ちょっと不思議な女芸人・センリが、ふとしたことから大変な危機に巻き込まれるも、それを得意の芸によって切り抜ける物語。
伝奇もの、あるいは時代ものの短編です。
少なからずこの世ならざるあやかしや怪異が登場し、また主人公も不思議な力を備えている、という意味で、間違いなくファンタジーと言える物語。
しかしそう聞いてパッと想像されるであろう物語とは一味違う、この主人公ならではの展開が本当に魅力的でした。
絶体絶命の危機に陥るスリリングな展開であるものの、それを切り抜ける手段が単純な「戦い」ではないところ。
知恵や力で相手をやり込めるのではなく、芸によって状況を解決するという、彼女のキャラクター性そのものがもう単純に読んでいて楽しい!
常人のそれを遥かに超える不思議な舞ということもあり、その華やかで艶やかな描写には、ついうっとりと引き込まれてしまいます。
また、個人的になにより好きなのがこの文章そのもの。彼女自身の語り、講談のような名調子の小気味よさ。
設定から展開、はたまた文体に至るまで、すべてにビシッと一本筋の通った佳作でした。読み終えるころにはすっかりセンリさんに惹きつけられていること請け合いです。