まず皆さんは、「狂気」という言葉にどのようなイメージを抱きますか?
僕の場合なら刃物を舌で舐めるような人物を想像します。(凶器と狂気をかけてるわけじゃないですよ!)
そんな僕の固定観念をぶち壊したのがこの作品、「壊れた時を刻む」なのです。
序盤は普通のミステリーだと思いました。
なにせ開幕と同時に死体が転がっている。しかも主人公の少年ユウ君が犯人だと疑われてしまう。オマケに村には頭が花だったり、水だったり、時計だったりする異形頭の住人ばかり! まともな人間は主人公しかおらず、主人公は村長から厄介者扱いされています!
これはピンチ! 非常にピンチです! 開幕からドキドキが止まりません! あまりにもスマートな導入です!
ここで僕は「ああ、異形たちに疑われた人間の少年が、真犯人を見つける話なんだな」と思いました。でも違ったんです。いえ、違ってはいないんです。主人公のユウ君は確かに捜査を開始します。ですが、この物語の面白いところは謎解きだけではなかったのです!
ありきたりな表現をすると「人間模様」。もっと踏み込むなら「それぞれの登場人物が抱えている狂気」。そこがこの作品の見どころなんじゃないかなぁ、と僕は思います。
それも前述したような、見るからにクレイジーなタイプの狂気ではないんです。みんなまともな部分も残している。ちゃんと会話が成立するし、互いを尊重する気持ちも持っている。なんなら、僕の想像に一番近い狂気をもっていたのは主人公だったくらいです。
少々ネタバレを含みますが、この物語は、こじれにこじれた「恋愛感情」からくる狂気によって、始まったのです。
そう、これはただのミステリーではなく、ミステリーと恋愛物が高いレベルで融和した作品でした!
恋愛というものも、ある種相手を自分のものにしたいという欲望。または受け入れられたい、愛されたいという願望。そんな気持ちに駆られた人々に芽生えた狂気が、いったいどのように入り混じるのか……
ミステリーが好きな方、わりとドロドロした恋愛が好きな方、なによりこのレビューを読んで興味をそそられた方がいらっしゃれば、ぜひとも一読をお勧めします。読み応え、ありです!