入学式の出会い
入学資格は中学卒業以上の15才からで、二年間に及ぶ過酷なカリキュラムを得て、試験に合格したものだけがトリプルエスの士官候補生として月へあがることができるのだ。
“敬成維新”でのトリプルエス第89師団。通称
そして、今回、
本当に狭き門のなかで樹はギリギリ合格を手にすることになったのだ。
そして入学式の朝。家族が養成学校のある離島へと向かうフェリー乗り場まで見送りに来てくれていた。
「がんばれよ」
「りっぱになりなさいよ」
「兄ちゃん。ぼくも三年したらはいるからね」
父と母の労いのあとに三つ年下で小学生の弟がなぜかえらそうにいっている。
「じゃあ、そろそろいくよ」
「ああ、気を付けて」
樹は家族に見送られながらフェリーに乗り込んだ。
フェリーには自分とさほど変わらない年頃の少年少女たちが何人も乗り込んでいる。
だれもかれも見覚えのない顔ばかりだ。
それもそのはず。
樹の学校から養成学校へきたものなど樹ひとりしかいないのだ。
受験した人は何人かいたのだが見事におとされている。
樹の友人にもいたのだが、樹だけがあがったことにそうとうひがまれたものだ。そのまま絶交になりそうな勢いがあったのだがそうならずにすんでいる。卒業式にはがんばれと労いの言葉もうけているし、さっきもネット通信でがんばれというメッセージをいれてくれている。
この友人のぶんまでがんばらなくてはいけない。
それにしても
どうしようかと思った。
知り合いはいない。
しかも樹はものすごく人見知りだ。
自分は養成学校でやっていけるのかという不安もあった。
そう考えると知らないうちにため息がもれてくる。
「なーに、暗い顔しているんだい?」
そのときだった。突然、だれかが話しかけてきたのだ。
「おーい。きみだよ。君。辛気くさい顔している君」
そこでようやく自分の目の前に一人の少年がいることに気づいた。
少年はベンチに腰かけて身を乗り出そうとするかのような体勢で樹のほうを指差していた。
「ぼく?」
「そうそう、君だよ。きみっ」
すると少年は立ち上がるなり樹のもとへと近づいてきた。
「きみも養成学校にいくんだろう? せっかく合格したんだからさあ。そんな顔するもんじゃないよ」
彼は軽い口調で話す。
「えっと」
「まあ 不安になるのも仕方ないよねえ。なにせ孤島だよ。200人中卒業までにたどり着けるものは本の一握りという厳しい世界だもんねえ。そりゃあ。不安だろうよ。でもさあ。そーんな先のことはどうでもいいじゃん。それよりもこれから始まる学校生活にワクワクしようぜ」
そういって無邪気に笑う。その笑顔に樹の不安がどこかへと消えるのを感じだ。
それもそうだろう。
不安になっても仕方がない。
とにかく、進むしかないんだ。
「ありがとう。ぼくは倉崎樹。きみは?」
「俺? 俺は早坂アキラ。あきらめないって感じのアキラだ。よろしくな。樹」
そうやってアキラは白い歯を出しながら満面の笑みを浮かべていた。
schiller0短編集 野林緑里 @gswolf0718
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