなんて正気じゃない。だから控えの選手に仕掛けを済ませておいたのさ。ありがとう、ファーブル」

「いえいえ、偉大なのは私ではありません、昆虫です。ヒメバチもまた我らドッジ戦士と同じく母である地球から産まれた存在。侵略者ベイダーに対する憎しみが超短時間での孵化を可能としたのですよ」


 穏やかに微笑むファーブルだが、彼の行為による犠牲者の数は八百人以上。つまりはベイダー選手の全滅。

 弾次が審判に詰め寄る。


「ベイダー側の選手はもういない。チームガイアの勝ちを認めろ! 」

「で、ですが……」


 審判が判定を躊躇うと、天から空間を圧する巨大な声が響いた。


「その試合、待った!」


 隕石が十二個、空から落ちてきた。

 弾次の目にはそう映った。

 大気圏を突破し、天から舞い降りた十二の星は、やがてお台場オープンアリーナに降り立つと、それぞれ緑色の人間大の生物となる。


「生身で宇宙から乗り込んで来たというのか……!」


 恐懼する弾次に、背の高い逞しい、明らかに他の個体とは異なる強者のオーラをまとったベイダーが語り掛ける。


「我は帝国創世騎士団十二騎士長アズマ。エクストリームドッジボールで我らベイダー側が不覚を取ったと知り、地球にやってきた。チームガイアには改めて我々帝国創世騎士団が誇る十二人の隊長と闘ってもらいたい」


 すでに勝ち戦のはずの試合に乱入してのアズマの言い草に、弾次は抗議した。


「決着はついている」

「殺ァァァァァァッ!」


 アズマが眼下に向けて突如、口から熱光線を発した。


「なんのつもりだ!」

 弾次に向かい、アズマはコホォと息をすると笑った。

「今の一撃でブラジルが滅びた。これ以上つべこべ抜かすなら、地球を完全破壊する」

 まさかと思い弾次がスマホを確認すると、ブラジル消失という臨時ニュース。

 恐るべきは帝国創世騎士団。

 半ば漏らしながら、弾次は頷いた。

「わ、わかった。試合の続行は認めよう。ただチームガイアの選手は試合が長引いて、みな疲れている。だから試合の続行は数日後にしてくれないか? 」

「ふむ……」

 いつの間にか夕暮れに染まる空を見て、アズマは快諾した。

「夜間の戦いは我々も不本意だ。では、試合は明日の朝に改めてということにしよう。だが……逃げたら殺す!」


「どうしろってんだ、あんな化け物!」


 夜、試合の様々なシミュレートをした挙句、勝ち目が全くないことを知った弾次が絶望の声を上げる。

これまで弾次はドッジ戦士の監督として、動揺や恐れを選手たちに見せてこなかった。自身の心が折れたら負けだと、鼓舞してきた。

だが弾次の精神的な限界も近い。


「弾次さん……大丈夫ですか?」

「大丈夫に思えるか?」


 いつの間に自室へ入ってきたのか、台与の気遣いに声を荒げる弾次。


「そう……ですよね。常識的に考えて怖いですよね。弾次さん、いっそのこと、私と逃げちますか?」


 台与の突然の提案。弾次は懊悩した。


「逃げたいけど……逃げるのはダメだ、殺される。でも試合をしても殺される……。一体どうすればいいんだ!」


 ついに泣き出した弾次を、台与は平たい胸を貸して抱きしめた。

 弾次は台与に甘え散々に泣く。

 ああ、明日になれば彼女も死ぬのか。

 死にたくないなぁ。

 泣きつかれ、半ば寝落ちしかけていた弾次に、台与が耳元で囁く。


「弾次さん、特級神託です。ある二人の選手さえいればこの戦い、勝てます」


 台与の言葉に、弾次の思考はクリアになり、いつしか脳内で一つの戦術プランを考えついていた。


「ふふふ、逃亡者0か。なるほどチームガイア。あのマステマを退けただけのことはあるようだ。その勇気に免じてお前たちにはハンデをやろう」


 翌朝、会場は変わらず横浜オープンアリーナ。


 本日も晴天で空には雲一つない。

 居並んだチームガイアの選手たちを一瞥すると、アズマはどす黒い色をした試合用二号級ボールを取り出した。


「これはデスボール。着弾した場所や相手の防御力に関係なく、ボールが当たった存在を即死させる特殊なボールだ。おまえたちの貧弱な攻撃では俺たちを殺すことなど到底不可能なので、ここは公平にしようと用意した。使う、使わないはお前たちの裁量に任せる」

「ありがたく使わせてもらう。こちらからもいくつか提案があるのだが」


 弾次が提案したのは再度ヘッドアタックの禁止と、チームガイア側の控え選手の、追加一名の登録。


「その程度の条件なら飲もう。帝国創世騎士団が卑劣だったなどと言われては末代までの恥なのでな。正々堂々と行こうじゃないか」


 なにが正々堂々だ、と言いたい気持ちを抑えて弾次は、チームガイアの選手たちと円陣を組んだ。


「この戦いの勝利条件は、相手の選手数を六人以下にすることだ。どんな手段を使ってもいいから、半分の六人を倒してくれ! 」

「何やら弾次殿には策がある様子。我らドッジ戦士たち、刺し違えても敵数を六人以下に抑える次第」


 決死の覚悟で手を組む十二人。

 チームガイアとベイダー、最後の戦いのときが来た。

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