外に出て君と一緒に自由に生きていきたい
果燈風芽
第1話
【友達が欲しい 君としゃべりたい】
――一羽のカラスがしゃがれ声で鳴いた。
「とんでもないことになってしまった…」
少年は薄暗い禁固室の中で頭を抱えていた。城に入ってこそこそと行った盗みが運悪く見つかって捕まってしまったのだ。
「もうどうしようもない……」
膝を抱えてうずくまる。貧しい生まれであり、更に最近家族の全てを病で失い一人で生きることになってしまった少年のそれは生きるための選択で仕方のないことだったのだ。その姿を遠くの木に止まっている黒いカラスがずっと見下ろしていた。
バサバサバサッ……
「誰?」
物音にびっくりして少年は首を上げた。きょろきょろと周りを見渡す。すると、禁固室の鉄格子にカラスがいた。カラスからは強い視線を感じる。薄暗く冷たい禁固室の鉄格子と同じような黒いカラスだった。
「近付かないでよ」
そう言うと情けない姿を見られたくないのか少年は再びうずくまった。
「がんばって生きてもこれだよ…もう無理だよ……」
一呼吸して啜り泣く声が聞こえる。カラスは少年の傍でただそれをずっと聴いていた。
数時間が経ち辺りがすっかり暗くなってもカラスはそこに変わらずにいた。少年は泣き疲れた眠りから覚め目をこすって起き上がった。
「星が出ている…」
鉄格子の隙間から見える明るさに少年は空を見上げた。目を覚ませば考えてしまうの再び表情が暗くなる。
「死刑とかになるのかな…」
「嫌だよ…死にたくない………」
今後を憂いて少年は言葉を止められなかった。鉄格子を握りしめ再び涙溢れる少年をカラスはしばらく見つめていたがやがて外へと飛び立っていった。
――再び鉄格子に戻ったカラスはしゃがれ声で鳴いた。
「希望を持ちたいんだ」
一晩経って冷静になった少年から紡がれる言葉をカラスは傍でただひたすら聴いている。禁固室に戻ったカラスが昨晩と違うのは嘴に花を咥えている点だった。
「身一つになっちゃったからここを出てもどうしようもないんだけど…」
「とにかくここを出て生きていかなきゃならない……」
少年は自身の気持ちを言葉に出しながら考えていく。カラスはそれをただ黙って聴いている、という具合だった。
「しゃがれ声で鳴くんだね」
思考が落ち着きようやくカラスの存在に興味を持った少年はカラスに向けて話しかけた。カラスは返事をせず相変わらずじっと見つめている。
「別にもう泣いてなんかないよ…」
咥えた花が慰めと感じたのか少年は強がるように言って涙を袖で拭いた。確かに少年の顔は泣き腫らしてはいたが涙は零れていない。
「理解できない話を聞いてくれてありがとう」
そう言って差し出す花を受け取った少年はカラスの頭を撫でた。カラスは黒い瞳をぱちくりさせて首を傾げた。少年とカラスはしばらく見つめ合い、そして微笑んだ。
「ただ僕は独りになりたくないんだ」
「生きていたい……」
今後を見据えて少年は真剣な眼差しをしてそうカラスに語った。
カラスはその話を終始ずっと聴いていた。
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