第48話「ルグル防衛戦-勝敗の行方-」

 蓮が葵とアデルの元に着いた時、理解が追いつかない光景が広がっていた。


 王子エスターの姿はそこには無く、10メートルを超える程の大きさのドラゴンが大木を薙ぎ倒していたのだ。


「蓮さん! こちらへ!」


「これは一体どういう状況ですか!?」


「長々と説明している時間はないのですが、あのドラゴンはエスターです! 私も知らなかったのですが、エスターが《竜化》の天啓を使ったんです!」


「竜化? まさかあんなドラゴンに変身する事も出来るのか?」


 (俺が知っているのは動物に変身するスキルくらいだったが、ここではドラゴンへの変身なんてのもあるのかよ)


「ってそう言えば葵は!?」


「葵さんは私をここまで逃す為に1人あのドラゴンの真下で戦っているはずです!」


 (あんな化けもんみたいなのと戦ってるだって!? 早く行かないと……)


「あ、蓮さん! 1つ気になる事がありまして……エスターは確かに腹黒い男でしたが、ここまで人を殺めたりする男では無いんです。それに天啓も剣術の類だったはずなんです……竜化なんて初めて聞きました」


「……分かりました。ひとまずあのドラゴンになってしまったエスターに理性がまだあれば話をしてみます。もし通じない場合は……倒さなければいけないかもしれません」


「はい。構いません……どんな理由があるとしても我が国の人々に手を出して犠牲者も出してしまった事実は揺るぎません」


「分かりました。それじゃ、行ってきます」



「葵ー! いるか!?」


「蓮!? 来てくれたの?」


「葵! 無事で良かった! 遅くなってごめん! 話はアデルから大体聞いたけど本当にこのドラゴンがあの王子なのか?」


「うん。竜化って言ってたかな? 唱えた瞬間に変身したの。それと変身する前に変な事も言ってた! あの方の力は凄まじいとか……」


 (あの方? なんか裏がありそうだな)


「結界もこいつが?」


「ううん。結界は他の人が解いたみたい」


 葵の話によると結界が解かれるすぐ前に奥の方で黒いローブを纏った人影が見えて結界に向けて何か呪文のようなものを唱えていたらしい。

 すぐに姿を消したみたいだが、十中八九そいつが黒幕だと見て良いだろう。


「まずはこいつをどうにかしないとだな……おい! エスター! 聞こえているか!? アデルからお前は元々そんな天啓持っていなかったはずだと聞いたぞ! 誰かに指示されてるのか?」


『ぐぁぁぁぁあお!』


 ドラゴンは聞く耳持たずにギラリと光る鋭い爪で蓮のいる場所一帯を攻撃してきた。

 その巨体から繰り出される攻撃は周りにあった大木や岩をいと容易たやすく粉々に破壊した。


「くっ、聞こえていないのか!……!?」


 ドラゴンが少し距離を置いて顔を上に上げるとゴオゴオと口の辺りから炎が上がり始めた。そして顔を突如、葵の方に向けると勢いよく炎を吐いた。


「えっ!?(避けれない……!)」

「葵!――影移動ッ! 炎陣!」


 蓮は瞬時に葵の影に移動して目の前に迫る炎向けて剣を振り炎の陣を張った。


 ドラゴンの炎が炎陣の炎に触れると、より強い炎に吸収される仕組みなのか炎陣の炎にドラゴンの炎は全て吸収された。


「間に合った……大丈夫か!?」


「うん。ありがと! 少し腕に当たっちゃったぐらいだから平気!」


 そこまで大したダメージではなかったが蓮は葵にリバースヒールを掛けておいた。


「なにこれ!? さっきまでの戦闘のダメージも徐々に回復されてる! ありがと!」


「どういたしまして! それよりあいつが問題だな。出来れば殺さずに元に戻してやりたいんだが……」


 蓮と葵はエスターを元に戻す為の作戦を考えているが、中々良い考えが思い付かないまま必死に攻撃を避けている。


 しかし、ドラゴンの攻撃を避けている内に攻撃のパターンは大きく3種類と分かった。先程受けた爪による前方扇状の攻撃と口から直線上に放たれる炎によるブレス攻撃。

 最後に大きな尻尾を自身の周りグルリと1周攻撃してくる範囲攻撃だ。


 (狙うなら尻尾を使った攻撃のタイミングだな。攻撃範囲は広いが回転している際に支点となるドラゴン本体は無防備だ)


「次に尻尾を振り回したタイミングで攻撃を仕掛けるぞ!」


「え? あの攻撃中に!? そっか! 影移動で中心部分に移動すれば平気だもんね!」


「いや、影移動は博打になるから使えない。あの巨体のせいで影の範囲が広すぎて影のどこに移動出来るか分からないんだ」


「それじゃどうするつもり?」


「リスクは高いが瞬身で背後に移動しようと思う。使用後の硬直中は俺が無防備になるから、その時は葵に任せるよ。それとこの白剣は置いていくから葵の刀を貸してくれないか?」


「え? 分かった……けど何に使うの? 蓮の白剣の方がスペック高いんじゃない? 硬直しちゃった時は任せて! 何がなんでも守るから!」


「ありがとう! 俺の剣じゃきっと殺してしまうから葵の刀が必要なんだ」


 葵から刀を受け取るとすぐにドラゴンが大きく体を捻って尻尾を大きく動かしてきた。


「きたっ!――瞬身」


 蓮は瞬身によってドラゴンの首元の裏へ移動した。


 (よしっ! 上手くいったな。あとは気絶させるイメージで……)


「はぁっ! 瞬身! だぁっ! 瞬身ッ!……」


 ドラゴンが尻尾の攻撃をした瞬間を見計らって蓮は葵から受け取った刀の刀身部分を逆に向けてドラゴンの首元付近に何発も攻撃を入れていった。


『ぐっがぁぁあッ! グギィィィィッ!』


 (効いてるっ! けど、まだだっ! もっと!)


 蓮は更に加速し、数十手先までの攻撃を叩き込む事を頭に強くイメージした。


 (体の表面にある鱗のせいかダメージが思うように通らない……瞬身を止めずに改変できるか……?)


 蓮は瞬身から瞬身の間、攻撃を行うまでのほんの一瞬の内に刀にATK +そして属性付与(雷)を付与した。


 (出来た! いつの間にショートコマンド不要になってたんだ? まあいい。好都合だ)


 改変によって底上げされた攻撃力でドラゴンに攻撃を入れる。属性付与の効果もあってか攻撃が通りやすくなった。


 (なるほど。モンスターの種類によるとは思うが、属性を付与した攻撃は通りやすくなるんだな……っし、これなら!)


「そろそろ……倒れろぉぉぉぉぉッ!」


『グゥゥゥゥッ! ガァッ……』


――ドォォォォンッ!


 蓮の怒涛の攻撃を首元に集中して受けたドラゴンの巨体は支えが効かなくなり後方に勢いよく倒れた。


「やったぞ!」

「さすが蓮! まさか私の刀を逆刃で使うなんて思わなかったよ」

「昔見た漫画でやってたから試してみたら上手く行ったな。それより、エスターだ」


 蓮と葵が近寄るとそこには竜化が解けて元の人の姿に戻ったエスターがいた。


『うっ、私は……。はっ! そうだ! 確か……』



『あらら、残念。せっかく暇潰しに遊んでたのにもう終わりかぁ』



 エスターの言葉を遮り、奥の木の影から1人の子供が出てきた。まだ小学生くらいの背格好だ。


『まあいいか。面白い人も見つけれたし! てか君でしょ? ヘルンが言ってた《カスタマイズ》スキルの持ち主ってさ』


 (なんだこいつ? ヘルンを知ってるって事は管理者の1人か?)


『お前も管理者なのかって顔してるね! そうだよ。私もヘルンと同じタワー管理者の1人ヨシュカさ』


「ヨシュカ……おい、エスターやダルカンの人達を裏で操ってたのはお前か!? なんでこんな事をする?」


『くふふっ、確かに私が仕向けたけど感情を少しいじっただけだよ? どのみち遅かれ早かれこうなってたさ。それにさっきも言った通り暇潰しだよ』


『せっかく結界も壊してあげたのにな……まあいっか! 私はこの辺で帰らせてもらうよ! 何か言いたい事があるなら上に来てね! そこで待ってるよ』


「待てっ!」


『待ちませーんっ! じゃあねー! あ、最後にペラペラ私の事話されるの面倒だからダルカンの人達の記憶を少し弄らせてもらうよ』


 ヨシュカは右手を空に向けると手のひらから無数の光が飛び出し周りに散った。その光の1つがエスターにも当たったが特別体に変化は起きなかった。


 そして光の行方を見ていた蓮が目の前に目をやるとそこには既にヨシュカの姿は無くなっていた。

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最低ステータス×チートスキル【カスタマイズ】の組合せが最強だった。〜現代に現れたタワーの頂上目指し俺は成長する〜 空ノ彼方 @soranokanata_jp

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