第2話
俺のトモダチは独りでもとてもよく喋る。数日前に出会った時からこんな感じだ。俺は出会ってから毎日の様に手土産を持って遊びに来ている。こうやって話を聞いてやるのが日課なのだ。何故ならトモダチはここから出られないからだ。俺は好きな時に空を飛び好きな時に食ったり寝たり出来る自由の身なのだがトモダチは城の禁固室に閉じ込められている。だからそのトモダチの話を聴いてやるのだ。
【外に出て君と一緒に自由に生きていきたい】
――一羽のカラスが鳴いた。
「空が青いなぁ…」
と、狭い禁固室の鉄格子の隙間から空を眺めてトモダチは言った。数日前からトモダチは物を盗んだ罪人としてここに捕らえられているのだ。
「ところでこっちに来ないかい?」
外の茂みから見つめていたのだが招かれたので鉄格子の隙間から禁固室の部屋に入る。トモダチは人間だが俺は小さなカラスだから隙間の侵入は問題無い。
「賑やかなのは国王の生誕祭だからだね」
「でも僕は参加出来ない」
少し残念そうな顔をするトモダチに相槌を打つように小首を傾げた。
「手土産はあるの?」
あれから俺は毎日、小石や木の枝などを外から拾ってきては渡していたのだが今回は違って、口に咥えていたその手土産をテーブルに置いた。
「禁固室って書いてある……つまりここの鍵???」
手に取った友人の顔色が変わり生唾を飲む。羽根をパタパタさせた後、沈黙が流れる。
「見張りの兵もいない」
しばらく考えたトモダチが窓から辺りを覗くと、生誕祭に浮かれて皆何処かに行ったのか周辺は静かだった。見張りの兵士を含めて皆非番なのだろう。
「逃亡出来るかな…?」
鍵を握りしめしばらく辺りを伺っていたが物音はせず、人気もなく静かなままだ。ただ遠くに生誕祭を祝う音楽が聞こえるだけだった。
「行って大丈夫そうかな…」
トモダチはしばらく考え、出来ると判断してそろりと動き出した。
トモダチの行動はとても迅速で、鍵は難なく開き、扉を抜けて順調に屋外へと脱出に成功した。それから裏庭に抜けていくと小さな小部屋に気付き足を止めた。扉が少し開いていたので人の気配が無いことを確認して覗いてみると中にキラキラ輝いている。宝物庫だったのだ。
「しょうがないよね…」
貧しさ故の将来生きるためには仕方ない。今後の為の資金にとトモダチは手軽そうな貴金属をいくつかポケットにねじ込んで再び歩き出した。
城の敷地外まであと少しのところで人の気配がする。慎重に歩いていたが、茂みをガサゴソと移動してた時に酔っ払い兵士2人が歩いてきた。
「ニ、ニャー……」
バレないようにとトモダチは慌てて猫の鳴き真似をした。兵士たちは酔っ払っているのもあってか上手く騙され何事もなく立ち去っていった。
「自慢じゃないけど鳴き真似は自信あるんだよね」
そう言ってトモダチは走り出した。カラスの俺が鳴けば良かったんじゃないかと思ったがそれは突っ込んではいけないことなのだろう。城の外は目の前で最後の追い込みとばかり走り出した。
「油断しちゃいけないけど多分大丈夫だろう」
一度だけ城を振り返る。追っ手が無いことを確認して、それからひたすらに城から離れるまで走り続けた。
それから何事もなく無事に城下町を走り抜け街の外れまでやってきた。
「上手くいきすぎじゃないかな……」
トモダチは街に最後の別れを告げるため振り返り、そう呟いて走り出した。それから次は小さな森を抜けるまで走り続けた。
「逃げ切れたかな……」
後先考えずに走り続け、荒ぶった息を整えて座り込む。びくびくしているが追っ手は全く無い。
「息が……苦しい………」
『ヨクガンバッタナ』
「君…?喋れるの……??」
嘴から人間の言葉を発する。トモダチは目をまんまるに見開いて驚いていた。今まで言葉を発してなかっただけで驚くことではないと思うのだが。
「手土産をくれたりとても賢かったんだね…」
「今までのは君が全部助けてくれたんだねありがとう」
道理で上手くいくはずだ…と納得した顔でトモダチは頷いていた。国王の生誕祭で人々は城に集まっているのか逃亡中は日中なのに周辺には誰もいなかった。一人と一羽しかいない森の外れで語る。
「君とこれからどうしようか?」
『ロマン溢レル自由ナ冒険ノ旅ヘ』
「旅か…このままあてもなく行こうか」
『シアワセ求メテドコマデモー!』
『苦シイトキモ辛イトキモ一緒ダヨ!』
「色々あると思うけどよろしくね」
そうして一人と一羽はとりあえず隣街まで歩き出した。
トモダチは多分気付いていない。俺にありがとうと言っているが実際にはトモダチ自身の力で変えたことを。トモダチは自分の言葉により物事を具現化出来ることをまだ気付いていない。どうしてこうなったのか知ってるのはずっと話を聴いていた俺だけだ。
外に出て君と一緒に自由に生きていきたい 果燈風芽 @FK_orangewind
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