彼の嘆き

たぴ岡

彼の嘆き

 チクタク、時計の針の音が暗いだけのこの部屋に鳴り響く。僕は脳内に語りかけるその音を消し去りたくてたまらなかった。こんなに静かで幸せな空間に、どうしてそんな場違いな、雰囲気を壊すようなノイズがあるのか甚だ疑問だ。

 しかしそれを取り除くことは出来ない。ここは僕の世界じゃないから。あれを壁に取り付けたのは彼女であって、僕にはそいつをどうこうする権利はないから。この電気を点けない理由だって、同じだ。僕が入ってきたときにも暗いままだったから、彼女に従って僕は照明を諦めた。

 いい加減、こんな生活はやめるべきなのだろうけど、僕自身を抑えることが出来ないのだから仕方ない。許されて然るべきだ。だって、どんな人間も強い欲求に抗うことは出来ないだろう? そういうことだ。

 電源ボタンを押すと、眩しいくらいにテレビが主張を始める。ニュースの中では女性アナウンサーが怯えるようにして連続殺人事件の原稿を読んでいる。何でもそいつは二十代の女性を狙っているらしい。共通点として挙げられるのはその被害者たちの年齢と容姿、そして自殺志願者であったということ。そのアナウンサーは最後に注意を喚起して別の話を始めた。

 つまらない報道だ。ため息をつきながらテレビを消した。

 そんな馬鹿なことを言わないでくれよ。その殺人鬼がただ死を望むだけの彼女らを殺すと思うのか? その裏の真実を暴露するために動いているっていうのにさ。この子たちは僕が手をかけなくても自ら命を投げただろうね。だって本当の死因は——。

 僕は、隣で血塗れになって倒れている名前も知らない女性の頬を撫でた。

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彼の嘆き たぴ岡 @milk_tea_oka

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